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秩序の牢獄編
時計塔
しおりを挟む街灯が町を照らし始めた夕刻頃。
ガイとメイア、クロードの3人はこの町の領主である"サンドラ・ガンドッド"の勧めによって、中央部にあるという時計塔を目指していた。
メイアは心弾ませる。
歴史的と言わないにしても、珍しい建造物であることは間違いない。
そう考えると自然と口元が緩んだ。
向かう道中、すれ違う人々は皆が笑顔で挨拶してくる。
身なりもよく、平民と貴族との差もないように思えるほどだった。
「ある意味、統率されている……と言っていいのか」
クロードが吐露する。
不気味なほどに徹底された市民の対応に眉を顰めていた。
しかし、このクロードの発言を聞いても笑みを溢すメイアは口を開く。
「気分がいいのは確かですけどね。私は好きですよ。やっぱり平和なのが一番だと思いますから」
「果たしてこの平和は偽りなく永遠に続くのか。僕はそこが気になるけどね」
「永遠は無理だと思います。人間の寿命は短いですし。すぐに代替わりして、それがまた争いの火種になったりすると思います。それより早く何か事件が起こって壊れる可能性もありますよ」
「面白い思考だね」
そう言ってクロードはニヤリと笑う。
この会話にはガイは全くついていけなかった。
日も完全に落ちる頃、ナイト・ガイのメンバーは時計塔に到着した。
その前から薄らと姿は見えていたが、近くで見ると確かに圧巻の様相だ。
約30メートルほどの石造りの巨大な建造物。
四角形をそのまま上に伸ばし、25メートル付近に大きな時計がある。
それより先は突き上げるように細くなり、間には鐘が見えるように四角く、くり抜いてあるようだ。
剣のように鋭い分針、時針。
そしてゴールドに輝く大きな鐘がとても印象的だった。
メイアは目を輝かせて走り出す。
先ほどの大人びたクロードとの会話が嘘のようなはしゃぎぶりだ。
時計塔の真下に行くには必ず十段ほどの階段を降りる必要がある。
階段は円のように作られており、その円を踏むように時計塔が建てられていた。
時計塔の前には大きな噴水。
周りには、やはり円を踏むように店が輪のように建ち並んでいるが、夕刻過ぎということもあってかどこも開いているところはない。
メイアは階段を駆け降りると噴水を過ぎて一直線に時計塔の真下へ向かう。
見上げると、やはりサンドラが言ったように圧巻の光景だった。
「凄いです!こんな建物見たこと無い!」
満面の笑みを浮かべるメイアの元にようやく辿り着いたガイとクロード。
ガイは半ば呆れ顔だ。
「そんなに凄いか?」
「ガイはこの建物の凄さがわからないの?」
「わかるわけないだろ」
「ガイはまだまだ子供ね」
「お前のはしゃぎぶりのほうが子供だろ」
何気ない兄妹の会話にクロードが苦笑いしつつ、近づいた。
ある程度、進んだところで立ち止まる。
そこはメイアが立っている場所から少し後ろだった。
クロードは足で軽く地面を横になぞっていた。
「……」
「どうしたんだクロード?」
「……いや、なんでもない」
ガイが首を傾げていると、メイアの小さな悲鳴が聞こえる。
メイアを見ると何か異様な物を見たかのように後ずさっていた。
「どうかしたのか?」
「あ、あの人……」
時計塔の外壁にいた黒い影。
暗闇でよくは見えないが、目を凝らしてみるとボロボロの布の服を着た白髪の人間であることがわかる。
「……わからん、忘れたんだ……ワシの仕事は……なんだ……」
何か妙なことを呟いている。
声から察するに老人であろう。
あまりの突然の出来事にガイとメイアは動けずにいた。
「何か……とても大事な仕事なんだ……忘れるなんてもってのほかだ……だが……思い出せない。そうだ……スージーに会えば……」
老人はそう言いながら壁面に何度も頭を打ちつけている。
今のこの町に相応しくない服装と行動に唖然としていたが、ようやくガイが口を開いた。
「な、なんかヤバそうだから、ここを離れよう」
「え、ええ」
変な事件に巻き込まれて明日の依頼に支障が出るのは避けなければならない。
クロード含め、ナイト・ガイのメンバーはすぐにその場から立ち去り、この町の宿を目指した。
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