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エターナル・マザー編

焼滅の回想

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スイーツショップ サンシェルマ焼滅事件についての情報

一日目
メイアとクロードはガイとローラと別れて西地区へ。
東地区にあったはずのサンシェルマ一号店は、なぜか西地区へ移動していた。
(この時点では"売り上げの関係上"と推理。事件と関係あるかは不明)

昼頃、メイアとクロードはサンシェルマの二号店へと向かう。
サンシェルマの前には人だかりと豪華な馬車が停まっていた。
馬車の持ち主は、この国の姫であるザラ姫だった。
護衛には第二騎士団副団長のクラリス・ベルフェルマ。
店の店主はブラウンのショートヘアの女性。
名前はこの時点では不明であったが、事件後にホリーという名だとわかる。
姫様の来店とあってか、店主は緊張したような強張った表情が印象的であった。

そして、もう一つ、メイアが気づいたのはサンシェルマの両隣の壁に焼けこげたような跡があったこと。
過去に火事があったのだろうと推理。

その後、アカデミアへ。
ここで偶然にリリアン・ラズゥと出会う。
王都へ赴いており、その帰りに突然の任務を受けたとのこと。
なぜか第五騎士団との合同という任務だった。
(脱獄した犯罪者の捕縛任務)

リリアンのはからいによってメイアは念願だった学校へ仮入学が叶う。
ここでメイアと別れる。

夜、クロードとリリアンがアカデミアの応接間で雑談中に第五騎士団の団長であるユーゲルと出会う。
おかっぱ頭の優しそうな男だ。
会話の中でザラ姫が気に入っているワインが切れていることがわかった。
このことによってザラ姫は自ら町へワインを買いに出かける。
(ワインは誰かに買い占められた)

ユーゲルとの会話中、突然、窓の外に火の手が見える。
最初に気づいたのはユーゲル第五団長で、すぐに「まさか、"サンシェルマ"なのか」と言った。

サンシェルマへ向かうと案の定、炎上していた。
近くに立っていたのはザラ姫と護衛のクラリスだ。
なぜか馬車はいつもの豪華な馬車ではなく黒っぽい一般的なものだった。

ザラ姫は残念そうな表情で、クラリスは驚愕したような表情だった。
そしてクロードが気づいたことだが、ザラ姫は"ワインの瓶"を大事そうに抱えていたこと。

火を消し止め、店内を捜索。
完全に焼き焦げた店の内部だが、その中に両腕が切断された死体があった。
性別、髪の色、衣服から見てサンシェルマの店主だろうと判断する。
床にはガラスの破片が散らばっていた。

死体を見たユーゲルが"ホリー"という名を口にする。

他の目撃者の話で、ザラ姫が店内から出た後、すぐに火の手が上がったとのこと。

そして同じような事件が二年前にもあったとリリアンから聞かされる。

その時の犯人を特定した騎士がおり、その騎士は"ザラ姫"が犯人だと断定したようだ。

アカデミアへと戻ると玄関先にはユーゲルともう1人、冑と重厚な鎧、そして長いマントに身を包んだ騎士がいた。
ユーゲル曰く、"サイフィス・アドラス"という人物で今は第五騎士団の副団長とのこと。

応接間に移動すると、そこには施設長のブリハケットと、もう1人いた。
銀髪の長い髪を結った、彫りの深い顔の騎士風の男。
"ゲイン・ヴォルヴエッジ"だ。
(ゲインはリリアン・ラズゥの婚約者である)

ゲインは二年前の事件にも関わっているようで、とある騎士が推理した、"ザラ姫が犯人である"という推理を覆した男だった。
(二年前の事件は盗賊の仕業ということになっている)

