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最終章
炎の男
しおりを挟む玉座を背負い立つのは傷だらけのロゼ。
入り口の扉を背負い立つアルフィスはリミッター解除後の姿だった。
部屋は漆黒の炎に包まれるが、中央の床に突き刺さった"真紅の剣"だけが赤い光となって部屋を灯す。
お互いの睨み合いが数秒あったが、最初に動いたのはロゼだった。
「"極炎破龍"」
中央の大剣から炎が渦を巻く。
巨大な炎の竜が出現すると、それは高速でアルフィスへと向かった。
アルフィスは手をかざして熱波で炎の竜を吹き飛ばす。
吹き飛ばした瞬間、目の前にはロゼの姿。
ロゼは左手を前に出して広げる。
小さい真紅の炎の球を作ると、すぐに指で弾き、赤炎のレーザー砲をアルフィス目掛けて撃った。
それをアルフィスは前に姿勢を低くして回避。
ダッキングしたまま、一気にロゼのとの距離を詰めて右拳のボディブローを叩き込んだ。
「ぐはぁ!!」
ロゼは地面を転がる。
そこにアルフィスの魔法、"デストロイ・インフィニティ"が発動した。
「ナナリー!!リモータル・ドラグーン」
アルフィスの隣に現れた髪の長い漆黒の女性。
手にもつ剣を前へ出すと、鞭のように伸び、床を転がるロゼに一瞬で巻きつく。
そして瞬く間に引き戻され、アルフィスの元に戻った。
「一撃で終わると思うな!!猛速弾!!」
引き戻されたロゼに両拳による六連打を放つ。
凄まじい爆発で黒煙が2人を包む。
「二重焔・衝撃!!」
黒煙の中で、もう一撃。
ロゼはさらに広がった黒煙から吹き飛ばされ出た。
床に一度も着くことなく、大剣へ激突しそうなほどだ。
「メルティーナ!!」
アルフィスの体の周囲に熱波が広がり、黒煙を消した。
次に隣に出現した漆黒のツインテールの女性は弓を構える。
アルフィスは赤い歪な線となり、その場から消えるとロゼの方へと向かった。
「凄まじ攻撃……しかし、まだまだ!!」
ロゼの目の前に一瞬で到達したアルフィス。
だが、その動きを読んでいたロゼは到達瞬間にアルフィスの顔面狙いで右ストレートを放っていた。
アルフィスの頬にロゼの右拳が直撃するが、手ごたえが薄い。
少し眉を顰めるロゼだったが、その答えはすぐにわかった。
正面から来るという単純な動きに気を取られ、背後の気配の察知が遅れた。
ロゼが少し振り向くと、そこにはショートカットの女性を模った黒炎が立ち、回し蹴りのモーションをすでにとっていた。
体勢を低く、体を回転させ、打ち上げるように蹴りを放つ。
「ぶち込め!!クロエ!!」
ロゼの横腹を直撃した蹴りの衝撃で大爆発を起こす。
同時に天井近くまで打ち上げられた。
そこに弓を構えていた女性を模った黒炎が一矢放つ。
その黒炎の矢は渦を纏い、空中に浮き上がったロゼへ猛スピードで向かい直撃した。
ロゼは反応しクロスガードするが、着弾と同時に黒薔薇が花開き、連続した大爆発が起こる。
「やったか……」
アルフィスの緊張の中、天井付近に広がる爆煙を凝視する。
瞬間、爆煙の中からレーザー砲のような線が地上のアルフィスへ向かって放たれた。
バックステップで回避するアルフィスだったが、連続して放たれるレーザー砲を回避し続けたことで、完全に入り口の扉を背負う形になった。
「マジか、まだ攻撃できるのか」
「俺も100%でいこう」
空中のロゼは熱波で黒煙を吹き飛ばすと、床に突き刺さった大剣から炎を吸い上げる。
大剣がどんどん薄くなり、全てが真紅の炎に変換される。
上半身が裸のロゼは"炎のローブ"を身に纏った。
「"極炎龍の衣"」
ロゼが着地すると、床は全て真紅の炎へに包まれる。
少しの時間でも立っていたら溶けて無くなりそうなほどの高熱だ。
「これで終わりだ!!アルフィス・ハートル」
その言葉に反応するように、熱波がロゼを中心として幾度となく広がり続ける。
アルフィスはクロスガードしているが、熱波の衝撃で入り口の扉に何度も打ち付けられ、さらには体の再生が間に合わないほどのスピードで、それは繰り返された。
「跡形も残さん。"永久絶炎破"……これで灰になるがいい」
「終われるか、こんなところで……!」
アルフィスは鋭い眼光をロゼへ向ける。
同時に体は全て"ヴォルヴ・ケイン"を纏い、それはシルバーアーマーと化した。
アーマーは全身から黒炎を上げ、さらに黒い熱波でロゼの熱波と、床を覆った真紅の炎を一時的に吹き飛ばす。
「なんという意思の強さだ……そこまでして、お前は……」
ロゼは生まれて初めて息を呑む。
だがアルフィスは、それに構うことなく、即座に左腰に"黒炎の剣"を作り、抜剣体勢。
「アゲハ……頼む……」
アルフィスの横にポニーテールの女性を模った黒炎が発生した。
その構えはアルフィスと瓜二つだ。
「天覇一刀流・奥義……」
"アルフィス"と"アゲハの炎"はロゼを一瞬見る。
そして2人は同時に剣を引き抜いた。
「切り裂け!!胡蝶・演舞の刃!!」
無限の剣閃。
数メートル離れるロゼにすぐさま到達した。
無数の剣閃は空間を切り裂くほどの威力。
さらに数十以上にも及ぶ連続した大爆発はロゼの炎のローブを消滅させ、さらに後方、玉座の方へと吹き飛ばした。
ロゼは耐え、床を踏み、前に出る。
それを見たアルフィスも床を蹴って前に出た。
「アルフィス・ハートル!!」
「ロゼェ!!」
部屋の中央、お互いが右ストレート。
回避なんて無い。
ぶつかった二つの拳は大きな風圧を広げる。
炎も纏わず、爆発もしない。
それは最後の力くらべだった。
数秒、同じ姿勢の2人。
アルフィスの全身のアーマーが砕ける。
長かった銀色の髪が抜けて灰になり、いつもの短髪へと戻った。
黒炎も消えるが、その瞳の光は死んでいない。
足を震わせて、膝をつきそうになるが耐えていた。
ロゼの眼光はアルフィスを睨んでいた。
歯を食いしばり、何かに耐えていたが、それはもう限界だった。
ロゼの腕が落ち、右拳と片膝は床についた。
それは、完全にアルフィスに跪いているような形だった。
「まさか……こんなことがあるとは……」
すぐに膝を上げるロゼは右ストレートモーションを崩さないアルフィスの横を通り過ぎる。
その際、軽く肩を叩いて、口を開いた。
「お前が来るまで、この二千年間、俺が温めておいた玉座だ。冷めないうちに座るといい」
ただ、それだけ言って、ゆっくり入り口の扉の方へ歩き出した。
扉を開け、少し振り返ると、ロゼはニヤリと笑い、その場を去って行った。
アルフィスは腕を下ろした。
放心状態であったが、玉座を見る。
一歩づつ、ゆっくりと、正面の炎の椅子へと向かう。
辿り着くとアルフィスは全ての力を抜き、玉座に座る。
焼け焦げた部屋を一望し、天井を見上げた。
……こうしてアルフィス・ハートルは"火の王"になった。
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