100 / 200
風の国編
死神
しおりを挟むアルフィスとナナリーは聖騎士宿舎の地下にある牢にいた。
ガウロ・クローバルと対面し情報を聞き出していたのだ。
「年を取るだと?」
「そうだ。それが魔剣レフト・ウィングのデメリットだ」
「それは一体どれくらいなの?」
ナナリーが気になって口を出す。
アルフィスもそれは気になった。
「一度、宝具のトリガーを引くと2年から3年ほど。能力発中、つまりレッドオーラが出ている状態だと数秒が数日、数分が数ヶ月、数時間が数年となる」
「マジか……」
「黒騎士……シャドウはこの一年ほどで何度トリガーを引いただろうな。恐らくもう高齢の年寄りだろう」
それを聞いたアルフィスとナナリーは絶句していた。
確かに最強のシックス・ホルダーを作ることが成功したとしても短命なら意味がない。
「しかもシャドウが身につけている鎧は"魔法防御強化の鎧"ブラックアーマーだ。今、彼に勝てる人間はいないだろう。それは聖騎士、魔法使い、さらにはシックス・ホルダーだろうとな」
「……」
「だが……どんなに強かったとしても、自身の寿命には勝てない。シャドウは力を振るう度、それはいつか死に繋がる。恐らくそれは近いだろう」
「どこへ行ったかわからないのか?」
「うーむ……クローバル家の別荘には行ったのか?」
「ああ。そこで一度戦った」
ガウロはアルフィスの言葉を聞いて、さらに考えていた。
それは少しの時間だが、アルフィスには長く感じられた。
だがアルフィスは一言も口を挟まなかった。
「北東にある港に、クローバル家の倉庫がある。他の国からの輸入品を一時的に置く場所だ。そこはラムザに管理させていた。もしかしたらそこに行けば何かわかるかもしれない」
「そうか……まぁ何も情報が無かったから、行ってみるしかないか」
「……もう一つ……聞きたいことがあるわ」
「なんだね?お嬢さん」
「ラムザという執事はいつからクローバル家に?」
ナナリーの質問に、右手で髪を掻き上げて眉を顰める。
目を閉じてガウロは過去を思い出していた。
「確か10年ほど前だと記憶している。突然、家を訪ねてきた。働かせて欲しいと。土の国の大貴族の紹介状を持っていたはずだ」
「ラムザという執事は……何か……変わったところはなかったかしら?」
「……ラムザは知的な男だった。だから私は彼の計画に乗ったのだ」
「どういうことだ?」
「最初に最強のシックス・ホルダーを作る計画を立てたのはラムザだからな」
「なんだと!?」
アルフィスとナナリーは驚いた。
ガウロが全て計画して進めていたと思っていたのが、実は黒幕がいた。
それは10年前に突然クローバル家にやってきたラムザだった。
「さっきも話したとおり、この国の人材不足は深刻だった。ある時、私はそれをラムザに話した。そしたら数日後、やつはここレイメルにある宝物庫から宝具を盗んできた。それと同時にこの話をされたんだ」
「……」
「そしてラムザは"転生術"の話を私にした。賢者クラスの魔法使いを集めておこなうと。その数日後カゲヤマという剣士を連れてきた。カゲヤマはクローバル家の直属剣士だったカーティスをいとも簡単に倒してしまった。だからアゲハの師匠になってもらったのだ。カゲヤマからはその時、条件を出された」
「条件?」
「"アゲハを風の国の最強の剣士にしたら故郷に帰らせて欲しい"と。私はそれに了承した。私の望みはアゲハを最強のシックス・ホルダーにすることだったからね……」
ガウロは両手で顔を覆った。
そして再びアルフィスを見ると悲しげな表情をした。
「アゲハがセントラルに行った後、ラムザはカゲヤマを故郷に返すと言って出て行った。だが、それっきり二人は帰ってこない。さらに屋敷にあったはずの宝具も無くなっていた。私はピンときたよ。ラムザはカゲヤマを最強のシックス・ホルダーにするのだろうとね」
「確かに……あいつは強かった……」
「私はその後は知らない。なぜ魔法使いばかり殺害するのかもね。あとは自分達で情報を得ることだ」
アルフィスとナナリーは顔を見合わせ頷いた。
ガウロからはもう何も情報を得られないだろうと思い、二人は北東にある港を目指すこととなった。
________________
聖騎士宿舎にいた聖騎士に馬車を用意してもらい、アルフィスとナナリーはそれに乗り込んだ。
アルフィスは移動の際、ほとんどが荷馬車だったが、今回は屋根付きの貴族用馬車だった。
ナナリーは向かい側に座り、馬車の窓から外を見ている。
アルフィスはその横顔をチラチラと見ていた。
「なにか?」
「お前、いつから死神なんて呼ばれてんの?」
ナナリーはアルフィスの失礼にとれる発言にも表情は変えない。
その二つ名には慣れてしまっているようだ。
「バディの三人目が死んで、セレン・セレスティーの部隊に配属になったあたりかしら……ある任務で十人以上死んだのに、私だけ生きてた」
「死にすぎだろ……」
アルフィスの顔は青ざめていた。
"死神"に喧嘩を売ってはみたが、目にも見えず、殴れないのでは勝負にならない。
「そのあとセレン・セレスティーが激怒して、私の顔面を殴った。あの時は顔の骨が砕けたわ」
「ん?戦い挑んだって聞いたけど?」
「解釈の違いね。私がその十人を"弱かったから死んだ"と言ったから喧嘩になったのよ。結局私は負けて部隊から追い出される形になったけど」
アルフィスは自分以上に空気が読めない人間がいることに驚いた。
ここまでなるとアルフィスですら呆れる。
「いつからそうなんだ?ずっといるのかよ、その死神ってやつは」