今回の事件、ゲインは"ザラ姫を陥れるための第三者の犯行"であると推理している。

リリアンが言うにはゲインという男は何かあるのかもしれないとのこと。

クロードはガイのフォローのため闘技場へ行く予定だった。
だが、それをやめてリリアンが言う、ゲインの行動の真の目的と事件の真相を探るべく調査し始めるのだった。

○人物
ザラ姫
(姫様であり美食家。今回の事件の容疑者)

クラリス・ベルフェルマ
(第二騎士団副団長でありザラ姫の護衛)

ユーゲル・ランバルト
(第五騎士団長)

サイフィス・アドラス
(第五騎士団副団長)

ブリハケット・バイロン
(アカデミア施設長)

ゲイン・ヴォルヴエッジ
(第二騎士団長でありメリルの兄)

ホリー
(サンシェルマ店主。"死亡")


____________



早朝から調査は開始された。

クロードはリリアンと共にサンシェルマを目指す。

人通りは多くあった。
男子学生や研究員など、ほとんどがアカデミアへと向かう者が多い中、その波に逆らうようにクロードたちはサンシェルマへと向かっていた。

途上、リリアンが笑みを含みながら口を開く。

「それにしても、あなたが言い負かされるなんて」

「なんのことだ?」

「昨日の夜のことよ。やはりゲイン卿は特別ということなのかしら」

「途中で面倒になってね。彼の言い分は正しいが、一つ問題がある」

「問題?」

「ああ。ザラ姫の立場さ」

「なるほど。その立場を利用して"無実"とした……考えられるけど、この国では通用しない。犯罪は犯罪。どんな立場であっても処罰されるのよ。権力によって無理やり無実を勝ち取ることは不可能。それが秩序というもの。秩序が乱れればたちまち国民の反感を買うわ。王はそれをよくわきまえている」

「そう。だからゲインがザラ姫を助けたのさ」

「どういうこと?」

「ザラ姫の力ではどうにもできない無実の証明をゲインがやった。恐らくだが、ゲインはなんらかの理由でザラ姫を犯人としたくなかった」

「どんな理由で?恩でも売りたかったのかしら?あのゲイン・ヴォルヴエッジがそんな……」

「それが、彼の真の目的だとしら?」

「まさか……で、でも何のために?」

「姫様の権力があれば、ある程度のことならなんだってできる。自ら犯した犯罪を無実にすることは第三者の力がいるが、それ以外なら……今、考えられるのはメリルの失態の尻拭いか」

「でもメリルが事件を起こしたのは、二年前のサンシェルマ事件の後のことなのよ?」

「そう。それが不可解なのさ。ヴォルヴエッジ家が問題を起こしたなんて話は聞いたことがない。直近でメリルが起こしたフィラルクス事件ぐらいだろう」

「姫様を助けておいて、あとで借りを返してもらうということはあり得ると思うけど……二年前の時点だと"無償の働き"としか思えないわね。まぁ騎士として姫を守るのは当然のことだけど、もしザラ姫が犯人なら幇助ほうじょに近い行動よ。ゲイン風に言うならリスキーね」

「それはゲインがザラ姫が事件を起こす前から犯人だと知っていた場合だ。知らずに推理して、"ザラ姫を犯人と断定した騎士の推理"を言いくるめたとなれば、それには当たらないだろ。だがゲインという男はあなどれない。恐らく彼は真相を知っていてザラ姫を無罪にしている。どの時点でゲインが真相を知ったのかはわからないがね。問題はここだ。彼には確信があるのさ、ザラ姫を確実に無罪にできるというね。ザラ姫はそれを前提として今回の犯行に及んだとも考えられる」

