最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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ガイ・ガラード

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ガイ・ガラードはセルビルカ王国の南に位置する村であるベスタで生まれた。

"冒険"とは程遠いこの村は農作物や家畜の世話で汗を流す。
人口は数十人、家屋も数軒ほどしかない小さな村だった。

ガイの家は農作物を育て、育てた作物を町まで運ぶ。

ガイが10歳になる頃、父に連れられ始めて町に赴いた時は言葉を失っていた。
多くの家屋が立ち並び、出店も多く、人間の数も多かった。

そしてガイが一番気になったのは、鎧を着て剣を腰に差した冒険者の姿だった。

この時からガイの願いは自然と決まっていた。

"冒険者になること"

ガイの夢は日に日に膨らんでいくのだった。


____________



ガイは5人家族だった。
父と母、兄と妹、そしてガイ。

兄は15歳になる頃、父と喧嘩して家を出て行った。
なぜ喧嘩したのかは想像がついた。

兄もガイと同じで"冒険者"に憧れていたのだ。
そしてある日、父にその話をして喧嘩になった。
次の日、兄は家から飛び出し、それっきり会っていない。

その数年後、父が病で亡くなり、母と妹のメイアと3人で暮らしていた。

それからガイはなんの変化もない暮らしを続けていた。
もう冒険者になりたいという夢すら忘れかけていた。

そんな時、兄から手紙が届いた。

____________


ロスト・ヴェローにいる

たすけてくれ

ヴァン・ガラード

____________


母がその手紙を見た時、膝から崩れて落ちて泣き出した。

ガイは"ロスト・ヴェロー"というものを知らなかった。
もちろん妹のメイアもだ。

だが母は知っていた。
ロスト・ヴェローはこの国の最北端の町で国境に近い場所にある。

ここは魔物のレベルが8を超え、A、Bクラス以上の冒険者しかいないとされる町の名前だった。
現在Aクラスの冒険者は5人しかおらず、さらに最強とされるSクラスは3人しかいない。

兄がなぜこの町にいるのかは不明だったが、ガイは大事な家族の事を思えば助けたかった。

ヴァンはどうしようもない兄だったが、母も同じ気持ちだった。

何年掛かるかはわからない……
だがガイとメイアの2人は決意していた。
最低でもBランクに上がりロスト・ヴェローを目指す。

ここからこの2人の冒険は始まったのだった。


____________


セルビルカ王国 カレアの町


町に到着したガイとメイア。
2人はギルドに登録するため町を歩く。

そしてギルドにたどり着くとガイは息を呑んだ。
緊張感もさることながら、ここから冒険が始まるのだと思えば胸が高鳴った。

「メイア、行くぞ」

「うん」

2人はギルドへ入る。
すると中にいる冒険者達は一斉にガイ達を見た。
その視線に緊張しながらもガイは受付へ向かう。
すると1人の女性が対応した。

「あら、ここは初めてですか?」

「は、はい。ギルドに登録したくて来ました」

ガイは村の人間以外とあまり話したことはない。
さらに女性となればなおさらだった。

「駆け出しの冒険者さんですね!歓迎します!私はジェシカといいます。お名前を伺ってもいいでしょうか?」

「え、ええ。ガイです。ガイ・ガラード」

その瞬間だった。
周囲にいた冒険者達がざわめき始めた。
ガイと後ろに立つメイアは少しそれが気になった。

「ガイさんですね!では波動チェックをおこないますので、こちらの水晶に触れて下さい」

「は、はい!」

ガイは水晶に触れた。
メイアも気になって横から覗き込む。
この数値によってこれからの運命が決まると言っても過言ではなかった。

「えーと……え?」

「どうしたんですか?」

ジェシカは眉を顰めて首を傾げた。
そして水晶をまじまじと覗き込む。

「7……?」

「え?」

「ガイさんの数値は……7です……」

そうジェシカが言った瞬間、周囲の冒険者が吹き出して笑い始めた。
ガイはこの数値が意味することがわからなかった。

「一桁だと!?そんな数値初めて聞いたぞ!」

「ある意味レアだな。ある意味!」

「帰った方がいいんじゃないか田舎もん!」

ガイはなぜ皆が自分を馬鹿にしているのか理解できなかったし、メイアも同じだ。
そこにジェシカが申し訳なさそうに口を開いた。

「数値は高ければ高いほど強力な武具を扱えます。ガイさんの場合は数値が極端に低いので、せいぜい短剣程度しか扱えないかもしれません……」

「そ、そんな……」

ギルド内の笑い声は止まらない。
ガイは俯きながら涙を堪えるのがやっとだ。

「でも小さい依頼なら心配ないと思いますよ」

「お、俺はロスト・ヴェローまで行かないといけないのに……」

ガイの発言にジェシカは言葉を失った。
そして周囲の冒険者の1人がガイに近づいてきて首に腕を回した。

「ロスト・ヴェローに行くだって?それはここのギルドにいる冒険者全員の目標だよ。だがあそこに行くためにはランクB以上になることが絶対条件だ」

「……」

「ランクBに上がるためにはレベル6の魔物を倒す必要がある。最近ランクBに上がったルガーラさんの波動数値はいくらだと思う?」

周りの冒険者はニヤニヤしながらガイを見ていた。
その視線に耐えきれず俯くガイ。

「12万だ」

「12万……!?」

ガイは聞き直した。
そんな数値を言われたら、自分の数値なんて子供以下だ。
たった7しかない波動数値で、どうやってこの先やっていけばいいのかわからなかった。

「悪い事は言わない。田舎に帰れ少年。どうしても残りたいなら俺らのために薬草採ってくる依頼でも受け続けるんだな」

そう言って冒険者はガイから離れ、パーティメンバーと一緒にギルドを後にした。

「ガイ……」

メイアが真剣な表情でジェシカを見る。

「私の数値を!」

「え、ええ。どうぞ」

メイアが水晶を触った。
すると数値が浮かび上がり、ジェシカがそれを見ると笑顔になった。

「メイアさん!5万です!」

「え!?メイアが……5万……」

ガイが驚いた。
まさか自分よりも妹の方が波動数値が高い。
その動揺は大きかった。

「ガイ、ロスト・ヴェローまでいきましょう!」

そのメイアの真剣な眼差しにガイは心動かされた。
明らかに苦難の道であることは確かだったが、2人なら乗り越えられる気がした。

ガイは笑みを溢し無言で頷く。

ガイがジェシカに向き直る。
2人はここに来て初めての依頼を受けた。

簡単な薬草採取の依頼だ。

そして依頼後、この2人は自分達を運命を大きく変える人物と出会うのだった。
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