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傭兵稼業はほどほどに
第三話 ダンジョンへ
しおりを挟むこのゲームの上級者ダンジョンには特徴がある。
それは"ダンジョン内デメリット"と呼ばれるものだ。
それぞれのダンジョンには固有のデメリットが設定されており、それが厳しければ厳しいほどクリア後の報酬の量が大きくなるという仕様である。
そして俺たちが今回挑む中級者としてのラストダンジョンにも特別なデメリットが設定されていた。
恐らく上級者ダンジョンへの登竜門といった意味合いなのだろう。
このダンジョンのデメリットは、
__________________________
"ダンジョン内でHPがゼロになった場合、装備品以外の所持品を全てロストする"
__________________________
というものである。
ここは海岸沿いにあるディガティナ洞窟と呼ばれる場所で入り口自体は至ってシンプルだ。
白い砂浜にちょこんと岩が空洞になったところから入るのだが、中に入った途端にデメリットがプレイヤーにデバフとして付与される。
今回のパーティメンバーである4人が揃って並び洞窟の前に立つ。
そして先陣を切って俺が恐る恐る洞窟に入ろうとした時だった。
"ピロン"というゲーム音が鳴り、小さな通知表示が右下に出る。
「ん?」
内容は"メッセージが届きました"というものだ。
俺がステータスの画面を開こうとした時、横に立っていた金髪ポニーテールの女騎士が顔を近づけた。
「どうかされました?」
「あ……いや、メールが届いたみたいで……」
キョトンとした表情をした彼女はすぐに笑顔になって、
「確認はここが終わった後でもいいでしょ。フレンドからなら、"このダンジョンをクリアしたぞ"って自慢するような返事をしたらいいですよ」
と言ってクスクスと笑った。
そのまま彼女は金色のポニーテールを靡かせながら、なんの躊躇もなく洞窟へと入っていく。
俺は"それもそうだな"と思ってメールは確認せず彼女に続き、後方からはコムギとコブトリが追いかけるようにして洞窟に入った。
「凄いですね。さすが上級プレイヤーは違うなぁ。全然迷いがない」
「ここは何度も来ましたからね」
「へー。その時は何人で攻略を?」
「"一人"ですよ」
「え?」
彼女が言った言葉に俺は眉を顰めた。
確かこのダンジョンは4人以上でしか入れないはずだ。
「ああ、人数制限の件ですか?」
「はい」
「上級にあがると中級のダンジョンは人数制限無しで入れるようになるんですよ。知らなかったですか?」
「え、ええ。俺はあんまり攻略とか見ないので」
これはある意味ポリシーのようなものだ。
サークルでの決まり事でもあったが、やはり自分自身も初見の感動というものを重視している。
よく初見配信なんてやってる者を見かけるが、コメントなどで攻略をネタバレされたら達成の感動も薄れてしまうと思う。
「それは凄いですね。私は予習復習するのがクセみたいになってます。でないと不安で試験の前なんて寝れませんよ」
「試験?」
「え、ああ一応、学生なので……」
俺は驚いた。
もしかしたら自分もりも年下なのか?
それでいて最前線の攻略パーティのリーダーをしているなんて尊敬ものだ。
恐らく若くしてかなりの腕前なのだろう。
俺たちは女騎士を先頭に青白く光る結晶の洞窟を進んだ。
ダンジョン内はかなり複雑な構造をしているのにも関わらず何本にも別れた道を全く迷いなく右へ左へと歩いていく。
もしかして、このマップが頭の中に入ってるのだろうか?
何度も来たと言っても中級者ダンジョン攻略なんてどれくらい前のことだろう。
俺があり得ないと呟こうとした瞬間、"やはり"と言っていいほど簡単にモンスターとエンカウントした。
青い結晶を身に着けたリザードマンだ。
二足歩行のトカゲで人間ほどの大きさがある。
俺は腰に差したブロードソードを引き抜き前に構えた。
数メートル先に立つ彼女も左腰の"漆黒の剣"に手を伸ばす。
ここはいいところを見せなければ。
俺は地面を勢いよく蹴って彼女よりも前に出た。
驚く彼女を背にして結晶のリザードマンに斬りかかる。
「はぁぁぁぁ!!」
縦一線の振り下ろし斬り。
それはリザードマンの肩へ落ちて硬い結晶に当たる。
金属同士がぶつかり合ったような高音が洞窟内に響き渡った。
「下がって!」
背後から聞こえる声。
それは彼女の声だ。
瞬間、リザードマンの後ろから、もう一体のリザードマンが現れて鋭利な爪に引き裂かれる。
この周辺で手に入る自慢の鎧は簡単に砕け、自身のHPバーはレッドゾーンへと向かう。
「ひぃ!!」
死の恐怖から俺は後退した。
逆に前に出た女騎士は左腰に差した漆黒の剣を引き抜くと同時に斬撃を放つ。
「"不浄闇喰・ソウルイーター"」
彼女が横に振り抜いた漆黒の剣から無数の黒蛇が出現して切断されたリザードマンへと噛み付いた。
黒蛇は2体のリザードマンを喰らい尽くし、逆再生されるように漆黒の剣へと戻っていった。
俺はすぐに振り向いてコムギを睨んだ。
「お前!!いつもいつもヒールが遅いんだよ!!」
「ご、ごめんなさい」
「まったく……ここで死んだら今までの苦労が水の泡だろうが」
"だから下手くそを連れてきたくなかった"……そう言おうとさらに口を開こうとした時、コムギの隣にいたコブトリが苦笑いを浮かべながら言った。
「まぁまぁ、今の展開で瞬時にヒールを入れるのはなかなか難しいと思いますので」
「……」
何を意味がわからないことを言っているのか?
このノッポも同じく下手くその部類なのだろう。
「とにかく前に進みましょうか。前衛は私がやりますのでユリムさんはバックアップをお願いします」
「え、ええ、わかりました。俺のパーティメンバーが迷惑をかけます」
「大丈夫ですよ」
彼女は笑顔で言った。
やはり有名プレイヤーは違う。
強さもさることながら迷惑をかけたメンバーへの配慮もできるなんて。
俺は照れながらも先頭を歩く彼女の後を追うようにしてダンジョンを進んだ。
この後、何度か戦闘はあったが、ほとんど彼女がモンスターを倒していた。
動きを見るに、このダンジョンに出現するモンスターのモーションを全て理解しているかのようだ。
そんな彼女に憧れ……というよりも恋心に似た何かを感じつつボスが待つ部屋を目指した。
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