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フレイム・ビースト編
絶炎
しおりを挟む砕けた氷の結晶たちは地上にいるアッシュとメイア目掛けて飛んだ。
スピードは無いが、その結晶の数は回避しけれないほどの量。
目が見えないガガルドにとって、耳で捉えられる情報こそが全てと言っていい。
アッシュの叫びを聞いただけで、自分の心臓が高鳴って興奮しているのがわかる。
数十メートルほど突き上がった氷の柱に乗ったソファに腰掛けるガガルドは笑みをこぼした。
「"色"なんてものは、もう何年も見ていない。ボスに顔を焼かれてからというもの光すら見えなくなってしまった。蒼い氷の中に咲く赤い花……血液で彩られた芸術をこの目で見れないのは非常に残念だ」
言葉とは裏腹に心が弾む。
やはり"人間の死"というのは誰にとっても特別なものとガガルドは考える。
それが仲間であろうと敵であろうとだ。
無数に生成された鋭利に尖る氷の柱たちは地上へ向かい激突し始める。
着弾するたびに氷の結晶を巻き上げ、最後には完全に粉塵によって見えなくなった。
「まぁ久しぶりに楽しめたよ。名も知らぬ少女よ」
笑みをこぼして勝利の余韻に浸るガガルド。
後方にいたメイアの元へ走ったアッシュも無事では済まないだろう。
「また退屈な日々が始まるのか。こうも興奮する出来事が起こるのは果たして……」
ガガルドがそう言いかけて妙な違和感を覚える。
額から何か伝うものがあった。
幾分か時が進んだ頃、違和感の正体がわかり口を開く。
「暑い……凄まじい熱を感じる……」
その瞬間のことだった。
キラキラと光って宙に舞っていた細かい氷の結晶が全て熱波で吹き飛び、さらに巨大な焔の竜巻が天を貫くごとくに伸びる。
「何が見える?」
ガガルドの言葉で毛皮の中から細い指が差し出される。
毛皮が少しだけ開くと覗かせたのは鋭い眼光だけだ。
「炎の竜巻。私たちの"リヴァル・ウォール"のようだわ……」
「なんだと!?」
「恐らく私たちの波動形状を模倣している。不可能ではないにしても可能とも言えないわ。ありえないほどの波動構成技術であると言うしかない」
「天賦の才か」
焔の竜巻からは夥しい数の火球が放たれ、曲線を描いてガガルドが座するソファの下の氷柱に向かった。
「どれだけ数値を重ねたんだ……私たちは二人で数年掛けてリヴァル・ウォールを完全させたんだぞ」
ガガルドの叫びが空を切る中、焔の竜巻から飛んだ火球が氷柱に着弾し続け、最後にはソファが勢いよく地面に叩きつけられる。
衝撃で氷の大地へと投げ出され数回ほど転がった。
ガガルドが力なく呟く。
「何が……見える?」
「"赤い瞳"の美しい少女ですね」
「なるほど、そういうことか……女の冒険者の方は我らのボスと同じ"炎の一族"だったのか。相手が悪かったな」
それだけ言って顔を少し上げると何か鈍い衝撃が顔面に走り、ガガルドは後方へと飛んだ。
体は氷の壁に叩きつけられると力なく地面に倒れた。
「不意打ちみたいで悪いねぇ。まぁ俺も自分自身が汚い大人ってのは承知の上なんだ」
笑みを浮かべつつアッシュは言った。
そしてすぐに後方へと目をやる。
そこに立っている少女は、おおよそ少女というには大人びているようにも見えた。
真っ赤に染まった眼光はいまだにガガルドへと向けられている。
その瞳にはアッシュも思わず息を呑む。
「"炎の一族"とは……神話だな」
そう言うと同時にメイアは途端に力なく、その場に倒れ込んだ。
全ての力を使い果たしたせいかメイアは気を失ってしまったのだ。
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