最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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フレイム・ビースト編

帰還(2)

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北の砦、ベンツォードに帰還してから数日が経った。

帰還してすぐは厚い雲に覆われていたが、今は不思議にも快晴であり、やはりクロードが言ったように雪が降る日よりも寒く感じる。

メイアは石造りの砦の最上階にある小窓から、昇る太陽を眺めていた。
ふちに両腕を乗せると石の冷たさを感じ、さらに吐く息はハッキリとした白を描く。

いつものように下を向くと、複数に立ち並ぶ家屋の一つから人が出来た。

短い赤い髪の少年。
兄であるガイだ。

気のせいかゾルア・ガウスとの戦闘の後は少し雰囲気が変わった。
自分と同じく眠れぬようで、毎日のように早く起きては西門の方へと歩いていくのが見える。

「やっぱり気になるわよね……」

クロードとローラのことだ。
ガイは口は悪いが、仲間を大切に思う優しい心を持つ兄だった。
もしかすればクロードがローラを連れて帰って来るのではないかとも思っているのだろう。

メイア自身もそれを期待していないわけではなかったが、合理的に考えると恐らくどちらも死亡している……そう考えるのが自然であった。

「はぁ……なんで私はこうなのかしら」

再び、ため息をつくと白い息が空中に広がった。
いつから自分がこうなってしまったのかはわからないが、兄と違って理論理屈で物事を考えてしまう。
ガイも長兄であるヴァンも感覚的に行動することが多く、それがメイアを多く悩ませた。

だが逆に羨ましい部分もあったのだ。
壁にぶつかったら何も考えずにぶち壊そうとする性格。

とてつもなく真っ直ぐで裏表がない。

自分はどちらかと言えばクロードと似ている気がする。

"こんなこともあるだろう"

冷めた感情で物事を見ている気がした。
今まではこうではなかったが、ここ最近は特に他人に対しての興味が薄れたように感じる。

「考えすぎよね」

そう呟いてから、両手で顔を擦る。

メイアは考えないようにしていたのだ。
自分が自分でなくなるような……妙な感覚が常に付き纏っていることを。

____________


ガイは自然と目を覚ますとベッドから、ゆっくりと上体を起こした。

窓の外はまだ暗い。
いつもなら眠気に襲われる時間帯ではあるが、なぜか一度起きたら眠れなくなる。
ここ最近はいつもそうだ。

ため息混じりにベッドから降りると身支度を始める。

近くのテーブルの上に置いてある一本の短剣。
グリップには"少し赤みを帯びた黒い布"が巻いてあり、鞘に収まっている。
それだけを腰に差すと入り口へと向かった。

直近の変化といえばこれだろう。
ブラック・ラビットのアジトで入手したロイヤル・フォースであるスターブレイカーという武具。
装備するのは、この一本だけ。

あれほど体の至る所に装着していたダガーは全て外したのだ。

防寒着は羽織らずにガイは木造の入口ドアを開けた。
すると強く寒風が吹いた。
しかし、なぜか全く寒ない。
体の中で何かが燃えたぎっているようで暖かい。

背に朝日が登るのを感じつつ、ガイは西門へと向かった。

「いい加減、認めて先に進むことを考えないとな」

クロードとローラのことだった。
ヨルデアンの猛吹雪によって遭難したであろうクロード。
そしてローラはゾルアが言うには"始末した"ということだが、これは死亡を意味する。

冒険者にとって別に珍しいわけでもなんでもない話だった。
命掛けで旅をしているわけだから、こういうこともあるだろうが、なかなか納得できるものではない。

だが、ずっとここにいるわけにもいかない。
先に進まなければ兄がいると思われるロスト・ヴェローには永遠に辿り着けないのだ。

「元々は二人だけだったんだ……大丈夫さ」

旅の始めはメイアと2人だけだった。
しかし、すぐにクロードとローラが仲間になって、それが当たり前のようになっていた。

"前に進むべきだ"

数日もの間ベンツォードにいるが、ガイは滞在を今日で最後にしようと心に決めた。

明日にはここを出で近くの街を目指す。
そしてギルドへ行ってランクを上げて最終目的地のロスト・ヴェローに行く。
もう終点は目前なのだ。

ガイは歩きながら深呼吸した。
冷たい空気を多く吸うが、やはり寒くはない。
自分の中で何かが変わったようだった。

決意が固まると足取りも軽くなった気がする。
降り積もった雪をテンポ良く踏み締めていくと、気がつけば西門に辿り着いていた。

ガイは広大な大地に視線を走らせる。

背に当たる日の光が大地を照らし始めると、ゆらゆらとこちらに向かう一つの人影があるのが見えた。

「なんだ、あれ」

ガイは目を細めた。
歩いて来る人影は、黒い髪でボロボロの薄汚れた灰色のローブを着用した青年。

見間違うはずはない。
それは間違いなくクロードの姿だった。
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