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ディセプション・メモリー編
砂漠の雨姫(3)
しおりを挟む少しだけ雨の降る夜の中央広場は異常なまでの熱気が沸る。
砂漠の寒さを一気に打ち消すほどの熱は雨を蒸発させて凄まじい湿気を作り出す。
ゾルアとアクエリアの距離は数メートル。
どちらもワンステップで届くような間合いだった。
先に動いたのはゾルアの髪と瞳は真紅に発光し、移動と同時に真っ赤な残像を作った。
腰に差したダガー型の武具を抜くと下に構えてアクエリアへと向かう。
一方、長い青髪を発光させたアクエリアは脱力した状態で果物ナイフを逆手に持つだけ。
カーキ色のマントから覗かせたのは白いワイシャツに皮の胸当て、ブラウンのパンツに黒いハイヒールブーツ。
さらに腰に差してあるのは護拳の部分が青い龍で模られているレイピアだ。
ゾルアは瞬く間に至近距離に到達すると、アクエリアの顔面目掛けて横振りの斬撃を放つ。
それは明らかに殺意ある攻撃だ。
しかしアクエリアは少しだけ上体を後ろへと逸らしてダガーの横振りをギリギリのところで回避する。
ゾルアはダガーの持つ手を一度引くと、一歩踏み込んで突きを放った。
アクエリアの心臓狙いの攻撃だった。
「"蒼水狼"……彼の腕を噛みちぎりなさい」
バックステップと同時に彼女は呟くように言った。
するとゾルアの横方向に水で模られた狼が一瞬にして出現すると、すぐさま地面を蹴って突撃してくる。
大きな口を開けて牙を剥き出しにした"水の狼"はダガーを持ったゾルアの腕目掛けて飛んだ。
「"熱弾"」
だがゾルアは水の狼を視線で捉えていた。
すぐに手のひらを広げて熱波を展開すると、水の狼は瞬く間に蒸発してしまう。
「あら、凄い熱ね」
「だろ?今度はあんたにプレゼントだ」
ゾルアは手のひらを飛び退いたアクエリアへと向けて躊躇いもなく熱波を展開した。
アクエリアも同じくゾルアに向かって手のひらを広げて言った。
「"蒼水盾"」
「なんだと!?」
ゾルアが驚くのも無理はない。
この技がどんなスキルを持っているのか知っているからだった。
前方に大きな円形状の水の盾が作り出され、ゾルアの熱波はそこに着弾する。
すると水の盾は蒸発するが、細かい粒子となった水はゾルア目掛けて飛んだ。
すぐさまクロスガードで防御するゾルアだが、細い針のように飛んだ無数の水は体に突き刺さる。
水蒸気によって視界が遮られる中、薄目を開けると猛スピードでゾルアを横を駆け抜ける青い閃光が見えた。
「ぐっ……クソが……」
太ももに激痛が走った。
視線を落とすと太ももには果物ナイフが深く突き刺さっていた。
そしてゾルアの後方から声がする。
「すごい忍耐力ね。これで膝をつかないなんて」
「……偶然かと思ったが、なぜミルの技を使える?狼も盾もヤツの技だ」
「何も特別なことはしてないわ。ただ私は見たら真似できちゃうのよ」
ゾルアはゆっくりと振り向き、鋭い眼光を向けるとアクエリアは不適な笑みを浮かべていた。
「いや、それだけじゃないはずだ。ミルの剣技は常人の上をいく。それを無傷で倒すなぞ有り得ん」
「やっぱり彼とは友達だったのね。確かに私の能力はこれだけじゃない。もし……見たいと言うなら本気できなさい」
一転して冷ややか表情へと変わるアクエリア。
逆に笑みを溢すゾルアの体からは凄まじい高温の熱が発せられていた。
そのせいか地面が次第に焼かれ、真っ赤に染まり始める。
「本気だと……?それなら誰にも見せたことがない、俺のとっておきを見せてやるよ!!」
瞬間、ゾルアの体から炎が上がった。
灼熱の炎は全身を包み込み、炎の鎧を作り出す。
炎を身に纏った姿は完全に"炎の悪魔"といった形をしていた。
「"極帝炎鬼"……真似できるものならやってみるがいい!!」
ゾルアの叫びと同時に地面に亀裂が入り、炎が吹き上がる。
少し触れただけで灰になりそうなほどの火炎だった。
「覚えたわよ……あなたの波動」
アクエリアは笑みを浮かべて言った。
その言葉に反応して雨足が次第に強くなっていく。
彼女の青く光り輝く瞳はゾルア・ガウスの波動を完璧に捉えてコピーした。
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