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風の国編
新たな旅路へ
しおりを挟むセントラルに到着したアルフィスとナナリーは北東門で別れることになった。
アルフィスはいろんな出会いを経験したが、その分、別れも多く複雑な気持ちでいた。
「ここでさよならね。あの時はありがとう」
「あの時?」
「マルロ山頂で私を引き止めてくれた。とても感謝してるわ」
アルフィスはその時のことを思い出していた。
何かすごく恥ずかしいことを言ったような気がして頭を掻いた。
「ああ、そうそう。これを」
「ん?手紙?」
ナナリーはアルフィスに封筒に入った手紙を手渡した。
「紹介状よ。私の友達が土の国の中央ザッサムで傭兵をやってるはずよ」
「傭兵?聖騎士がか?」
「ええ。土の国は治安があまりよくないから、商人は傭兵として聖騎士を雇うことが多い。彼女はそれを生業にしている」
アルフィスは怪訝な顔をしながら手紙を懐に入れた。
アルフィス自身、今度はどんな人間がバディになるのか大いに不安があった。
さらに死神ナナリー・ダークライトの友達となればなおさらだった。
「これでお別れね。アルフィス」
「ああ」
アルフィスとナナリーは握手した。
恐らくこの出会いも一期一会。
ナナリーとはもう会うことはないだろうとアルフィスは思った。
ナナリーもそれは少しわかっていたが、これまで見せたことがないような満面の笑顔で手を振り、アルフィスを見送ったのだった。
________________
アルフィスは久しぶりにまた魔法学校に顔を出していた。
相変わらずザックとライアン、レイアは笑顔で再会を喜んだ。
アルフィスは笑い話のように風の国での出来事を3人に話すと、みな顔を引き攣らせていた。
そして3人からビックリするニュースを聞いた。
"今年の対抗戦で優勝したのはアインとマーシャ"
アルフィスとってそれは喜ばしいことだった。
去年、決勝で戦った相手で、それもライバルのアインとマーシャとなればなおさらだった。
三人の話しだと二人はそれぞれ実家に戻ったのだろうとのことだったが詳細はわからなかった。
だがアルフィスはアインとはまたいつか会えるだろうと思い、魔法学校を後にした。
________________
アルフィスはセントラル南西門に到着した。
門の外には砂埃が舞っている。
この先は明らかに砂漠地帯であることは容易に想像できた。
「まさか、火の国よりも暑いとはな……」
アルフィスはそう言うとため息をついた。
そして二つ名特典を利用し、検問待ちの列を無視して進む。
列に並ぶ商人や魔法使い、聖騎士が颯爽と歩くアルフィスを見ていた。
「あ、あれ……魔拳のアルフィス!本物だ!」
「かっこいいなぁ……あれが二つ名で最強の魔法使い……俺、憧れてんだよなぁ」
「間違いなく次のシックス・ホルダーは"魔拳"だろうな」
アルフィスはそんな声が聞こえてきて悪い気はしなかったが、流石に恥ずかしくなって鼻を掻いた。
前世だと怖がられることの方が多く、憧れなんて程遠かった。
そして、この世界に来た時は低魔力で下級貴族、さらにその素行の悪さで馬鹿にされたが、今は違った。
"魔拳のアルフィス"は魔法使いの中ではもう知らぬ者がいない、憧れの存在となっていた。
「強くなった気でいると成長は止まる……か……」
いつだったかアゲハが口にしていた言葉を思い出す。
慢心は最大の敵、今回はさらなる力を手に入れるための旅だった。
アルフィスは門を抜け、一面に広がる砂漠を見渡していた。
いつもなら仲間がいたが、ここからは一人。
そしてアルフィスはまた何の計画も無しに入国してしまったことを思い出すと苦笑いし、ため息をつくのだった。
第三章 風の国編 完
________________________
アルフィスが門を抜けると周りにはテントが張られていた。
その中には木箱が多くあり、セントラルから土の国へ運ばれる物資であることらアルフィスにもわかった。
そこにその物資を一つ一つ確認している聖騎士がいたが、アルフィスはその聖騎士に見覚えがあった。
黒髪のショートカットで小柄、聖騎士学校の制服と軽い鎧を羽織っている。
それはアルフィスがセントラルの聖騎士宿舎で出会った実の姉のリリー・ハートルだった。
アルフィスは姉のことをどう呼んでいいのかわからなかったが、さすがに声もかけずに立ち去るのは家族としてどうなのかと思ったので、リリーに近づいて声をかけた。
「おう。姉さん!」
「ん?あんた……アルフィス……」
振り向いたリリーはアルフィスの姿を見ると、一気に怪訝な表情へ変わった。
明らかにアルフィスはリリーから好かれていなかった。
「あんた……いつ水の国から戻ったのよ」
「それは結構前の話しだな。最近まで風の国にいたんだ。ノアに呼ばれてな」
その言葉にリリーは驚いた。
聖騎士団団長を呼び捨てにすることもそうだったが、これほど早く水の国のダイナ・ロアへ行って帰ってきていたことは知らなかったのだ。
「それじゃ……母上は……」
「喜べ!治ったぞ!」
「そう」
アルフィスのテンションとは違い、リリーは全く嬉しそうではなく、そっけなかった。
そんなリリーの表情を見たアルフィスは首を傾げた。
「おいおい、嬉しくないのかよ」
「なんで?あんな女」
「……てめぇ今なんつった?」
一転したアルフィスのドスの効いた声にリリーは息を呑んだ。
だがリリーは怯まずため息混じりに語り出した。
「あんた、まだ気づいてないの?父親のこと」
「なんのことだ?」
「呆れた……あんたは頭いいからとっくに気づいてたと思ったけど……」
アルフィスは困惑した表情で首を傾げた。
リリーが言いたいことが全くわからなかった。
「あれは本当の父親じゃない。髪の色見れば分かるでしょ。ビショップはゴールド、私達はブラック。そしてリンはゴールド」
「まさか……」
「今さら気づいたの?リンはあの二人の娘だけど、私達は違う。あんたほんとにアルフィス?」
アルフィスはリリーの言葉に汗をかいた。
土の国が暑いというのもあるが、明らかにそれだけではない。
「あの二人は私達の本当の父親を殺したのよ」
「はぁ?母さんがそんなことするわけないだろうが!」
「私は二人が話しているのを聞いたのよ。間違いないわ」
アルフィスは納得できなかった。
あの父親はやりかねないとしても、アメリアがそんなことをするとは思えない。
「私、本当の父親の名前もその時に聞いてるもの」
「本当の父親の名前?」
「そうよ。私達の本当の父親の名前は"アルフォード・アルヴァリア"よ」
アルフィスは"アルフォード"という名前に聞き覚えがあった。
それは風の王が言っていたラムザの記憶の中に出てきた者の名前。
アルフィスは、アルフィス・ハートルの本当の父親である"アルフォード"という人物について何も知らないが、この時、ただ一つだけわかったことがあった。
"アルフォード・アルヴァリアは父であるビショップと母であるアメリアの二人によって殺されている"
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