最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

文字の大きさ
上 下
138 / 244
フレイム・ビースト編

生き残りたち(2)

しおりを挟む

ベンツォード砦の生き残りはアッシュとローゼルを除けば4人いた。

そのうちの1人であるイザーク・パルデンは第三騎士団副団長を務める青年。
前団長であるザイナスも"数少ない人材"と一目を置いていたようだ。
波動数値が高く、真面目で面倒見がいい。
誰からも慕われる好青年で、騎士団のみなからの信頼も厚かったため異例の大抜擢だいばってきだった。

そんな彼が先導して砦の南側居住区にある食糧庫へと向う。
ナイト・ガイのメンバーとアッシュとローゼルもそれに続く。

ガイとメイアの緊張感は増していた。
実はこの2人はクロードが予測した"犯人"の名前は聞いていなかったのだ。
ガイは顔に出るから、メイアは勉強ということで、クロードから犯人だと思われる人物の名前を聞いたのはアッシュとローゼルだけだった。


食糧庫に着く面々。
一般住宅の並ぶ場所に大きめの倉庫が建っていた。
といっても住宅の2倍ほどで、ここから砦の全ての食糧がまかなわれている。
その倉庫の入り口の前に立ってたのは丸々と太った若い男性だ。

「あっ、団長どの、それに副団長どの、それと……誰でしょう?」

間の抜けたような言葉を発する太った男性騎士。

「いやぁケイレブちゃん、今日はいつにも増して気持ちいいくらい丸いねぇ」

アッシュがそう言って"ケイレブ"と呼ばれた男性の前でしゃがむとお腹をポンポンと叩き始める。

「お、お褒め頂き光栄です。……団長どの」

「彼らは俺の友人でね。簡単な質問に答えてくれるかい?事件を早急に解決したいんでね」

「承知いたしました」

ケイレブの返答を聞いた後、クロードはイザークより少し前に出た。
そんな中でも相変わらずアッシュは彼のお腹を指でつつく。

「僕の名はクロード。今回の事件を調査している。事件があった時間、君はなぜ食糧庫に?」

「そ、それは……」

ケイレブは俯く。
何かやましいことがある人間のそぶりだ。
だがクロードたちはその"やましい"ことをもうすでに知っている。
ケイレブが食糧庫にいたのは"つまみ食い"をしていたからだ。

「ちなみに食糧保管記録はありますか?」

「は、はい。あります……ですが砦ができてからなので、かなりの量になりますけど」

「ここ最近のもので結構」

ケイレブは食糧庫の鍵を外して入ると、中から帳簿を2冊持ってきた。

○食糧保管記録書
○食糧消費記入書

2冊とも日付がここ1、2ヶ月のものだった。
食糧保管記録書は外から砦に搬入があった食糧の記録。
食糧消費記入書は砦で使用した食糧の記録だ。
"搬入数"、"使用数"、"残数"を記録する。
これらはケイレブが責任者として管理していた。

クロードはケイレブからそれを受け取るとパラパラとめくって中を確認する。
……とは言っても、そのスピードは"確認する"というのは程遠いものだ。
たった数分、数百ページはある帳簿の数字に目を走らせるとクロードは呟くように言った。

「数が合わないな」

みなはその発言が聞こえていた。
息を呑む音がケイレブからする。

「まぁ、だけど"誤差程度"だ。人間なんだからこれくらいはあるだろう」

クロードはニコリと微笑むと帳簿をケイレブに渡した。
困惑気味のケイレブは帳簿を大事そうに両手で抱えて持つ。

「ありがとう。参考になったよ」

ケイレブとのやりとりはこれだけだった。
クロードはイザークにアイコンタクトを送ると次の生き残りのもとへ向かおうとした。

するとハッとしたようにクロードは着ていたローブの中をゴソゴソと探ると何かを取り出した。
それは"真っ赤な丸い果実"のように見える。

「そうだ、これ南でしか栽培していない果実なんだ。北には無いだろうから、君にあげるよ。食べたことないだろ?」

「え、え!?」

突然のことに一気に表情を変えたケイレブ。
顔を紅潮こうちょうさせ、口元も緩む。
よほど食べ物に目がないのだろう。

「メイア、彼にこれを」

「はい」

クロードはメイアに果実を渡す。
メイアは小走りでケイレブの元へ行くと果実を手渡そうとした。

「どうぞ」

「あ……あ、あ、あ、ありが、とう……」

先ほどとは変わって表情を強張らせ、さらに手を震わせながらケイレブはメイアから果実を受け取る。

その様子をクロードはじっと見ていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...