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エターナル・マザー編

赤き猛攻

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レイはステージ中央を見た。

ガイが立っていた場所には四方に亀裂が入る。
高速で迫るガイの瞳は赤く染まり、それは"歪な線"となってレイへ向かって走った。

たった数秒でレイの元へ辿り着いたガイ。
背中に右手を伸ばして少しだけ跳ねる。

レイは直感的に杖を上げて上段ガードの体勢を取る。

"背中のダガーを引き抜いて縦の振り下ろし"

それはガイの動きから簡単に読み取れた。
時間にして数秒といってもモーションが大きすぎて行動が読みやすかった。

案の定、ガイは右腕をレイの頭上目掛けて振り下ろす。

ハイスピードの振り下ろし攻撃……のはずだった。

だが、レイの杖には何の感覚もない。
ダガーが当たった衝撃すらなかったのだ。

それもそのはず。
ガイの手には何も握られていなかった。
先ほどのダガー遠投を見てしまったら十中八九、武器を引き抜くと錯覚する。
その心理を利用したフェイントだった。

「上段ガードを誘ったのか!?」

驚愕するレイだが時は遅い。
スマートに着地したガイは"ガラ空き"のレイの腹に回し蹴りを打ち込む。

「が、はぁ!」

数メートル後方へと吹き飛ぶレイ。
しかし、さらなる追撃に備えなければならない。
無意識にレイは杖で正面をガードするようにしてクロスガードの構えを取った。

そこである違和感に気づく。

先ほどまで腕に刺さっていたダガーが抜き取られている。
全く気づかなかった。
痛みすら無かったのだ。

「あの一瞬で!?」

ハッとしてクロスガードした腕の隙間からガイの方を見た。

"ハイスピードで迫る遠投物"

高速回転したダガーがレイへ向けて放たれていた。
これをガードしてしまってもいいのか?
レイの思考はすぐさま動くが、答えがでるまでに少し時間が掛かった。

レイはクロードガード維持を選択。

再び顔を覆うようにしてガードを固める。
ダガーは杖に当たったことで、どこかへ跳ね返っていった。

同時にレイのボディに凄まじい激痛が走る。
ダガー遠投とほぼ時間差がなくガイは瞬時にレイの元に到達していた。
ガイが放っていたのは渾身の右拳によるボディブローだった。

「うっ……!!」

遅れてズドン!という轟音が闘技場に響き渡り、レイの体は数十メートル吹き飛ばされて地面を転がる。

転がりながらも受け身を取って地面に片膝と杖をつく形で体勢を立て直した。

「なんとういう攻めだ……」

ガイの突撃に息をつく暇もない。
凄まじいスピードの攻めにレイは驚いていた。
ガードを見越してのフェイント。
さらに飛び道具と自身との時間差攻撃でガードをくぐってダメージを与えにくるという常人離れした連携。
これもレイが上段ガードすることを読んでいないとできない。

いや……これは先読みという次元を超えてるのではないか?

レイは思う。
このガイという少年は少し先の未来が見えているような戦い方だ。


だが、そんな思考している暇はない。
レイは考えるのをすぐにやめて数メートル先に立つガイを見た。

ガイは立ったまま動かず、俯いたままだ。

「どこから来るつもりだ……いつ攻めて来る?」

レイの警戒心は増し続ける。
しかしガイは一向に動かなかった。

「まさか……」

数秒、数分が経ったか。
観客席からもどよめきが聞こえる。

中央の端に立っていた審判も様子を伺う。
下手をすれば戦闘に巻き込まれるが、何かおかしい。

審判はゆっくりとガイに近づいた。
そして覗くようにして顔を近づける。

すると審判はすぐに両手を上げて叫んだ。

「ここまで!!勝者レイ!!」

観客席のどよめきはさらに大きくなった。
そんな状況に困惑しつつもレイはそのままステージから降りる。
迎えたのは赤髪の男だ。

「危なかったな。ヤツは立ったまま気絶してるようだ。恐らく"限界"だったんだろう」

「限界?」

「お前の"闘気の動き"に気を配りながら、あのハイスピードの攻めだ。あんな華奢な体なら、動けても数十秒だろう」

「……」

「だが末恐ろしいガキだ。もし、あれでワイルド・ナインなら……俺を超える存在だったかもしれんな」

レイはステージの上を見た。
少年に近寄るローラとエリザヴェートの姿があった。

確かにあの強さは尋常ではない。
ワイルド・ナインのローラ。
闘気によって少し先の未来が見えるガイ。
彼らを見るにハイレベルな冒険者たちと言わざるおえない。

「さて、次は俺の番だな」

「相手はS級冒険者のようです。お気をつけて」

「誰にものを言ってる」

「確かに……」

レイは笑みを浮かべた。
赤髪の男はステージへと向かう。

「この俺、"ゾルア・ガウス"は六大英雄と言われた男だ。あんな小物には負けんよ」

そう言って赤髪の男、ゾルア・ガウスはステージに上がった。
その先ではローラがガイを担いでステージを下りる。

残った長い黒髪の女性は数メートル先でゾルアと向かい合った。

いよいよ闘技大会決勝、大将戦。

"六大英雄ゾルア・ガウス"対"S級冒険者エリザヴェート"の試合が始まる。
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