最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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秩序の牢獄編

静かなる炎

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時計塔の地下水路に轟音が響き渡った。

水面から出現したタコの足のような触手によってガイの体が貫かられ石壁に激突する。
砕けた石壁は粉塵を巻き上げて視界を遮った。

触手は2本。
石床に地面に叩きつけられたものと石壁に真っ直ぐに突き刺さったものだ。

1回目の叩きつけ攻撃をサイドステップで回避していたメイアは目を細めて粉塵の中を見る。
すると赤い閃光がキラリと輝いた瞬間、ズドン!という轟音と共に爆炎によって石壁に突き刺さった触手を吹き飛ばした。
瞬く間に触手は炎に包まれ、魔物はたまらず触手を水の中へと戻す。

「"瞬炎陽炎しゅんえんかげろう爆砕波ばくさいは"」

吹き飛んだ粉塵の中にあるのは炎だけでガイの姿は無かった。
だが、すぐさま四方に散った炎が収束し肉体を作る。
形を成したガイの瞳と髪は赤く発光していた。

この反撃によって水の中の魔物は完全にガイを排除対象と認識したようだ。
ガイへ向かって石床を破壊した最初の一本目の触手を動かし横薙ぎ払い攻撃をおこなう。

「"サラマンダー・エア"」

ガイはすぐさま反応してスターブレイカーを地面に擦り付けて切り上げ斬撃を放つ。
同時に巻き起こる縦一線の炎刃は、あれほど硬い魔物の触手を両断した。

「メイア!本体を!」

「ええ!」

すかさずメイアが杖を前に掲げるように構える。
水中に潜むであろう本体へ向かっての攻撃だった。

「あまり強すぎると崩落する……それなら……」

いくら石で作られた頑丈な壁面や天井であっても、メイアの炎の波動の瞬発火力では崩落の危険があった。

そこでメイアは思考し、"瞬間的な火力"よりも"持続的な火力"を選んだ。

「"絶炎"……」

そう呟くと掲げた杖の周りに夥しい数の細かい光が浮遊し出す。
さらには魔物がいるであろう水面の上にも赤く発光する細かい粒子が発生していた。

「"静かなる炎……死炎フレイム・オブ・デス"」

細かい炎の粒子は水面上に収束した。
すると大きく綺麗な炎の球体を作る。
球体は水の上で静止しているが、何度も高温の熱波を放ち始めた。
尋常ではない熱量に球体の真下の水はすぐさま沸騰し、さらには蒸発させていく。

魔物の本体が見えた瞬間、その体は一瞬にして黒焦げになり、どんな形をしていたのかすら見えなかった。
魔物の体は黒い灰になって消えると同時に、メイアが発生させた炎の球体も拡散して消えた。

「大丈夫かメイア!」

「え、ええ」

ガイがメイアに駆け寄る。
メイアは杖を石床につき足震わせていた。
一気に高出力の波動を使った反動なのだろう。

「無茶するな。歩けるか?」

「私は大丈夫よ。進みましょう」

「ああ」

心配するガイをよそにメイアは再び杖を光らせて灯りにして前へと進んだ。
水路は枝分かれするような形で横道が多くあったが、まっすぐの道が途切れることが無かったため、2人はそのまま前へと歩く。

ある程度、距離を進むと、またメイアが立ち止まった。
ガイの心臓の鼓動が速くなる。

「ま、また魔物か?」

「……いえ、この音、聞こえる?」

「音?」

ガイは耳を澄ませた。
するとかすかにだが、音楽を奏でるために使用する楽器の音のようなものが聞こえている。

「真上からか?」

「ええ。恐らくこの上にコンサートホールがあるのよ」

「それって音楽祭がある場所か」

メイアは頷いた後、石で作られた天井を杖の灯りで照らしながら隅々まで見ていた。

「やっぱり、そういうことだったのね」

「何がだよ」

ガイが言うとメイアは杖を天井のある方向へと持っていった。
照らされた天井には黒い鉄扉があった。
これは完全に天井に埋め込まれている。

「でも、そうなると不思議なのはさっきの魔物だわ。あの魔物はずっとこの水路にいたのかしら?」

「だと思うけど……それがどうかしたのか?」

「恐らく秩序造物主オーダー・クリエイターは、この水路を利用して移動している。そう考えると秩序造物主オーダー・クリエイターはかなり腕の立つ人物ね」

「そうか。ここを移動しているなら、さっきの魔物と出会っちまうな」

「それだけじゃないわ。秩序造物主オーダー・クリエイターは魔物と遭遇している可能性はあるけど、そうなると魔物をその度に見逃しているのよ」

「見逃してる?……逃げてるんじゃないか?」

「ガイはさっきの魔物と戦って逃げれると思った?」

不意な質問にガイは腕を組んで考えた。
先ほどの魔物は明らかにレベル8以上の強さはあったと思われる。
そして水の中という見えない場所からの触手による攻撃は厄介だった。

「普通なら逃げれないかも」

それがガイの出した答えだった。

「もし、私たちが秩序造物主オーダー・クリエイターを見つけてしまったら恐らく戦闘になる。油断できない相手だと思うわ」

「そうだな……」

いくら六大英雄のゾルア・ガウスを倒したからといっても、まだまだ上には上がいる。
ガイはミラから言われた言葉を思い出していた。

"今、この人に勝てる人間は世界に三人しかいない"

つまりガイより強いとされる人間はまだいる。
もし秩序造物主オーダー・クリエイターがミラの言う"2"か"4"か"9"という数字に当てはまる人物だとするなら、ゾルア戦同様の死闘が予想できた。
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