最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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フレイム・ビースト編

暴虐なる者

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木々が生い茂る森林の中、ローブを靡かせて走る紫髪のデュオス。
降り積もった雪に足を取られそうにもなるがスピードは落とさなかった。

向かう先は槍を遠投した方向だ。
デュオスの感覚的には直撃で間違いは無い。
確実にカッツェには致命傷を負わせただろう。

鈍い音が鳴った場所に辿り着き足を止める。

白い雪の上には飛散したおびただしいほどの血液はあるが、その主もデュオスの武具もそこにはなかった。

周囲を見渡すが生き物の気配すらない。

「このままアジトに撤退したのか……」

デュオスは記憶の中から"カッツェ"という男のことについて考える。

理由は不明だが、数十年ほど前に彼の住んでいた村は王宮騎士団に焼き払われた。
その時に顔に大きな火傷を負ってからフードを深く被って隠している。
恨みからかレイの入団には最後まで難色を示していた人物。

波動属性は不明。
どうやれば、あの鎖型の武具を操ることができるのか全くわからない。
ブラック・ラビットの中ではシグルスとホロに次ぐ戦闘力ではあるが、彼らとは違い劣勢に陥った時のメンタルコントロールの高さは異常だ。

そう考えるに撤退はまずありえない。

組織で一番、騎士団に恨みのある人間が元騎士を殺せるチャンスが巡って来た。
そのチャンスをこのまま逃す手はないだろう。
元々、生かして連れてくるように言われた命令に背いてまでの行動。
カッツェにはレイが無実かどうかなんて関係なく、確実にこの絶好の機会を生かすつもりだ。

「……」

デュオスは全神経を集中する。
そして木々の葉が風に靡いた瞬間、降り積もった雪の中を這う"何か"が無音でデュオスまで辿り着く。

すぐさま反応してバックステップすると、同時に2本の鎖がXを描くように突き上がった。

「やはり……ここで確実に僕を殺す気か」

後ろに飛んだデュオスが着地すると、その場所目掛けて瞬時に2本の鎖は折れ曲がり追尾する。

さらにバックステップ……さらなる追撃と何度も攻撃と回避が繰り返された。

「お前はワタシの相手ではない。いさぎよくここでバラバラになってしまうがいい」

どこからともなく聞こえるカッツェの声。
その声は反響していて位置の特定は不可能だった。

カッツェの猛攻によって遂にデュオスは大木を背負った。
一本の鎖が直線を描いてデュオスの顔面へ向かう。

間一髪のところで首を横に少しだけズラして回避することに成功する。
鎖は大木に突き刺さって張ってる状態だ。
そこにデュオスは躊躇ためらうことなく鎖を握った。

「油断したな!!雷せ……」

波動を発動させようとした瞬間のことだ。
自分の背中付近に激痛が走った。

「があ……」

「誰が油断したと?それはアナタの方だ。同じてつは踏まない。それがワタシのモットーなんでね」

デュオスは両膝を着いて前に倒れ込んだ。
大木には穴が空き、そこから鎖がデュオスの背を攻撃するように突き出ていた。

「アナタの体ごと貫通させるつもりだったが、木が太すぎたな」

「く……」

「そうは言っても起き上がれまい。これでも昔は小さな村の医者だったんだ。人体のどこを攻撃すれば人間が動けなくなるかはわかる」

鎖は引き戻り森の中に消えていく。
しばらくして、ゆっくりと雪を踏み締めて近づく者がいた。

ボロボロの黒いローブの男。
歩く度にその中から金属が擦れるような音を響かせていた。

「では、あたなを殺してシグルスを追うことにしようか。最後に何か言い残すことはあるかな?」

「……ク」

「え?」

何を言ったのか聞き取れなかった。
カッツェは倒れるデュオスに近づいて片膝をつく。
そして顔を落として耳を澄ませた。

「今、何と?」

「……アイザック」

「……」

そこからはただ一瞬の出来事だった。

無造作にカッツェの"首"だけ雪の上に落ちるが出血すらしていない。
鋭利な刃物による切断のように思えたが、そのスピードは思考することもできないほど。

"自分がどうなっているのか?"

それを考える余裕すらなく、カッツェは絶命した。
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