「ダークライト家を滅ぼしたのも、その死神かも。私が生まれてから家族、親戚はみんな謎の死を遂げていったわ」
「なかなかヤバい奴みてぇだな……」
「怖気付いちゃったかしら?」
ナナリーが不気味な笑顔でアルフィスを見た。
綺麗な顔立ちがより一層、その不気味さを引き立たせていた。
だが、そんなナナリーの表情を見てアルフィスはニヤリと笑った。
「まさか。こちとら火の王に挑むんだ。死神程度、倒せなけりゃ王になんて勝てんだろう」
アルフィスの言葉にナナリーは一転して驚いた表情をした。
そもそも火の王に挑もうとする人間なんて生まれてから一度も見たことがない。
ナナリーは呆れ顔をしながら、また窓の外を見た。
「確かに……"火の王"の前では、死神ですらも跪くでしょう」
「なら……意地でもぶちのめさねぇとな……その死神ってやつを」
アルフィスも窓の外を見た。
ゆらゆらと落ちる夕日は眩しかったが、アルフィスとナナリーはそれをずっと見ていた。
0
お気に入りに追加
429
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら誰もいねええ!?残された第四王子の俺は処刑エンドをひっくり返し、内政無双で成り上がる。戻って来てももう遅いよ?
うみ
ファンタジー
『イル・モーロ・スフォルツァ。喜べ、一番の愚息であるお前が今日から王になるのだ』
隣国から帰国した翌日、玉座にふざけたことが書かれた手紙が置いてあった。
王宮はもぬけの殻で、王族連中はこぞって逃げ出していたのだ!
残された俺の元には唯一の護衛である騎士と侍女しかいなかった。
重税につぐ重税で国家は荒廃し、農民は何度も反乱を起こしているという最悪の状況だった。
更に王都に伯爵率いる反乱軍が迫って来ており、自分が残された王族としてスケープゴートにされたのだと知る。
王宮から脱出した俺は伯爵を打ち倒し、荒廃しきった国を最強国にまで導くことを誓う。
いずれ逃げ出した王族たちに痛撃を食らわせることを心に秘めながら。
エーリュシオンでお取りよせ?
ミスター愛妻
ファンタジー
ある男が寿命を迎え死んだ。
と、輪廻のまえに信心していた聖天様に呼び出された。
話とは、解脱できないので六道輪廻に入ることになるが、『名をはばかる方』の御指図で、異世界に転移できるというのだ。
TSと引き換えに不老不死、絶対不可侵の加護の上に、『お取り寄せ能力』という変な能力までいただいた主人公。
納得して転移した異世界は……
のんびりと憧れの『心静かな日々』を送るはずが……
気が付けば異世界で通販生活、まんざらでもない日々だが……『心静かな日々』はどうなるのか……こんなことでは聖天様に怒られそう……
本作は作者が別の表題で公開していた物を、追加修正させていただいたものです。その為に作品名もそぐわなくなり、今回『エーリュシオンでお取りよせ?』といたしました。
作者の前作である『惑星エラムシリーズ』を踏まえておりますので、かなり似たようなところがあります。
前作はストーリーを重視しておりますが、これについては単なる異世界漫遊記、主人公はのほほんと日々を送る予定? です。
なにも考えず、筆に任せて書いております上に、作者は文章力も皆無です、句読点さえ定かではありません、作者、とてもメンタルが弱いのでそのあたりのご批判はご勘弁くださいね。
本作は随所に意味の無い蘊蓄や説明があります。かなりのヒンシュクを受けましたが、そのあたりの部分は読み飛ばしていただければ幸いです。
表紙はゲルダ・ヴィークナー 手で刺繍したフリル付のカーバディーンドレス
パブリックドメインの物です。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた
ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。
マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。
義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。
二人の出会いが帝国の運命を変えていく。
ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。
2024/01/19
閑話リカルド少し加筆しました。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
無詠唱魔法が強いなんて誰が決めた! ~詠唱魔法を極めた俺は、無自覚に勘違い王子を追い詰める~
ノ木瀬 優
ファンタジー
詠唱魔法に強いこだわりを持つクロは無詠唱魔法を一切覚えずに、同郷のマリアと国立魔導士養成学校に入学する。だが、そこにはめんどくさい勘違い王子がいて……。
勘違いと空回りを続ける馬鹿王子と、実は・・・なクロとマリア。彼らの学園生活が、今、始まる!
全11話(約4万6千字)で完結致しますので安心してお読みください。
学園生活が始まるのは1話からです。0話は題名の通り過去の話となっておりますので、さらっと読みたい方は、1話から読まれてもいいかも?です。
残酷な描写、肌色表現はR15の範囲に抑えたつもりです。
色々実験的な試みも行っておりますので、感想など頂けると助かります。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる