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大迷宮ニクス・ヘル編
6人の干渉者たち
しおりを挟むアダン・ダル 4日目
昨日の情報収集によって雑貨屋のケイトとドミニク、町の入り口に現れる少年ジョシュアが毎日同じ行動をとっていることにクロードはある魔物の存在をあげた。
"魔幻夢ニクス・ヘル"
この魔物は他の魔物とは違う。
特殊なスキルを所持しており、それを駆使して戦うという。
早朝からクロードとローラは宿の前にいた。
夕方に少年に会った後、そのまま宿へと戻って休んだのだ。
「昨日いろいろ情報を掴めたのはいいけど、"夢を見てる"ってどう言う意味なの?」
「"ニクス・ヘル"の能力は一人の人間に夢を見させ、それを周囲に展開するもの。だから他人であっても認識できるようになる。そして、夢の中の人間は夢を見ている人間の意識と関係なく独立して動くようになるんだ」
「じゃあ、この町は誰かの夢の中で、他の住民たちは、その誰かの作り物ってこと?」
「そうだ」
「ちょっと待って、じゃあ、この町の人たちはどこに行ったのよ」
「恐らく、たった一人を除いて、全員死んでるだろう」
「な、なんですって……」
「それがニクス・ヘルのやり方なんだ。町を全滅させるが一人だけを残して夢を見させる。町がまだあるかのようにカモフラージュするんだ」
「何のために……?」
「理由なんてない。ただ好きだからさ」
「そんな……でも、そんなのすぐバレるんじゃないの?」
「だから目立たない町を狙う。まぁ、それでも夢というのは矛盾している。必ず歪は出るが、住民の"時間軸の認識"さえしっかりしていれば、ある程度は誤魔化せる」
「時間軸?どう言うこと?」
「"魔物に襲われたのは半年前"これだけは認識されていた。町の人たちは同じ一日をループしてる。仮にこの夢が魔物に襲われた次の日に発生したとすれば、魔物に襲われたのは昨日ということになる。だから普通なら町の人間に聞けば毎日、"昨日襲われた"と言うだろう」
「確かに……それだとすぐバレちゃうわね」
「町の平凡な暮らしは、ほぼ毎日同じだ。ただ同じ日を繰り返しているのとなんら変わらないんだ。だから外から冒険者が来ても、"こんな町なんだろう"くらいにしか思わない」
「でも、どうやって、その夢を見てる人を探すのよ。小さい町って言っても凄い人口よ」
「確かに、この町の人口から犯人を探し出すのは不可能に近い。だが、ほとんどの人間は僕たちに干渉するどころか見向きもしないが、逆に干渉してきた、またはできた人間が今のところ6人いた」
「えーと。"ジョシュア"と雑貨屋の"ケイト"と"ドミニク"。"オーレル卿"……あとは……」
「ギルドの受付嬢の"ミリア"と、オーレル卿の屋敷で会った"アンナ"だ」
「それ以外にもいるって考えられない?」
「考えられないわけではないが、恐らくキャパシティ限界だろう。彼らの記憶が曖昧なのを見ればわかる。恐らく独立して動いている人間は、いたとしてもあと1人か2人だろう。オーレル卿の屋敷の執事とかね。だが、あれは除外してもいい」
「だとすると、やっぱり……」
「僕は、この6人の中に"夢を見ている者"がいると考えているよ。西の遺跡に迷宮を作った犯人か犯人に繋がりがある人物だろうね」
"ジョシュア"、"ケイト"、"ドミニク"、"オーレル卿"、"ミリア"、"アンナ"。
これらの人物が、この町で起こっている出来事と西の遺跡の迷宮に関係しているのではないかと思われる者たちだった。
町の中で、たった1人だけ生きのびて夢を見ているのだ。
____________________
クロードとローラは冒険者ギルドへ向かっていた。
それは、容疑者と思われる6人の関連性を調べるためだ。
「なんで関連性?」
「これは誰かの夢。すれ違う者たちが僕たちに無関心なのは、"夢を見ている人間"と"町の人間は無関係"だからだ。つまりこの6人の中の5人全員と接点がある1人を探し出せばいい」
「その人が犯人ってこと?」
「恐らくね」
「じゃあ、ジョシュアは違うわよね。ギルドの受付嬢とか貴族のオーレル卿とかと関わりがあるとは思えないし、ましてや、あのツンツン女のアンナなんて関係性無いでしょ」
「どうだろうね?まぁ、調べていけばわかることさ」
ローラはクロードが子供のジョシュアを容疑者に入れている意味がわからなかった。
視野も狭く人間関係だって乏しい少年が犯人であるはずがないとローラは思っていたのだ。
2人はギルドに到着し扉を開けるが、そこには人が全くいなかった。
ただ正面のカウンターには目当てとした人物が立っていた。
「いたな」
「ええ」
受付にはブロンドの長い髪でぴっちりとしたスーツを着用した笑顔のミリアがいた。
2人はギルドの受付カウンターまでまっすぐ向かう。
「どうも」
「私はこのギルドの受付を務めております!ミリアと申します!本日はどの依頼をお受けになりますか?」
「いや、少し聞きたいことがあってね」
「なんでしょうか?」
「"アンナ"という女性を知ってるかい?」
クロードが最初に切り出したのは"ミリア"と"アンナ"との接点だった。
オーレル卿はこの依頼を出した人物なので、もう面識はあるだろうと予測してのことだ。
「ええ。存じておりますよ。なにせこの町を守っている騎士様ですから」
「騎士?」
「はい。西の遺跡に強い魔物が封印されているので、その監視役として王都から派遣された騎士様です」
「強い魔物?それが今回襲ってきた魔物ってことかな?」
「それはわかりませんが、確か名前は"バフォメット"だったと思います。もし封印が解けるとレベル10に匹敵する強さとのことです」
「レベル10!?」
ローラが驚く。
こんな近くに、そんな強い魔物が封印されていたとは思いもよらなかった。
「なるほど。アンナはよく来るのかな?」
「いえ、全然来ませんよ。多分ですけど、彼女は冒険者が嫌いなのではないでしょうか?」
「確かに、その印象は受けたね」
「なので会ったのも数回ほどです」
「そうか、ありがとう」
「いえいえ」
ミリアはニコリと笑った。
そしてクロードが少し考えていると、ローラが口を開く。
「あ、あの、ジョシュアという男の子知ってますか?」
「え?ええ。もちろん、私の息子ですから」
「は?」
この情報にはクロードも驚く。
目の前のミリアという女性は見るからに若い。
それでありながらドミニクの妻でジョシュアとケイトの母だということだ。
「私の息子が何か?」
「いえ……なんでもありません」
クロードとローラは顔を見合わせて、ミリアに少し会釈するとギルドを出た。
「まさか、ジョシュアの母親だったなんて……」
「こうなると彼女は5人全員と接点があることになるな」
「確かにそうね。次は誰のところ?」
ローラがそう聞くとクロードは"陽の位置"を見た。
「恐らく、もう少しで中央広場付近にアンナが現れるだろう」
「はぁ、あのツンツン女と話をしないとダメだなんて……」
「心配無いさ。どちらにせよ彼女は"寝てる"か"死んでる"からね」
「まぁ……確かに」
ローラは妙な安心を感じていた。
しかし純粋にアンナという女性は嫌いだが、こんなことで安心してしまう自分に少し幻滅する。
こうしてクロードとローラは、アンナに会うために中央広場へ向かうのだった。
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