上 下
198 / 200
最終章

炎の男

しおりを挟む

玉座を背負い立つのは傷だらけのロゼ。
入り口の扉を背負い立つアルフィスはリミッター解除後の姿だった。

部屋は漆黒の炎に包まれるが、中央の床に突き刺さった"真紅の剣"だけが赤い光となって部屋を灯す。

お互いの睨み合いが数秒あったが、最初に動いたのはロゼだった。

「"極炎破龍"」

中央の大剣から炎が渦を巻く。
巨大な炎の竜が出現すると、それは高速でアルフィスへと向かった。

アルフィスは手をかざして熱波で炎の竜を吹き飛ばす。
吹き飛ばした瞬間、目の前にはロゼの姿。

ロゼは左手を前に出して広げる。
小さい真紅の炎の球を作ると、すぐに指で弾き、赤炎のレーザー砲をアルフィス目掛けて撃った。

それをアルフィスは前に姿勢を低くして回避。
ダッキングしたまま、一気にロゼのとの距離を詰めて右拳のボディブローを叩き込んだ。

「ぐはぁ!!」

ロゼは地面を転がる。
そこにアルフィスの魔法、"デストロイ・インフィニティ"が発動した。

「ナナリー!!リモータル・ドラグーン」

アルフィスの隣に現れた髪の長い漆黒の女性。
手にもつ剣を前へ出すと、鞭のように伸び、床を転がるロゼに一瞬で巻きつく。

そして瞬く間に引き戻され、アルフィスの元に戻った。

「一撃で終わると思うな!!猛速弾ラピット・バスター!!」

引き戻されたロゼに両拳による六連打を放つ。
凄まじい爆発で黒煙が2人を包む。

二重焔ダブルドライブ衝撃インパクト!!」

黒煙の中で、もう一撃。
ロゼはさらに広がった黒煙から吹き飛ばされ出た。
床に一度も着くことなく、大剣へ激突しそうなほどだ。

「メルティーナ!!」

アルフィスの体の周囲に熱波が広がり、黒煙を消した。
次に隣に出現した漆黒のツインテールの女性は弓を構える。

アルフィスは赤い歪な線となり、その場から消えるとロゼの方へと向かった。

「凄まじ攻撃……しかし、まだまだ!!」

ロゼの目の前に一瞬で到達したアルフィス。
だが、その動きを読んでいたロゼは到達瞬間にアルフィスの顔面狙いで右ストレートを放っていた。

アルフィスの頬にロゼの右拳が直撃するが、手ごたえが薄い。
少し眉を顰めるロゼだったが、その答えはすぐにわかった。

正面から来るという単純な動きに気を取られ、背後の気配の察知が遅れた。

ロゼが少し振り向くと、そこにはショートカットの女性を模った黒炎が立ち、回し蹴りのモーションをすでにとっていた。
体勢を低く、体を回転させ、打ち上げるように蹴りを放つ。

「ぶち込め!!クロエ!!」

ロゼの横腹を直撃した蹴りの衝撃で大爆発を起こす。
同時に天井近くまで打ち上げられた。
そこに弓を構えていた女性を模った黒炎が一矢放つ。
その黒炎の矢は渦を纏い、空中に浮き上がったロゼへ猛スピードで向かい直撃した。

ロゼは反応しクロスガードするが、着弾と同時に黒薔薇が花開き、連続した大爆発が起こる。

「やったか……」

アルフィスの緊張の中、天井付近に広がる爆煙を凝視する。

瞬間、爆煙の中からレーザー砲のような線が地上のアルフィスへ向かって放たれた。
バックステップで回避するアルフィスだったが、連続して放たれるレーザー砲を回避し続けたことで、完全に入り口の扉を背負う形になった。

