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フレイム・ビースト編
生き残りたち(2)
しおりを挟むベンツォード砦の生き残りはアッシュとローゼルを除けば4人いた。
そのうちの1人であるイザーク・パルデンは第三騎士団副団長を務める青年。
前団長であるザイナスも"数少ない人材"と一目を置いていたようだ。
波動数値が高く、真面目で面倒見がいい。
誰からも慕われる好青年で、騎士団のみなからの信頼も厚かったため異例の大抜擢だった。
そんな彼が先導して砦の南側居住区にある食糧庫へと向う。
ナイト・ガイのメンバーとアッシュとローゼルもそれに続く。
ガイとメイアの緊張感は増していた。
実はこの2人はクロードが予測した"犯人"の名前は聞いていなかったのだ。
ガイは顔に出るから、メイアは勉強ということで、クロードから犯人だと思われる人物の名前を聞いたのはアッシュとローゼルだけだった。
食糧庫に着く面々。
一般住宅の並ぶ場所に大きめの倉庫が建っていた。
といっても住宅の2倍ほどで、ここから砦の全ての食糧が賄われている。
その倉庫の入り口の前に立ってたのは丸々と太った若い男性だ。
「あっ、団長どの、それに副団長どの、それと……誰でしょう?」
間の抜けたような言葉を発する太った男性騎士。
「いやぁケイレブちゃん、今日はいつにも増して気持ちいいくらい丸いねぇ」
アッシュがそう言って"ケイレブ"と呼ばれた男性の前でしゃがむとお腹をポンポンと叩き始める。
「お、お褒め頂き光栄です。……団長どの」
「彼らは俺の友人でね。簡単な質問に答えてくれるかい?事件を早急に解決したいんでね」
「承知いたしました」
ケイレブの返答を聞いた後、クロードはイザークより少し前に出た。
そんな中でも相変わらずアッシュは彼のお腹を指でつつく。
「僕の名はクロード。今回の事件を調査している。事件があった時間、君はなぜ食糧庫に?」
「そ、それは……」
ケイレブは俯く。
何かやましいことがある人間のそぶりだ。
だがクロードたちはその"やましい"ことをもうすでに知っている。
ケイレブが食糧庫にいたのは"つまみ食い"をしていたからだ。
「ちなみに食糧保管記録はありますか?」
「は、はい。あります……ですが砦ができてからなので、かなりの量になりますけど」
「ここ最近のもので結構」
ケイレブは食糧庫の鍵を外して入ると、中から帳簿を2冊持ってきた。
○食糧保管記録書
○食糧消費記入書
2冊とも日付がここ1、2ヶ月のものだった。
食糧保管記録書は外から砦に搬入があった食糧の記録。
食糧消費記入書は砦で使用した食糧の記録だ。
"搬入数"、"使用数"、"残数"を記録する。
これらはケイレブが責任者として管理していた。
クロードはケイレブからそれを受け取るとパラパラと捲って中を確認する。
……とは言っても、そのスピードは"確認する"というのは程遠いものだ。
たった数分、数百ページはある帳簿の数字に目を走らせるとクロードは呟くように言った。
「数が合わないな」
みなはその発言が聞こえていた。
息を呑む音がケイレブからする。
「まぁ、だけど"誤差程度"だ。人間なんだからこれくらいはあるだろう」
クロードはニコリと微笑むと帳簿をケイレブに渡した。
困惑気味のケイレブは帳簿を大事そうに両手で抱えて持つ。
「ありがとう。参考になったよ」
ケイレブとのやりとりはこれだけだった。
クロードはイザークにアイコンタクトを送ると次の生き残りのもとへ向かおうとした。
するとハッとしたようにクロードは着ていたローブの中をゴソゴソと探ると何かを取り出した。
それは"真っ赤な丸い果実"のように見える。
「そうだ、これ南でしか栽培していない果実なんだ。北には無いだろうから、君にあげるよ。食べたことないだろ?」
「え、え!?」
突然のことに一気に表情を変えたケイレブ。
顔を紅潮させ、口元も緩む。
よほど食べ物に目がないのだろう。
「メイア、彼にこれを」
「はい」
クロードはメイアに果実を渡す。
メイアは小走りでケイレブの元へ行くと果実を手渡そうとした。
「どうぞ」
「あ……あ、あ、あ、ありが、とう……」
先ほどとは変わって表情を強張らせ、さらに手を震わせながらケイレブはメイアから果実を受け取る。
その様子をクロードはじっと見ていた。
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