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エターナル・マザー編

イース・ガルダン

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ナイト・ガイのメンバーたちは目的地であった町、研究都市イース・ガルダンに到着した。

この町は西地区と東地区に分かれていた。
波動の研究施設であるアカデミアと、波動の深い部分を学ぶ学校がある西地区。
自らの力を競うコロセウムと、市場などがある東地区だ。

西地区は貴族や研究者、学生が多く住む場所。
逆に東地区は平民が住み、冒険者や商人の通りが多くあった。

到達は昼頃。
ガイ、メイア、ローラ、クロードの4人は東地区にいた。

古い家屋がぴっちりと並び、家自体は大きくは無い。
出店がずらりと道に沿っており、道幅を狭める。
道ゆく人々が多く、活気に満ちた風景にガイとメイアは圧倒されていた。

「すごいな……こんなに人がいるなんて」

「ええ……人に酔ってしまいそう」

そんな2人の挙動に笑みを溢すローラ。

「これだから田舎者は!」

「悪かったな田舎者で!」

メイアとクロードは呆れる。
この2人は水と油、犬と猿といったところなのか、町を移動する度に喧嘩しているような気がした。

「そんな田舎者に、あたしが素晴らしい提案をしようじゃないの!」

「素晴らしい提案?なんだよそれ」

「なぜ最初に東地区に入ったか……その理由よ!」

この町に入る時に東地区から入ろうと言ったのはローラだった。
その時、3人はそれが何故なのか分からなかった。
 
「東地区のスイーツのお店が目当てなの。そこのスイーツは美味しいって有名なのよ!」

「その口ぶりからすると、ローラも口にしたことが無いと見えるが?」

そうクロードが言った。

「え?ええ、まぁ……」

「なんだよ。お前も食ったこと無いのかよ」

「いや!でも!保証するわ!なにせ、この国の姫様である、"ザラ様"がお気に召されたというスイーツなのよ!」 

この時、ガイとメイアは初めてセルビルカ王国の姫様の名前を知った。
そんなものは小さな村に住んでいたら、どうだっていい情報だ。
一生関わることすらない人物なのである。

この話にはメイアが食いついた。
"物の構造"に興味があるメイアにとっては料理も一緒だった。

「それは確かに凄いですね!」

「そうでしょ!」

「お姫様が美味いって言ったからって、本当にそうだとは限らないだろ」

ガイは呆れた様子で言った。
そこにクロードが割って入る。

「いや、ザラ姫は"美食家"と聞いた。そのコミニュティも拡大してるとの噂だ。会員はかなりいると聞いたが」

「美食家?なんだよそれ。ただ食い意地張ってるだけじゃないのか?」

「あんた、品性のカケラもないわね……」

「食べるのに品性なんているかよ」

「ガイ、そんなんじゃ、お姫様に嫌われちゃうわよ」

何故か一方的に責められるガイの機嫌が、どんどん悪くなる。

「知るかよ。俺は先に闘技場に行ってるからな!」

そう言い放ったガイは人混みの中に消えていった。

「全くガキなんだから……」

「しょうがない。僕らだけで、その店に行こうか。なんと言う店なんだ?」

「"サンシェルマ"ってお店よ」

ローラが言った美味しいと噂のスイーツの店、"サンシェルマ"を目指して3人は歩き出した。

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そこは町の外れにある場所だった。
あまり立地は良くない。
出店は無く人通りも少なかった。
見かけるのは、ほとんど町の住民だけだ。

「本当にここかい?」

「え、ええ……そのはずなんだけどな……」

その場所は相変わらず、ぴっちりと敷き詰めた家屋が並んでいた。
どう見ても店というよりは民家だ。

「おっかしいなぁ。お姉様から、ここだって聞いてたんだけど」

「聞いてみたらいい。幸い歩いてる住民はいるからね」

クロードは"すまない"と言って、歩いていた女性に話しかけた。

「"サンシェルマ"って店を探しているんだが、ここじゃないのかな?」

「え?サンシェルマなら移店しましたよ」

「移店?」

「ええ。西地区の二号店だった場所に。あのお菓子好きだったのに食べられなくなっちゃったわ。あんなところ貴族しか歩かないから」

「そうか。ありがとう」

女性はそれだけ言うと歩き去った。
クロードはローラと顔を見合わせる。

「なんでよ!楽しみにして来たのに!」

「立地の問題だろう。いくら美味いと言っても、こんな場所では姫様も買いに来づらいだろからね」

「そのための二号店でしょうが!」

「ごもっとも。だが店を二つも切り盛りするのは苦労すると聞く。それなら、いっその事、古い店を閉めて、より多くの稼ぎがある方へ移動するのは自然なことだと思う。こんなところから始めるとなれば、家族経営だろうからね」

クロードの話にはメイアも納得した。
この場所よりも立地も客層もいい西地区へ移動した方が利益率はよさそうだ。

「はぁ……じゃあ西地区に移動を……」

「それは時間が掛かるから、ローラはそのままガイを追って闘技場へ向かってくれ」

「え!?そ、そんなぁ」

ローラの懇願するような瞳にメイアは心が痛くなった。
一方、クロードは真顔で、それ以上は何も言わなかった。

「わかったわよ!行けばいいんでしょ、行けば!」

「帰りに寄ったらいい。いい結果を残せたら僕が奢るよ」

"どうせ皆んなのお金でしょうが"……なんて言おうと思ったがやめた。
ローラが何を言ったとしても"闘技場行き"は覆ることはない。

そして、このままローラは東地区の中央にあるコロセウムへ向かい、メイアとクロードはアカデミアがある西地区へと向かうのだった。
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