「マジか、まだ攻撃できるのか」

「俺も100%でいこう」

空中のロゼは熱波で黒煙を吹き飛ばすと、床に突き刺さった大剣から炎を吸い上げる。

大剣がどんどん薄くなり、全てが真紅の炎に変換される。
上半身が裸のロゼは"炎のローブ"を身に纏った。

「"極炎龍ごくえんりゅうころも"」

ロゼが着地すると、床は全て真紅の炎へに包まれる。
少しの時間でも立っていたら溶けて無くなりそうなほどの高熱だ。

「これで終わりだ!!アルフィス・ハートル」

その言葉に反応するように、熱波がロゼを中心として幾度となく広がり続ける。
アルフィスはクロスガードしているが、熱波の衝撃で入り口の扉に何度も打ち付けられ、さらには体の再生が間に合わないほどのスピードで、それは繰り返された。

「跡形も残さん。"永久絶炎破えいきゅうぜつえんは"……これで灰になるがいい」

「終われるか、こんなところで……!」

アルフィスは鋭い眼光をロゼへ向ける。
同時に体は全て"ヴォルヴ・ケイン"を纏い、それはシルバーアーマーと化した。
アーマーは全身から黒炎を上げ、さらに黒い熱波でロゼの熱波と、床を覆った真紅の炎を一時的に吹き飛ばす。

「なんという意思の強さだ……そこまでして、お前は……」

ロゼは生まれて初めて息を呑む。
だがアルフィスは、それに構うことなく、即座に左腰に"黒炎の剣"を作り、抜剣体勢。

「アゲハ……頼む……」

アルフィスの横にポニーテールの女性を模った黒炎が発生した。
その構えはアルフィスと瓜二つだ。

「天覇一刀流・奥義……」

"アルフィス"と"アゲハの炎"はロゼを一瞬見る。
そして2人は同時に剣を引き抜いた。

「切り裂け!!胡蝶・演舞の刃!!」

無限の剣閃。
数メートル離れるロゼにすぐさま到達した。
無数の剣閃は空間を切り裂くほどの威力。
さらに数十以上にも及ぶ連続した大爆発はロゼの炎のローブを消滅させ、さらに後方、玉座の方へと吹き飛ばした。

ロゼは耐え、床を踏み、前に出る。
それを見たアルフィスも床を蹴って前に出た。

「アルフィス・ハートル!!」

「ロゼェ!!」

部屋の中央、お互いが右ストレート。
回避なんて無い。

ぶつかった二つの拳は大きな風圧を広げる。
炎も纏わず、爆発もしない。

それは最後の力くらべだった。

数秒、同じ姿勢の2人。
アルフィスの全身のアーマーが砕ける。
長かった銀色の髪が抜けて灰になり、いつもの短髪へと戻った。
黒炎も消えるが、その瞳の光は死んでいない。
足を震わせて、膝をつきそうになるが耐えていた。

ロゼの眼光はアルフィスを睨んでいた。
歯を食いしばり、何かに耐えていたが、それはもう限界だった。

ロゼの腕が落ち、右拳と片膝は床についた。
それは、完全にアルフィスにひざまずいているような形だった。

「まさか……こんなことがあるとは……」

すぐに膝を上げるロゼは右ストレートモーションを崩さないアルフィスの横を通り過ぎる。

その際、軽く肩を叩いて、口を開いた。

「お前が来るまで、この二千年間、俺が温めておいた玉座だ。冷めないうちに座るといい」

ただ、それだけ言って、ゆっくり入り口の扉の方へ歩き出した。

扉を開け、少し振り返ると、ロゼはニヤリと笑い、その場を去って行った。

アルフィスは腕を下ろした。
放心状態であったが、玉座を見る。

一歩づつ、ゆっくりと、正面の炎の椅子へと向かう。

辿り着くとアルフィスは全ての力を抜き、玉座に座る。
焼け焦げた部屋を一望し、天井を見上げた。

……こうしてアルフィス・ハートルは"火の王"になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。(Image generation AI : DALL-E3 / Operator & Finisher : chocopoppo)

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...