最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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フレイム・ビースト編

銀色の特攻

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ローゼルが放った矢は数十メートル離れたゾルアへと高速で向かった。

だがゾルアは動揺すらしない。
そんな必要がないほど単調で面白味もない攻撃だったからだ。

一直線に飛翔する矢を少しだけ体を逸らして回避する。
わざわざ手を出すことも波動を使うこともしない。

ゾルアは先ほど掴んだ矢を地面に投げ捨て、体をローゼルの方を向けてゆっくりと歩き出す。

「お前ほどの人間なら戦いにすらならないことなんて、わかってるだろう」

「わかっていますよ。ですが決して引くわけにはいかない」

ローゼルの殺気を感じ取るゾルアは眉を顰めて立ち止まった。
弓を構えようともしない姿と放たれる殺気の差異に違和感を覚える。

瞬間、後方で爆風が巻き起こると、通り過ぎたはずの矢がゾルア目掛けてハイスピードで戻ってきた。
ゾルアはすぐさま反応し、漆黒のロングコートを靡かせ回転しながらかわす。

「ほう。なかなか精密な波動操作だ」

「まだ終わりはしない!!」

さらに爆風が吹き荒れるとゾルアを中心として荒々しく竜巻が起こる。
ゾルアが回避した矢は竜巻の中へ消えた。

「なかなか厄介な攻撃が始まりそうだな」

ニヤリと笑ったゾルアへ向かって竜巻の中から勢いよく矢が飛び出す。
かろうじてそれを回避すると、矢はまた竜巻の中に消えた。

しかし、すぐに矢は中央に立つゾルアへ向かって竜巻から飛び出す。
それは矢が入った方向とは全く違う場所からだった。

「なるほど。面白い攻撃だな」

「平気でいられるのも時間の問題です。これだけでは終わらない」

竜巻の外から聞こえるローゼルの声。
同時にジャラジャラという音が竜巻の中で聞こえた。
ゾルアはすぐに四方を見る。
竜巻の中で夕焼けの太陽が反射して光る物体が複数あることに気づいた。

「貴様……持っていた矢を全部使ったのか」

「"無限閃矢インフィニット・アロー"」

竜巻の中から飛び出す無数の矢は全てがゾルアへと向かう。
しかも四方八方から高速でランダムな攻撃だ。
ゾルアは全ての攻撃を丁寧に回避していくが、再び竜巻へ戻る矢は少しの時間差もなく再度飛び出して攻撃へ移る。

「これではらちが明かないな……不本意だが、あんたの決意に敬意を表して俺の"炎"を見せようか」

ゾルアはそう言うと一瞬だけあった矢の攻撃の合間に地面を勢いよく右拳で殴った。
すると熱波が幾度となく広がり、竜巻から飛び出す矢を空中で停止させた。

「焔魔三獣・"音姫ノ焔狼"」

熱波によって積もった雪は吹き飛び、剥き出しの地面に四方へと亀裂が入る。
そして亀裂からは大きく炎が吹き上がった。

「これが"俺の炎''だ。受け取るといい」

そう言い放った瞬間、亀裂から上がった炎がゾルアの目の前へと収束して狼の姿を模る。
狼はゆっくりと空を見上げると"遠吠え"をあげた。

凄まじい熱量の熱波がローゼルの竜巻を吹き飛ばし、さらに半径数十メートルの地面の雪を一瞬にして溶かしてしまう。

ローゼルの体も炎に包まれ、草が風に靡くごとく空中へと飛ばされるが、すぐに鈍い音を立て地に落ちた。
ゾルアが指をパチンと鳴らすとローゼルを包んでいた炎が消え、同時に炎の狼も風と共に消えた。

ローゼルの服はほとんど残っていない。
体は焼け爛れて呼吸も浅かった。
そこにゆっくりと近づくゾルア。
うつ伏せに倒れたローゼルを見下ろしていた。

「ここまで戦って得られたものはあったのか?」

「あ、あ……が」

「炎を吸って喉が焼けたようだな。そう長くはないか……俺は無駄死にだと思うがね」

無表情のゾルアは倒れたローゼルに手を伸ばそうとしていた。

「できたらもう少し早く出会いたかったものだ。お前のような"いい女"ってのはなかなかいない」

そう言ってゾルアがローゼルの髪を掴んだ瞬間のことだった。
正面に妙な"熱"を感じ、ローゼルから手を離すとバックステップをする。
だが"熱"は一直線にゾルアへ向かって直撃すると大爆発を起こした。
衝撃で数十メートル吹き飛ばされたゾルアはクロスガードのまま滑るように地面に着地する。

