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秩序の牢獄編
パズル
しおりを挟むコーブライドの地下水路。
道は人間2人が並んで立てるほどの幅があり、横奥は水が川のように勢いよく流れている。
石造りの水路は闇を深めた。
これはクロードの波動によるものだった。
だが正面からハイスピードで突っ込んでくる"黒ずくめ"は構わず数十メートルほどの距離を一気に縮めてくる。
こちらも"波動"による加速で間違いない。
地面スレスレで斜め下に構えた細剣をクロードの目の前で勢いよく切り上げる。
クロードは上体を後方へと倒して、間一髪のところで斬撃を回避した。
「凄いスピードだ。風の波動か」
そう言って真剣な表情へと変わるクロード。
黒ずくめは、もう一歩踏み込んで振り抜いた剣を両手持ちにし、すぐさま地面へ向かって縦一線の斬撃を放つ。
この斬撃スピードも凄まじい速さで、明らかに人間の筋力だけのものではなかった。
「"反射"」
クロードはバックステップした。
黒ずくめの斬撃スピードを考えれば回避は不可能であったが、クロードのバックステップも異常な早さをみせた。
「!?」
「一度目の君が加速するために使った波動は吸収した。それを使って回避しただけだ」
クロードが着地したのは数メートル後方だ。
黒ずくめは困惑……いや警戒しているのか剣を振り抜いた体勢から動けずにいた。
「僕の波動は吸収……というより、なんでも収納できる。それは"波動"であってもね。そして収納されたものは、こうやって自分で使えるのさ。ただ問題は先に相手に波動を使わせる必要があるのがデメリットなんだ。あとは生きてる物は収納できない。ああ、魔物は別だよ。あれには生とか死の概念が無いからね」
「……」
「気づいていると思うけど、僕は君の"二度目の斬撃に使用した波動"も吸収している」
黒ずくめはハッとしたように剣を前に構え直す。
「"反射"」
クロードの目の前に斜め横に黒い線のようなものができた瞬間、そこから目にも止まらぬスピードで風の斬撃が射出される。
それは瞬く間に黒ずくめに到達し、構えていた細剣に直撃。
黒ずくめはバンザイする形で後方へと仰け反った。
「逃すわけにはいかないからね。出し惜しみは無しでいく。さらに"反射"だ」
クロードが言うと石造りの天上に大きな闇の幕ができ、黒ずくめの後方の数メートル先にズドン!という轟音と共に何かが落ちる。
巨大な岩のような物体。
それは以前にネルーシャンで戦った少女アイヴィーから吸収した"土の巨兵"だった。
「"ダークネス・サード・迷子人形"」
さらに動きは続く。
クロードの背後から若い女性が出現した。
女性は目が虚でブロンドのショートカット、グレーのスーツに膝まであるスカートを穿いていた。
「"マーリン・鉄球粉砕"」
"マーリン"と呼ばれた女性は腰に付けていた鉄球を手に取ると、一歩踏み込んで黒ずくめ目掛けて投げる。
同時に爆風が周囲に吹き荒れて、鉄球はさらに加速して直線に飛んだ。
ここまで黒ずくめが仰け反った状態の数秒間の出来事であった。
そのため、完全に無防備な状況で黒ずくめの左脇腹にマーリンの鉄球が直撃することになる。
「ぐっ!!」
ドン!という鈍い音が鳴り、黒ずくめは男性とも女性とも判断がつかないような声を上げる。
上体が前に倒れるほどの衝撃を受けるが、鉄球の勢いは止まることなかった。
そのまま黒ずくめの体は後方へと吹き飛び、土の巨兵へと激突する。
すぐさま巨兵は腕をクロスさせて黒ずくめを拘束した。
「僕はこうやって手に入れた力をパズルのように組み合わせて戦うんだ。戦略はその場で一瞬で錬る。自分の持っている駒と相手の戦い方、地の利を考え、状況によって僅かに変化させていく。なかなか面白いだろ?」
「ぐ……」
「君はかなりの手練れだと思うよ。でも恐らく波動数値が極端に低いんだろう。それは君の波動を収納した時にわかった。千か二千か……まぁ、その辺だろう」
そう言ってゆっくりとクロードが歩き出すと、横に立っていたマーリンは糸の切れた人形のように力なく地面に倒れ込む。
硬いはずの石床はドス黒く染まった泥になり、マーリンが倒れると黒い飛沫を上げた。
そのままマーリンの体はドロドロとした地面に消えていった。
「さて、その顔を見せてもらおうか」
焦らすように静かに歩み寄るクロード。
やはり浮かべる笑みは不気味なものだった。
瞬間、なぜか土の巨兵がバン!と弾けるように消えた。
そして黒ずくめが前に倒れ込むと同時に、その後ろから"ブーメラン"のようなものが凄まじいスピードで空を切って飛んできた。
クロードはすぐに片腕を上げてガードすると、"何か"が瞬時に巻き付いた。
見ると両先端に黒い石がついた長い紐が高速回転して飛んできたのだ。
長い紐はクロードの腕にぶつかった瞬間、巻き付いてしまう。
クロードはすぐさま思考した。
「"封波石"か」
それに気づくと同時に、目の前に石壁が下から突き上げるようにして現れて道を塞いだ。
石壁が覆ったのは流れる水路含めて全面だった。
「僕の波動を封じて追尾を阻止したか……協力者かどうかはわからないが、こいつもかなりの手練れだね」
クロードはそう言ってニヤリと笑った。
そしてゆっくりと腕に巻かれた紐を取って川に投げ捨てる。
同時に石壁は崩れて無くなった。
正面にいたはずの黒ずくめは姿を消していたが、すぐ先には石床に落ちている物があるのが見えた。
クロードはそこまで歩くと落ちている"それ"を見て笑みを浮かべる。
「なるほど……仕事が早いな。だが、こうなれば少なくともアレは"もう一つ"あるね」
そう呟いた瞬間、水路内にドン!と響き渡る音が聞こえた。
クロードの後方、ガイとメイアが向かった方からだった。
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