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火の国編
脱走
しおりを挟む火の国 モーン・ドレイク
森林で囲まれたモーン・ドレイク刑務所。
日中、暑い時間ではあったが、森が暑さを遮り、吹く風が幾分か、それを和らげる。
モーン・ドレイクの鉄製の門には大きな丸い穴が空き、焦げたような臭いも放つ。
門前にセレンとアインが立つが、その巨大な穴に息を呑んでいた。
「ん?誰か出てくるな」
「ええ」
門の先、刑務所の入り口付近から、ゆっくりと2人歩いて来た。
セレンは持つ槍を構え、アインも杖を構えた。
「あれは……」
セレンは完全にその人影を確認した。
すると一目散に走り出し、その2人の元へ向かう。
アインも、その後に続いた。
「アメリア先生?」
「あなたは……セレン・セレスティー」
黒髪のロングで白いワンピースを着た女性だった。
もう1人は黒髪の女性とは違い、金髪の貴族服の女の子だ。
「なぜ、ここに!?」
「話は後です。すぐにラザンへ戻りなさい!」
「どういうことですか?」
「ヤツが逃げました……」
「まさか……やはり"88番"か……」
セレンの表情は曇る。
その顔を見たアインは困惑していた。
明らかに尋常ならざる者の脱走だろうとは思った。
「とにかくセレスティー家へ。ヤツは"竜の涙"を手にしてしまった」
「な、なんだと……」
「竜の涙?」
そんな会話をしている時だった。
刑務所の方から2人の男女が歩いて来た。
どちらも囚人服を着ている。
男の方は痩せた体型、緑色の髪でボサボサの長髪。
左手にはステッキ型の杖を持つ。
女の方は長身で筋肉質、ブラウンの髪にボサボサの長髪。
左手にはショートソードを持っていた。
「久しぶりに出れたな相棒。私は感動しているよ!!」
「少し手間を取りましたけどねぇ」
セレンとアインは、アメリアを守るようにして前に出る。
その囚人2人と向き合う形。
距離は数メートル離れているが、ニヤケ顔の2人から放たれている殺気は異常だった。
「"51番"と"52番"」
「どっちが……どっちなんですか……?」
アインの困惑も無理はない。
番号には性別的特徴は何もなかった。
「番号が若いほうが女だ。また厄介なのが出てきたな……お前はアメリア先生と、その子を連れて山を降りろ。ここは私1人でやる」
「え?」
「ここからならラザンより、ガバーナルの方が近い。そっちへ迎え」
「で、ですが、魔物に不意打ちでもされたら……」
「大丈夫だ。その婦人は、私やノア・ノアールよりも強い」
アインはアメリアを見た。
確かに瞳に力強さは感じるが、セレンや聖騎士団長のノアよりも強いとは信じ難かった。
「とにかく早く行け。私はこいつらを処理して後を追う」
「わかりました!」
アインは2人を連れて、荷馬車へと戻った。
セレンは荷馬車には二頭の馬を付けてあることは想定済みだった。
荷台を置いて、二頭の馬に3人別々に乗れば済む。
「あれあれ、逃げるよぉ姉さん」
「相棒、目の前の相手に集中しろ。あれは一筋縄ではいかない相手だよ」
「そうだね。こいつを倒してから、ゆっくり殺しに行こう!」
51番と52番はニヤリと笑うが、その笑みは不気味だ。
セレンは持っていた槍を地面を擦るようにグルりと回す。
そして地面に横線をつけ、左腰に構えた。
「私の許可無く、この線の先へ行くことは許さない。引くなら今だぞ」
「せっかく、お外に出られたのに引くやつがあるか」
51番はそう言って、剣を構える。
それを見た52番は少し後ろに下がった。
「バディ隊列……戦闘開始とみなす!!」
鋭い眼光のセレンは地面を一蹴りで数メートル先の囚人2人へと向かった。
槍は左手に持ち、腰に構えたままだ。
「エンブレム……!!さぁ楽しませてくれよ!!」
「風よ……我が敵を切り裂き、臓物ぶちまけさせよぉ……」
51番は剣を下に構えてダッシュした。
セレンは、その51番の顔面狙いで一気に槍を突き出す。
「速い、速い……でも私の方が、もっと速い!!」
51番は顔面に槍が当たる寸前で、少しだけ首を逸らし回避した。
普通の人間の神経では、絶対に真似できない芸当だ。
そのまま下に構えた剣を両手持ちにすると、セレンの胸を狙って突きモーションを取る。
「苦しまないように一瞬で……」
だが、セレンは冷静だった。
遊んでいた右手を即座に動かし、右拳のフックを軽く"剣の平"に当てて軌道を左脇へとズラす。
そのまま飛び込んできた51番の顔面目掛けて、引いた右拳を一気に打ち出した。
「なん……だと!!」
51番は足に急ブレーキをかけて、上体を後方へと曲げて拳を回避する。
そのままバックステップして距離を取った。
セレンは、その"バックステップ"を読んでいた。
槍から手を離し、できるだけ後ろの方を持つ。
そして一歩踏み込み、一気にそれを突き出す。
それは完全に51番の回避行動先に届く長さだった。
「ひ、ひぃ!!」
だが、その瞬間、槍付近で爆風が巻き起こり、槍ごとセレンを仰け反らせる。
爆風はセレンへと迫るが、持っていた槍をグルグルと両手で回し、ダンスを踊るようにして、その爆風を掻き消してしまった。
「姉さん……こいつは……」
「只者ではないと思ったが……やはり、お前は……」
51番と52番は息を呑んだ。
明らかにモーン・ドレイク内にいた聖騎士達とレベルが違う。
「私は、この国のシックス・ホルダー、セレン・セレスティー。今のうちに"お外の空気"を吸っておくことだ……私の"拳"で、またこのモーン・ドレイクに押し込めて、二度と日も拝ません」
セレンの鋭い眼光は囚人2人を震えさせた。
いつも"殺す側"の2人は初めて"殺される側"の恐怖を感じたのだった。
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