上 下
126 / 137
フレイム・ビースト編

取引

しおりを挟む

研究都市イース・ガルダン

北内門


夕刻、門前は緊迫した空気が漂っていた。
数人の並ぶ騎士たちは馬から降りてきた金髪の騎士の圧に息を呑む。

ガイの目の前に立っている騎士は"第三騎士団団長アッシュ・アンスアイゼン"と名乗った。

アッシュは視線をガイから後方に立っている検問所の責任者であろう騎士へと変えた。

「揉めていたようだが、何か問題でもあったのか?」

その質問に一瞬だけ時が止まったようになったが、すぐにハッとして男性騎士が口を開く。

「え、ええ。彼が検問を無視して門を抜けようとしていたので拘束しました……」

「なるほど」

騎士に対して簡単な返答をしてアッシュはガイを見る。

「何か急ぐ理由でもあるか?」

「仲間がさらわれて……追いかけるために北へ行こうとしてたんだ」

「それはまた災難だな。犯人はわかっているのか?」

「あ、ああ。盗賊団の……」

ガイが言いかけた時、すぐにそれを遮る者がいた。
それはクロードだった。

「ガイ、それ以上は」

「え?」

ガイがクロードの方を見ると神妙な面持ちだった。
隣に立っているメイアも緊張で額から汗が滴る。
アッシュの眼光は刺すようにクロードへ送られた。

「なんだ、何かやましいことでもあるのか?」

「仲間の命に関わることだ。犯人の名前は言えない」

「どうして我々に犯人の名を知られたら、君らの仲間の命に関わるというんだ?」

「第三騎士団の"とある噂"さ。ここで口には出せないな」

アッシュは少し眉を顰めるが、すぐに笑みを溢す。

「ああ、その"噂"なら騎士団の間なら有名な話さ。だが内部情報だな。誰が言ったのやら」

そう言ってアッシュは検問所にいる騎士の1人1人に視線を送る。
みなが驚くような表情をして小さく首を横に振っていた。

するとすぐに馬に乗った緑髪のショートカットの女騎士が言った。

「誰が言ったのかは問題ではないでしょう。問題なのは"彼ら"が人を攫ったという事実」

「確かに。そんなことをされたら困るんだがね」

クロードは少し首を傾げた。
何か自分たちが知らない情報があるようだが、この2人の会話では読み取れない。

「やはり噂は本当かい?」

クロードはもう一歩踏み込んだ質問をした。
その問いに答えたのはアッシュだ。

「理由があるのさ」

「理由?」

「第三騎士団の戦力の貧弱性といったところか。北の魔物は多すぎる。かつ強すぎるのさ」

「なるほど。そういうことか」

「どういうことだよ」

間髪入れずに言ったのはガイだった。
今度、答えたのは緑髪の女騎士だ。

「第三騎士団だけでは北の魔物は抑制しきれない。なので"彼ら"と契約して報酬を支払うかわりに、ある程度の魔物を討伐してもらっていた」

「楽をしていたわけだ」

クロードの言葉に眉一つ動かさない女騎士。
否定しないところを見ると自覚しているのだろう。

アッシュがため息混じりに口を開く。

「否定できないのは痛いところだが、そんなところさ。しかし奴らが誘拐なんて真似をするとはな。これは見過ごせんだろう。なぁ、ローゼルちゃん」

「そうですね」

女騎士の名前は"ローゼル"というらしい。
アッシュはさらに続けて、

「北に行きたいなら協力してやってもいい。だが条件がある」

「条件?」

「ああ。力を貸してほしい。北西にある町、ここは数年前に魔物に襲われて現在は廃墟になっているが、そこに調査で派遣した第三騎士団の騎士たちが戻らない」

「その町に行って騎士たちの生存を確認して来いということか?」

「そうだ」

「なぜ冒険者にそんなことを頼むんだ?君たちで行ったらいい」

「さっきも言ったが第三騎士団の戦力は貧弱だ。俺が派遣されて団長をやっているが限界がある。だからこの町まで兵を借りに来たが何やら事件があって出せないと言われた。もし騎士を少しでも借りれたのなら砦に向かわせて、俺たち2人で北西の町に行こうとしたがそれもできん」

「ザイナス・ルザールはどうした?彼はかなり頭が切れると聞いたが」

「デリケートな問題でね。ここでは話せんな」

「……いいだろう」

クロードはそう言って頷くが、この返答に納得できない者がいた。
それはガイだった。

「そんな時間ないだろ!!」

「これが最速で北の砦まで行ける方法なんだ」

「どういうことだよ」

「僕たちの冒険者ランクは?」

「Cランクだろ」

この時点でメイアは気づいてしまった。
ガイはまだわかっていない様子だ。

「Cランクだと王都より先には行けない。つまり北の砦まで行けないんだよ。誰かの力を借りないことにはね」

「そんな……」

「大丈夫さ。早急に北西の町まで行って第三騎士団の騎士たちを確認すれば済むことだ。それでいいんだろ?」

クロードが問いかけるように言うと、アッシュはニヤリと笑みを溢した。

「いやぁ、これは助かるね。今日はもう日が暮れる。明日向かうことをオススメするよ。これで馬鹿正直に列に並ぶことなく、朝一番でこの町を出れるぞ」

アッシュはそう言うと馬の方へと歩き、乗り直す。
そして後方にいたローゼルと共に北門を抜けて町を出て行った。

残されたナイトガイのメンバーと検問所の騎士たちはそれぞれ顔を見合わせつつ、しばらく動けずにいた。
しおりを挟む

処理中です...