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ワイルド・ナイン
しおりを挟むカレアの町 宿
夕刻、部屋はテーブルの上に置いた一本の蝋燭の火だけが照らす。
ガイが目を覚ました。
部屋を見渡すと、ベッドの横に椅子に座ったメイアがいた。
涙目のメイアはベッドに横になっていたガイへ抱きつくように飛び乗る。
「ガイ!よかった」
「いたたたた」
まだ傷が治りきっていないのか、胸の辺りがヒリヒリと痛む。
メイアはすぐに椅子に座り直した。
ガイがメイアを見ると、涙が頬を伝っていた。
「ごめん」
「大丈夫さ。俺は……どれくらい寝てたんだ?」
「三日くらい。もう起きないんじゃないかって心配したわ……」
「あいつは?」
「あいつ?……ああ、クロードさん。今、買い出しに行ってる。気を失っていた私たち二人をここまで運んで来てくれたのよ」
「そうか……」
ガイは木作りの天井をうつろに眺める。
自分が"生きている"ことに不思議を感じていた。
森で戦ったベオウルフの爪は完全に心臓を貫いたと思ったが、おそらく急所を外れていたのだろう。
「メイアも無事でよかった」
「うん。クロードさんのおかげよ」
「そう……だな……」
ガイもそれは同意だった。
クロードがいたからメイアは波動の力を発揮し、さらにガイ自身も波動を使うことができた。
「波動……あれ……?」
「どうしたの?」
「波動を感じない……あの時は確かに……」
その時、部屋のドアが開いた。
入ってきたのはクロードだった。
「君は、まず体の中の波動を感じるところから始めないとな」
ニコニコと笑顔のクロード。
その表情はガイが目を覚ましたことが喜ばしい……そんな顔をしていた。
「俺の中の波動は、極小って言ってたな」
「ああ。極小だが"君の場合"は一つで数百万以上の波動に匹敵する」
「数百万……それが、なんで極小なんだ?」
「莫大な量の波動が体に収まらないからさ」
ガイとメイアが驚く。
"波動"は謎が多い。
こんな話は聞いたことすらない。
「波動数値が9以下なら、まず間違いなく波動量は1000万は超える。これは人間の体に収まり切らないほどの量だ」
「1000万だって!?」
「通常なら収まりきらない分は消えてしまって、その人間の適正の量に調整されてしまう。だが、稀にそれがおこなわれない人間がいる」
「それが低波動?」
「ああ。この世界での突然変異。体の中にある、見つけられないほど極小の波動の塊を宿した人間。僕たちは"ワイルド・ナイン"と呼んでいた。ちなみに六大英雄は全員、低波動さ」
「……初めて聞く話だ」
「だろうな。9以下だと体の中の波動が見つけられないだろうから、最初っから自分に波動なんて無いって決めつける」
「10から99はどうなんだ?そいつらも低波動だろ」
「僕が知る限り10から99の数値の波動を持った人間は見たことがない。恐らく存在しないだろう。どんな人間も自分で感じられるほどの波動、つまり100以上は持ってる」
「……」
「君はベオウルフとの戦いで、自分の中に7つある波動の粒の一つを見つけた。もしそれを全て見つけられたなら……君はこの世界でも最強の波動の使い手になるだろう」
「そう言っても、もう見失ってるけどな……」
「焦ることはないさ。君の波動はずっと君の中にある。その波動は君を必ず守るよ」
「俺の……波動……」
そいうとガイは胸に手を当てた。
首から下げた波動石を手に取ると、色を見るが、ごくわずかに薄らと赤みがかっているだけで、ほとんど白と変わらなかった。
「とにかく今日は休むんだ。明日ギルドに三人で行って報酬をもらおう。やっぱりパーティリーダーがいないないとな」
「ああ……」
"パーティリーダー"という言葉に少し頬を赤らめるガイ。
メイアは笑みを溢しながら、そんなガイを見た。
最初は最弱パーティだとガイは思った。
そんなパーティの初の討伐依頼はランクAの冒険者でも苦戦すると言われるレベル8の魔物の撃破。
ガイはそう考えただけで、少し胸が熱くなった。
そして、それがどんな意味を持つのか……ガイはすぐに知ることになる。
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