最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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フレイム・ビースト編

小さな疑念

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ある程度、北に進んだあたりでアッシュは馬を止めた。
馬から降りたアッシュは馬具に備え付けられたバッグを開けて白い毛皮のコートを取り出して羽織る。

天候は曇り。
今にも雪が降りそうな空に強い寒風が吹く。

「いやだねぇ。ヘアスタイルが崩れるのは好きじゃない」

そう言って胸ポケットから銀色の櫛を取り出して髪を丁寧に撫でつける。
最後に前方と上方に膨らんだ前髪を綺麗に整えると櫛をポケットに戻した。

そこに後方から走ってきた馬が止まる。
乗っていたのは女騎士のローゼルだ。

「髪なんてどうだっていいでしょう。この風ではすぐに崩れる」

「今の聞こえてたの?……って、いやいやレディがそんなこと言っちゃいけませんよ。女性こそ気にして欲しいところだけどねぇ」

アッシュの言葉き呆れ顔のローゼルはため息を吐く。
その息は白く染まった。

「それよりも、なぜあんな冒険者に我々の任務を託したのです?Cランクなんて……下級騎士並の波動数値でしょう」

「ランクなんてただの飾りだ。ついでに言うと波動数値なんてものもな。あの少年は只者じゃない。"闘気が見える"なんてありえんからね」

「嘘かもしれませんよ」

「いや、あれは完全に見えてた。俺を見てあんな顔をしたのはルガーラ以来だよ」

「それでも……たった3人だけのパーティに何ができるのか」

「大丈夫さ。あのパーティは騎士団で言えば恐らく"一個小隊"に匹敵する強さだろう」

「は?」

一個小隊とはおおよそ30名ほどの部隊。
ローゼルは全く信じられなかった。
たかだか少年少女と青年、たった3人だけのパーティがそれほどの力を持っているとは思えない。

「特にあの黒髪の男……毛が逆立つほどのヤバさを感じた。こんな感覚は第一騎士団長に会った時以来だな。恐らく"アレ"は相当な強さだろう」

「私にはそうは見えませんでしたが」

「ローゼルちゃん、そろそろ俺のこと信用してくれてもいいんじゃない?」

再びため息をつくローゼル。
だが頼れるのは先ほど出会ったばかりの冒険者しかいない。
今はアッシュの感覚を信じるしかなかったのだ。

___________


早朝、ナイト・ガイのメンバーたちは町の外に出るため北門へ向かった。

朝方にも関わらず町から出ようとする冒険者や商人たちが並ぶ列は相変わらず長い。
だがガイたちは列を無視して進み検問所に辿り着く。
検問所の騎士たちはため息混じりに3人を通した。

久しぶりの町の外。
ガイとメイアが一面の草原を見て、さらなる旅を覚悟しているとクロードが口を開いた。

「ここからは少し長い。もし途中で荷馬車を見つけたら乗せてもらおう」

ガイとメイアは頷く。
そして3人はゆっくりと歩き出した。

数時間は歩いたか。
ここでガイとメイアが今まで経験したことのない出来事が起こる。

「さ、寒い……」

そう呟いたのはガイだ。
メイアも寒さを感じるのか肩をすくめていた。
寒さ対策でガイはグレーのマントを羽織っているが、それでも寒い。
メイアもローブの下に着込んではいるが、やはり寒いようだ。

「南の生まれなら、この寒さは堪えるだろう。だが今から向かう場所はもっと寒いよ」

クロードの言葉にガイとメイアは顔を見合わせるが、どちらも青ざめていた。
これ以上、寒いとなれば耐えられるか不安だ。

「ロスト・ヴェローは雪も深い。今のうちに慣れておくことだね」

そう言って笑みを溢すクロード。

これはいい機会なのかもしれない。
ローラを救った後、今度は兄を救うためさらに北へ向かうことになる。
ロスト・ヴェローの雪の深さというのは想像がつかないが、ある程度の覚悟は必要だろうと2人は思った。

「そういえば……」

続けてクロードが言った。

「ガイ、君はもしかして"闘気"が見えているのか?」

「……え?あ、ああ」

「そうか……」

クロードはそれ以上、何も言わなかった。
このことにガイは首を傾げる。
メイアには何のことなのか全くわからない。

不思議そうにガイはクロードを見る。
ここまで全く気づかなかった。

クロードの体からは闘気が全く放たれていないことに。

それを見たガイはふとルガーラが言った言葉を思い出していた。

"闘気が全く見えない相手には気を許すなよ。そいつは、かなりの確率で人間じゃない"

これまで深く考えることはしなかった。
クロードという人物が何者であるのか。
本人は六大英雄の1人だと言ってはいるが、それはクロードが言ったことで事実かどうかは不明だ。

ただ自分たち兄妹と目的地が同じであることと、カレアの町で助けてくれたことで信用して一緒に行動していた。

その時、ガイの頭に一瞬、嫌な考えがよぎる。
もし最初にクロードが言ったことが全て嘘だったとするなら……

すぐにガイは思考をやめようと首を横に振った。

ここまで一緒に助け合って旅をした仲間に疑惑の目を向けようとしている自分が嫌になる。


こうして、様々な出来事が重なる中にも3人はローラを救うため、さらなる北を目指して歩き続けた。
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