69 / 244
大迷宮ニクス・ヘル編
不意なランクアップ
しおりを挟むアダン・ダルへ戻ってきた多くの冒険者たちは唖然としていた。
迷宮に閉じ込められていた数日で、町自体が無くなるという状況に理解が追いつかなかったのだ。
先ほどまで雲一つない昼下がりだったが、少しづつ増え始め、この地方では珍しく雨が降りそうだった。
そんな中、町の中央広場には1人の女性がいた。
短い青髪にキャミソール、ホットパンツの少女……のように見えるが、顔立ちは凛々しい。
背の小ささからか、木箱の上に乗って冒険者たちに状況を説明していた。
"魔物の仕業によって作られた町と迷宮"
冒険者たちは耳を疑ったが、最強クラスの人型の魔物となれば、そんなこともあり得るのだろうと納得せざるおえなかった。
そして青髪の少女は冒険者の中にいた誰かを見つける。
すると涙ぐみ、木箱から飛び降りて走り出した。
冒険者たちを掻き分けて、1人の少年に抱きつく。
周りはこの状況を驚きつつ見ていた。
「よかったよー。ガイ……」
「ローラ……おいおい、みんな見てるだろ」
「あら、若いってイイですわね」
その声に反応してハッとしてガイから離れる。
声の主は2人をニコニコとした表情で見ていた。
「な、なんなの……この女は……」
ローラの警戒心を強める。
両肩に掛かるような長さのゴールドの巻き髪に赤い鎧、白く短いスカートの背が高い女性。
左手には見たことのない剣を持っていた。
「まさか……あんた、あの迷宮で……」
「何を想像してんだよ!!カトリーヌは俺を助けてくれたんだ」
「へ?」
「いえいえ、私の方が助けられましたわ」
笑顔でそう言うカトリーヌ。
ただただ"美人"……ローラはそう思った。
「私はこれで失礼しますわね。パーティを探さないと」
「ああ。今度はいつ会える?」
ガイの言葉にローラは固まる。
どういう質問なのだろうかと眉を顰めた。
「あなたの目的地は?」
「ロスト・ヴェローだ」
「……なるほど」
カトリーヌは少し表情を曇らせ、顎に人差し指を当てて考えていた。
「なら私もそちらへ向かいましょうか。でも、あなたのランクだと王都より先の北には行けませんわよ」
「あ……ランク……」
「そうだわ……ギルドも無いから結局ランクあがらないじゃない!」
ガイとローラは気づいてしまった。
最初は迷宮を攻略すればランクが一つ上がるものだと思っていたが、町のギルド自体が消滅している以上、ランクアップは望めない。
「北に行くには、まだまだ時間は掛かりそうだな」
「え、ええ……」
ガイとローラはため息をつく。
そのやり取りを見ていたカトリーヌは笑みを浮かべて口を開いた。
「なら、私があなたのパーティのランクを上げますわ」
「え、そんなことできるのか?」
「ええ。これでも国王からナイトの称号をもらってますから」
「なんですって!?」
ローラはこの発言によって初めて目の前の女性がSランク冒険者だと知った。
「ナイトはギルドマスターの権限も持ってますのよ。あなた方のパーティのランクを一つ上げるように手紙を書いておきましょう」
「マジか!」
「これで入れる町が増えるわね!」
「ですが一つ上げてもCランクですから。王都も含めて北へ行くとなれば、もう一つ上げる必要がある」
「そうだな」
「でもガイ、あなたらすぐにBランク上がりますわ」
「え?」
「そして、あなたは必ずナイトになる」
カトリーヌの言葉に周囲の冒険者たちが反応した。
S級冒険者であるカトリーヌの美貌に顔を赤らめる者が多くいたが、それ以上にガイへ注がれる視線は多かった。
S級冒険者に認められた少年。
一体、この人物は何者なのかと皆が思った。
「そんなのわからないだろ」
「いえ、あなたは必ず私を倒す。そしてナイトになりますわ」
そう言ってニコリと笑うカトリーヌ。
そんなやり取りをしていると後方から叫ぶ声が聞こえてきた。
「お嬢!!お嬢!!」
「あら、私が見つけるつもりが……まぁいいですわ。では私はこれで失礼致します」
「ああ。ありがとうカトリーヌ」
カトリーヌはガイとローラに笑顔で手を振って別れる。
カトリーヌが後方に少し歩くと2人の男女が立っていた。
黒いマントの男と東方の民族衣装を着た若い女性だ。
「お嬢!よかったです!まさか迷宮の入り口で分断されるとは……俺たちが油断しました」
「……ごめんなさい」
2人の暗い表情を見たカトリーヌはキョトンとした顔をしたが、すぐに笑みをこぼす。
「いいんですのよ。二人とも無事で何よりでした。それに、お陰で私はいい出会いをしましたので」
「誰です?」
「"ヴァン・ガラード"の弟ですわ」
「なんですって……まさか"獄炎のヴァン"に弟がいたなんて」
「彼と会ったのは駆け出しの頃だったので忘れかけてました。昔の命の恩人の弟となれば助けないわけにはいかない。さらに私と同じワイルド・ナインとなればなおさらですわ」
「ヴァンの弟がワイルド・ナインとは……まぁヴァン・ガラードは"波動の天才"と言われるほどでしたからね。ロスト・ヴェローの一件が無ければ世界トップクラスの波動使いでしょう」
「ロスト・ヴェローで起こった惨劇は口には出さなかったですわ。ですけど、彼がアレを知るのも時間の問題でしょう」
「そう……ですね」
「私たちもロスト・ヴェローを目指します。できる限りガイをバックアップする。あの惨劇に関わった、"あの男"を彼に近づけさせてはならない」
「また北ですか……寒いのは苦手ですが、お嬢がそうおっしゃるなら仰せの通りに」
S級冒険者の3人はアダン・ダルを後にした。
目指すのはロスト・ヴェロー。
そして、この出会いによってナイト・ガイはCランクに上がることとなった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる