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フレイム・ビースト編
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しおりを挟むベンツォードは分厚い雲によって覆われ、朝の日差しは遮られていた。
ゆっくりと静かに降り続く雪で視界も悪い。
ガイがいたのは砦の外。
勢いよく飛び出したのはいいが行くところはない。
寒さで赤らめ、ただ降り続く雪中を進むだけだ。
砦から居住区に出る。
そこでようやくガイを追いかけてきたメイアが背後から声をかけた。
「ガイ!」
「なんだよ」
なんとなく追いかけてくることはわかっていた。
慰めを期待していたわけではないが、こんな時はメイアが必ずフォローに来る。
立ち止まらずに歩き続けるガイの横にメイアは並んだ。
ガイは不貞腐れながらも口を開く。
「ガキくさいって笑いにでも来たのか?」
「まさか。ガイが子供っぽいのは昔から知ってるし」
「お前もその生意気なところ、どうにかした方がいいと思うけど。絶対モテないぞ」
「そっくりそのままお返しするわ」
「喧嘩しに追いかけて来たのかよ」
「そういうつもりじゃなかったけど、結果的にそうなってるわね」
少し間があってからガイとメイアはお互い笑みを溢す。
こんなにくだらない言い争いは久しぶりな気がした。
「まさかこんなところまで来るなんて思いもよらなかったな」
「そうね。まだ目的は達成できてはないけど、ここまで来れるなんて思わなかったわ」
「うん。兄貴……無事かな?」
「なにがあったにせよ、ヴァン兄さんなら上手く隠れてるでしょう。"かくれんぼ"したら絶対見つけられないから」
「違いない」
ガイとメイアはまた笑い合った。
兄であるヴァン・ガラードを助けるために旅を始めて数ヶ月経つが、未だに目的地には辿り着けてはいない。
だが着実に2人はヴァンがいるであろうロスト・ヴェローに近付いていた。
「いろんな人に助けられてるよな」
「ええ。特にクロードさんには」
「ああ……」
ガイは少し含んだように答えた。
「どうしたの?」
「いや、別に」
「もしかしてクロードさんのこと?」
その言葉に驚いたガイは立ち止まりメイアを見た。
メイアも立ち止まると、ただ遠くの降り頻る雪を見つめながら言った。
「アダン・ダルでフィオナさんという人と出会った。その女性は"クロード"という人を知っていたけど、それは私たちの知ってるクロードさんではない」
「ただ名前が同じってだけだろ?」
「そうね。でもフィオナさんは間違いなくワイルド・ナインだった。彼女が六大英雄だったとするなら英雄の中の"クロード"という人物は二人いることになるわ」
現在ナイト・ガイとして同行しているクロードは"自称"六大英雄だ。
最初の話では魔王を倒す際、呪いをかけられて不死の体だという。
魔王は倒されていないということだったが、どちらも事実であるかは不明だった。
さらに2人はクロードの波動を見たことがなく、ワイルド・ナインなのかもわからない。
もしもフィオナが六大英雄であった場合、メイアが聞いていた"金色の長い髪を後ろで結っていて、憎たらしい顔、頭が悪くて、どうしようもないほどのクソ野郎"のクロードが本物のクロードということなのか。
現在、一緒に旅をしているクロードとは似ても似つかないからだ。
"そうなれば今、一緒に旅をしているクロードとは一体誰なのか?"
そんな疑問が浮かび、メイアはここまでずっと思考を重ね続けていた。
「そのフィオナって人に六大英雄かどうか聞かなかったのか?」
「怖くて聞けなかったわ。もしそうなら、私たちと一緒に旅をしているクロードさんは六大英雄ではないということになる……もしくは……」
「なんだよ」
「英雄は"六人"じゃなくて"七人"だった……そして、その"七人目の英雄"がクロードの名を名乗っている」
ガイは眉を顰めた。
"六大英雄"の話は有名だ。
その六人の名前も関心があまりなくて気にしなかったが最近読んだ小説に出てきたので覚えている。
"クロード"
"ゼクシス・コルティアン"
"ミル・ナルヴァスロ"
"フュオ・ウィンディ"
"ゾルア・ガウス"
"グレン・ヴォーラルド"
この六人だった。
名前は創作とあって少し変わっている可能性もある。
ここにさらに"もう1人"いたとするならば、その人物は一体どこで抜け落ちてしまったのか?
いや、実際そんな人物がいたとは思えない。
なにせ"いたはずの人間"を消すことは相当難しいはずだ。
「他の五人の英雄の誰かとかじゃないのか?」
「それも考えたけど、他の名がある英雄がわざわざ有名な"クロード"という名に変える意味がわからい。名前を変えるなら全く違う名前にするはず」
「じゃあ七人目がいたとして、どうやってその七人目は自分を消したんだよ……」
「恐らく"時間"だと思う。英雄も魔王もどちらも時間が経てば存在が曖昧になる」
「クロードの話だと魔王は倒してないんだよな?どこかで裏切り者と一緒に生き延びてるのかな?」
「そう……だと信じたい」
妙な話だった。
魔王が倒されていないなら、またこの世界を恐怖のドン底に突き落とす可能性だってある。
だが、もし魔王が史実通りに六大英雄の手によって倒されていたとするなら……クロードの話は嘘ということになってしまう。
こうなるとクロードの目的が一切不明だ。
何者かに奪われたクロードのロイヤル・フォースを取り戻すために共にロスト・ヴェローを目指してはいるが、これだって本当かどうかわからない。
「俺も気になることがある」
「なに?」
「クロードの闘気が見えないんだ。どんな人間……というか動物にだって大小あれど闘気は出てる。でもあいつにはそれがない」
「不死の体だからかな?」
「そうかもしれない」
「そうなれば六大英雄の可能性が強まるわ。クロードさんが最初に言っていたことが本当ということになる」
「だけどルガーラが言ってたんだ。"闘気が見えない相手には気を許すな。そいつはかなりの確率で人間じゃない"ってさ」
メイアは言葉に詰まった。
このガイの発言によって、とある"恐ろしい考え"に辿り着いてしまったからだった。
「でも……信じたいよな。ここまで一緒に頑張ってきたんだし。仲間のことは悪く思いたくない」
「私も……最後まで信じたい」
ガイの言葉はメイアを慰める。
励ましに来たのに、それが逆になっていた。
「とにかく今はローラを助けに行くことだけを考えよう」
「そうね」
ガイとメイアはまた雪の中を歩き始めた。
行方不明のヴァン、攫われたローラ、2人のクロード……多く気になることはあったが、今優先すべきはローラの救出だ。
この日は北へ行くための準備が進められ、翌朝には出発できた。
メンバーはガイとメイア、クロード、騎士団のアッシュ、ローゼル。
そして盗賊団であるホロを含めた6人だった。
だが不運なことにヨルデアンは全てを白で包み込むほどの猛吹雪となっていた。
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