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秩序の牢獄編
内部
しおりを挟むコーブライドで起こった飛び降り事件は秩序造物主が犯人。
確証があるわけではなかったが、その可能性が最も高いと言える。
今回、武具屋で聞いた情報によって犯人像は狭まった。
クロードの推理を聞いていたメイアは真っ先にそれに気づいた。
「でも、そうなると領主のサンドラさんと騎士のジェニスさん……それだけでなく、ある程度の地位の貴族も犯人ではなくなりますね」
「どうしてだよ」
「昨日の開催された音楽祭よ。音楽祭は深夜の鐘の音まで続いたから、出席者は犯人ではない。サンドラさん、ジェニスさんは外れるのよ」
「ああ、そっか」
この事件は深夜の鐘が鳴ってる最中に起こったとされる。
つまり深夜の鐘の音まで続いていた音楽祭に出席していた者たちはカトレアを殺害することは不可能であった。
「でも波動で何とかならないのか?」
「もしかすればワイルド・ナインならできたかもしれないね。昔の仲間に遠くの位置まで高速移動する者がいた」
「それって……」
メイアが眉を顰めて問いかけようとした。
しかし、途中で思い止まり口を閉じる。
察したクロードが"どうした?"と聞こうとした瞬間、それより先に口を開いたのはガイだった。
「それにしても腹減らないか?何か食べに行きたいんだけど」
「残念ながら僕たちには金が無い。この事件を解決できれば武具屋からの報酬はあると思うけど少し時間は掛かるね。ギルドで他に簡単な依頼を受けてくるしかあるまい」
「じゃあ俺だけでもできるような依頼探してくるよ」
「"猫探し"とかいいんじゃないかな?簡単そうだ」
「それ余計に腹が減るだろ」
ガイは皮肉を言いつつメイアとクロードと別れて1人、ギルドへと歩いて行った。
時計塔の噴水前に残った2人は、さらに事件解決の糸口を探るべく思考を続けた。
____________
時計の針は午後2時を差していた。
コーブライドは北の入り口付近の町ではあったが、そこまで寒さは無く日差しが出れば暖かい。
噴水前に立つメイアとクロードは次の動きを考えていた。
「貴族が犯人から外れるとなれば、やっぱり高ランクの冒険者でしょうか?」
「可能性はあるね。この町で最も力のありそうな冒険者はさっきいたデュラン・リンバーグか。どうやら他の冒険者も束ねているようだし」
「私たちもギルドに行きますか?」
「いや、もう少し時計塔を調べたい。それと、まだ気になることがある」
そう言ってクロードは歩き出し、メイアも後に続く。
向かったのは時計塔の方だ。
「私も気になることがあります」
「なんだい?」
「カトレアさんが死ぬことになった理由です。犯人が秩序造物主とするなら、なぜカトレアさんを殺害したのでしょうか?」
「ジェニスが言っていたように、"カトレアが秩序造物主を探していた"というのが最も有力だろうね。近づきすぎたから殺された……といったところか」
「ええ。でも、ずっと私が気になっていたのは"なぜカトレアさんが秩序造物主を探していたか?"です。それが犯人を見つける糸口だと思います」
「同意見だ。時計塔を調べたら、またジェニスに会いに行ってカトレアの身辺を聞こうか」
「そうですね」
時計塔へと移動した2人。
石を段々と積み上げて作られた真四角な建物だった。
正面には何も無いが、左側面の外壁を見ると一つだけドアがる。
恐らく時計の整備や掃除をするために中に入れるようになっているのだろう。
クロードは先行し、そのドアノブに手をかけて回した。
「あ、あの!勝手に入ったらダメなんじゃ!」
「構わないさ。どうせ騎士団は朝のうちに調査を済ませているだろうし。多分、誰も来ないだろうから」
メイアが止めるのを無視して、クロードは時計塔の内部へと入った。
ため息を吐きつつメイアも後を追う。
時計塔の内部はかなり大きい広間のようになっており、上まで吹き抜け。
そして渦を巻くように階段が上へと伸びていた。
床には古臭い絨毯が敷かれている。
石造りの壁面とは違って、絨毯は真っ赤な色で綺麗な花の模様が描かれていた。
しかし整備に来る人間か、掃除に来る人間かはわからないが、その者の靴底がよほど汚いようで、絨毯は土まみれだった。
「ここは予想以上に汚いな」
「外とは大違いですね」
絨毯の上を歩くたびに土埃が舞う。
たまらずメイアは袖で鼻を覆った。
「この部屋には何も無さそうです」
「いや……」
クロードは眉を顰めて絨毯の上を歩き回る。
その度にコツコツと石を踏む音が聞こえるが、ちょうど階段の最初の一段目付近に来ると"カン"という音に変わった。
「この下に何かあるな」
「え?」
メイアも鼻元を抑えながら、その場所へと移動する。
部屋の角ということもあって絨毯は少しだけ捲ればいい。
クロードはしゃがみ込んで絨毯を捲ると、そこには黒い鉄のような素材でできたドアが床に埋め込んであった。
「開けられるんですか?」
「いや、鍵が掛かってる」
鍵穴のあたりにはトランプのスペードのマークのようなものが刻まれていた。
「波動はどうでしょうか?」
「これは封波石で作ってあるドアのようだ。恐らく床も真四角に封波石で囲ってあるだろうね」
「怪しいですね」
「うむ。この時計塔には地下があるようだが、これでは行けないな」
「そうですね……」
諦めざるおえなかった。
メイアの波動で破壊することもできそうだが、それでは床どころか時計塔が全て崩れてしまう可能性もある。
ここは一旦、引くしかなかった。
「とりあえずジェニスのところに向かおうか」
「ええ。カトレアさんの身辺を探れば何かわかるかもしれません」
クロードは絨毯を元に戻して立ち上がると、メイアと共に時計塔を出た。
2人は時計塔の内部では何の情報も掴めないまま、再びジェニスに会うため、この町の騎士団本部へと向かった。
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