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エターナル・マザー編

闘技大会

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イース・ガルダン 東地区

コロセウム

現在、闘技大会の予選がおこなわれていた。
ガイ、ローラはギリギリではあったがエントリーに間に合った。

この大会は三対三のチーム戦となっており、急遽メンバーに入ったエリザヴェートによって欠員なしで参加ができる。

エリザヴェートの強さは不明だが、S級冒険者となればアダン・ダルで出会ったカトリーヌと同等と考えてもいい。
これほど心強いメンバーはいない。

ガイとローラは、そう思っていた。


今回の闘技大会のルールはこうだ。

・三対三のチーム戦

・予選を勝ち抜くと本戦へ。
(現在は予選中で全て終わるまでにはニ日間ほどかかる)

・毎試合前に先鋒、中堅、大将を決める。
"先鋒と中堅は波動の発動禁止"。波動を発動してしまった場合、即刻試合を終了し、そのチームは失格とする。
大将戦のみ、お互いが波動を使うことができる。
先に二勝したほうが勝利。

・本戦はトーナメント。
最後まで勝ち抜いたチームには賞品として特別な武具が与えられる。


大まかなルールはこうだ。
これはチーム・ナイトガイにとっては嬉しいルールだった。

なにせガイは波動を使えず、ローラも怪しい。
だが、どの属性かは不明ではあるがエリザヴェートは波動を使える。
先鋒、中堅をガイとローラを交代でおこない、大将をエリザヴェートにすれば全て解決する……と思われた。

しかし、このルールにはさらに続きがあった。
現在、受付前で、そのルールにローラが吠えていたのだ。

「なんで大将は毎回変えなきゃダメなのよ!!」

「続けて同じ大将はダメだってことか」

それは、つまりローラとエリザヴェートで大将を毎回交代しなければならない。
これは波動発動が怪しいローラにとっては厳しい条件だ。

「俺とエリザヴェートで先に二勝すればいい話だろ」

「エリザはいいとして、あんたが負けたらどうすんのよ!!」

「お前な!仲間を信じてないのか!」

「信じてるわよ。あんたを信じられないだけ」

受付前で大喧嘩を始める2人。
周囲の闘技大会出場者たちは2人を睨むが、そんなものお構い無しだ。
だが、こんな状況でもエリザヴェートは止めるどころか、少し顔を赤らめる。

ガイとローラはお互いのことよりも、そんなエリザヴェートの表情が気になり顔を見合わせた。

受付に来た他の冒険者の舌打ちが聞こえたのでで、その場から離れてからローラはエリザヴェートに質問した。

「どうしたのよ、あんた」

「う、う、嬉しい……仲間……エリザなんて呼んでもらうのは何年ぶりかしら……ぐふ、ぐふふ」

「そういえば、お前、パーティメンバーはどうしたんだ?一人でS級冒険者になったわけじゃないだろ」

ガイの質問はローラも気になっていたところだった。
先ほどの追放劇を見せられたら余計に気になる。
エリザヴェートは重大な何かを隠しているのではないか……と思っていたのだ。

「い、いや……メンバーはいたけど……みんな……」

「みんな?」

「死んだわ」

「は?」

ガイとローラは言葉を失い、再度顔を見合わせた。
長い黒髪の間から覗かせる片目は異様に泳ぐ。
エリザヴェートはやっぱり何かを隠している。

「仲間なんだから隠し事無しでいこうぜ」

「そうよ。パーティに入りたいなら言うべきね」

「……」

エリザヴェートは口籠るが、数秒してから重い口を開く。

「わ、わ、私の波動よ」

「波動?」

「わ、私は"闇の波動"を使う」

「"闇の波動"って……原初の波動の?」

「そ、そ、そうよ」

「カトリーヌと一緒なのか……あっちは光だったけど」

「カ、カトリーヌとも会ったのね。なら少しわかると思うけど、原初の波動は特殊なのよ」

「それってどういうこと?」

「原初の波動はワイルド・ナインでなくても特殊なスキルを構成できるの」

「そうなの?」

「え、ええ、カトリーヌは"セイント・シャイン"という3つの能力を使う。魔物の体を破壊する能力、高魔の瘴気を一時的に解除する能力、ただの灯りだけの能力の3つ」

「確かに、それは使ってた気がする」

「か、彼女は自称ワイルド・ナインを名乗ってるけど、実際は"波動数値999"の一般人なのよ」

「たった999!?」

「え、ええ。どこから聞いたかわからないけど、"ワイルド・ナイン"というネーミングがカッコいいから名乗ってるだけなの」

「カッコいいからって……そんな子供じゃあるまいし……」

ガイはカトリーヌを思い出すが、大人びていて美しい姿とは真逆の話だと思った。

「そして原初の波動にはもう一つ秘密があるのよ」

「秘密?」

「原初の波動はワイルド・ナインが使う波動スキルと違ってデメリットがある。例えばカトリーヌの場合だと、一日3回までしか波動を使えない」

「なんか言ってたな……それ」

「ちょっと待って、じゃあエリザ、あんたの波動にもデメリットがあるってこと?」

「そ、そ、そうよ。闇の波動の能力は"吸収と放出"。相手の波動を吸収して、それをそのまま相手に返す」

「なるほど。で、あんたの波動のスキルってのは?」

「ス、ス、スキルは無いわ。まぁあるんだけど、普通より減ってるって感じかしら」

「は?どういう意味だ?」

「私の闇の波動は"相手の波動を吸収するだけで放出ができない"という能力なのよ」

「それって……強いの?」

「わからん……」

それは意味不明な能力だった。
もしかしらクロードやメイアがいたら、この能力の潜在的な力が一瞬にしてわかるかもしれないが、ここにいるのはガイとローラだ。
正直、エリザヴェートの波動の能力がよくわからなかった。

「まぁ、それはいいとして、デメリットってなんだよ」

「私の波動のデメリットも吸収よ。周りにいる人間の波動を見境なく吸収するというのが、私の闇の波動のデメリットよ」

ガイとローラは同時に眉を顰めた。
確かにそんなデメリットだと普通に考えると一緒には戦えないが、闘技大会は一対一の戦いになる。
敵は1人のため、その敵の波動だけ吸収すればいいだけの話。
間違いなく、闘技大会のルールに最も愛された能力と言えるだろう。

「まぁ闘技大会は一対一だから、今はデメリットとか考えなくていいんじゃないか」

「そうね。とにかく相手チームの大将がとてつもなくヤバそうなやつならエリザを出しましょう」

「そうだな。エリザもそれでいいか?」

「リ、リ、リーダーにお任せするわ」

「決まりだな」

そうガイが言った瞬間、アナウンスが聞こえた。
どういう原理なのかはわからないが、コロセウム内に大きな音声が響き渡る。

"次の試合、チーム・ナイトガイ対チーム・ヴァブルブレイカー。中央闘技場へと入場して下さい"

ガイとローラ、エリザヴェートは頷き合うと、コロセウムの中央へと向かう。

これが闘技大会の幕開けとなるのだった。
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