「確かに……」

「とにかく今回の事件の真相を探ろうか。この事件がゲインの考えがわかる糸口になる可能性はある」

「ええ、そうね」

会話がひと段落ついたところで2人はサンシェルマに到着した。
焦げた臭いが風に乗って町へと広がる。

ほぼ全焼したサンシェルマは原型を留めていない。
外壁は落ち、立っているのは数本の黒ずんだ木材だけだった。

第五騎士団はすでに到着していた。
サンシェルマの前では数人の騎士たちにユーゲルが指示を出しているようだった。

ユーゲルはクロードたちに気づくと少しだけ微笑んで手を上げた。

サンシェルマに近づくクロードとリリアン。
最初に口を開いたのはユーゲルだった。

「おはようございます。お二方、力添え感謝します」

「いえ、僕は成り行きですよ」

「助かります。昨日、ゲイン卿はあんな風に言ってましたが、私は期待してますよ」

"あんな風"というのはフィラルクスの事件を解決したのか?というゲインが言った暴言だ。

「まぁ、気にはしてませんよ」

「それならよかった。私もゲイン卿は少し苦手でして……」

「あの方を得意な人間はいなさそうですがね。そういえば噂のゲイン卿はどちらに?」

そう言ってあたりを見回すクロード。
だが、どこにもゲインの姿は無い。

「ゲイン卿は来ないですよ」

「来ない?昨日は調査すると言っていたと思いますが」

「ゲイン卿は現場には来ません。いつものことですよ」

苦笑いするユーゲルに捕捉するようにリリアンが口を開く。

「ゲイン卿は調査に自分の足を使わないのよ。騎士団の団員たちを信頼していると言って、みなに情報を集めさせて、それをまとめて推理しているみたい」

「なるほど。上手いな」

「上手い?なにが?」

「騎士団の士気を高めるのが上手い。"信頼"という言葉を使って、団員の行動に活気を持たせる。事件解決のために思考し行動する団員は成長するし、見られているという緊張感から意味を持った動きをし始める。第二騎士団は精鋭が集まると聞くが、ゲインの手腕か」

「たったそれだけでそこまでになるかしら?」

「誰だって"認められたい"と思う気持ちはあるだろ?悪く言えば、その思考を利用して団員を操っているとも言えるが、結果的に騎士団が強ければ問題はない。組織とはそういうものだ」

「そう……私も、そうした方がいいのかしら?」

「リリアンにはリリアンのやり方があると思う。まだ先は長いのだから、色々模索してみるのもいいかもね」

リリアンは安堵した。
何せ、どんな時でも団員を先頭で引っ張るのが団長の務めであると思っていたからだ。
リリアンは後ろでコソコソするのは好きでは無い。

「それはともかくとして、情報は変わらずかな?」

「ああ。亡くなったのは、この店の店主であるホリーで間違いないだろう。両腕は鋭利な刃物で切断されて見つかって無い」

「聞きたかったのだが、二年前にも同じことが?」

「そうだ。ホリーの夫のミカエルと娘のジュリーが死んでる」

「ホリーは無事だったんだね」

「ホリーは東地区の一号店にいたからね。二号店は試験的に出したんだが、大盛況で娘のジュリーもアカデミアの学校に通いながら手伝っていたんだ」

「あなたはホリーと面識が?」

クロードが質問すると、ユーゲルは少し眉を顰めた。

「ああ。私も好きだったからね」

「好きだった?」

「ああ、勘違いしないでくれよ。この店のスイーツさ。よく買いに行ってたんだ」

「わざわざ東地区にかい?」

「ここが無かった時にね」

「そうか。以前の犯行があったのは二年前、その時の状況に今回の事件は似ている……それは、どこまで似ているのかな?」

「ほぼ全く一緒だ。ザラ姫がサンシェルマを訪れて、火事になり、ミカエルとジュリーの遺体があった。ただ少し気なることがある」

「気になること?」

「火事になったのは"腕の無いミカエルと"ジュリーの遺体"を確認した後なんだ。その次の日の夜に火事になってる」

クロードとリリアンは顔を見合わせた。
つまり今回の事件では、ザラ姫がサンシェルマを出てから、ほとんど時間差が無く火の手が上がったのに対して、二年前はそうではなかった。

この時間差が何を意味しているのか、今のクロードとリリアンにはわからなかった。
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