「これは……あのガキの炎か?」

目を細めて正面を見る。
サングラス越しに見えるのは2人の男女だ。

女……というよりは少女といったところか。
大きな杖を構えてゾルアを睨んでいる。
もう1人は変な髪型をした男。

男は着ていた白い厚手の防寒着を脱ぐとローゼルを包んで抱き上げた。
体格がよく背が高い男だった。
真っ白なノースリーブの拳法着のような服装。

「貴様、何者だ?」

ゾルアが鋭い眼光と共に言い放つ。
構わず男は振り向いて、少しだけ歩くと片膝をつきローゼルを優しく地面へと寝かせた。

「何者かと聞いている」

男の背中にある黒い剣。
ゾルアは眉を顰めた。
勘が正しければ自分が警戒するべき相手の1人だ。

「アッシュ・アンスアイゼン……それが俺の名だ」

「やはりか。まさか現在の騎士団最強の男と会えるとは光栄だな」

「俺も……かの有名な盗賊団のボスと会えるとは思ってもみなかったよ」

少し間があってからアッシュが立ち上がって振り向く。
冷ややかな表情だが、凄まじい殺気を放っていることは簡単にわかった。

「お前ら、盗賊団の目的はなんだ?」

「騎士団を潰して死神を殺す」

「なんだと?」

"死神"という単語はガガルドからも聞いた。
一体、何を指しているのかアッシュにはわからなかった。

「まぁグレイグも同じことを考えて騎士団を作ったんだろうが、俺とヤツとでは相入れないんだよ。ある意味ヤツは死神に近い考え方だからな」

「どういうことだ?」

「嘘や隠蔽を重ねてでも他者を利用して自分の目的を達成する。そんな男だ」

「"グレイグ"とは……誰のことを言ってるんだ?」

「第一騎士団長様さ。お前も会ったことくらいあるだろ?」

"グレイグ"というのは六大英雄の名であることはアッシュも知っている。
そして目の前にいるのはゾルア・ガウスという名の男。
これも六大英雄の名だ。
さらに最近出会ったクロードも六大英雄の名である。
これは偶然なのだろうか。
まさか本当に六大英雄が集まっているのではないか?
アッシュの混乱は増した。

「なぜ……六大英雄の名がこんなに集まる?」

「さぁ?それは俺にもわからん。だがもうそろそろ終幕だろう。残りは二人だけだ。どちらが先に死神を狩るかさ」

「"死神"とは一体誰なんだ?」

「答える必要はない。お前には関係の無い話だ」

「ここまで巻き込まれて、"はいそうですか"とはいかん」

そう言って背負った剣を黒い鞘から引き抜く。
さほど長くはない銀色の剣だった。

「イース・ガルダンで闇の波動は攻略した。次はその剣だな」

ゾルアは右腕を前へ出して、そのまま横に肘を曲げる。
すると体から熱波が幾度となく広がり、漆黒のコートを靡かせた。
それを見たアッシュは猛スピードで走り出す。

「嬢ちゃん、援護を!!」

「はい!」

少女メイアは杖を前に構えると波動を発動させた。
炎が空中に収束し始め、大きな球体を作る。

「ほう、発動が早いな。だが俺の炎の前では子犬みたいなものだ」

再び地面に亀裂が入り、大きく炎が吹き出す。
ゾルアを中心に熱波が何度も展開し、同時に漆黒のコートが真っ赤に染まり、逆に血管のように伸びていた線が黒くなっていた。

「さて"選別"させてもらうよ。俺と戦う資格があるのかどうか……焔魔三獣・"隻眼ノ焔鳥"」

放たれていた熱波は逆にゾルアへと戻り、熱は右前腕へと収束して炎が形を成す。

大きく羽を広げた"炎鳥"が出現したのだ。

炎鳥は額に縦に一本だけ傷のような線がある。
広げた翼を一度だけ羽ばたかせると熱波が広がり、それによって炎の羽が無数に散らばり空中に停滞した。

アッシュは炎の羽を封波剣で切り裂きながら走る。
ゾルアが言った"選別"という言葉は気になったが、考えてる暇はない。

ローゼルの仇を討つ。
頭の中はただそれだけだった。
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