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風の国編

アゲハの決意

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数週間前

水の国のからセントラルに到着したアゲハは、アルフィスと別れて久しぶりに聖騎士学校に顔を出した。

友達のマルティーナとも再会し、水の国の出来事を話した。
いつも表情が固いマルティーナも泣きそうな顔をしていた。
よほどサーシャのことが嬉しかったのだろうとアゲハは思った。

「あ、そうそう。手紙を預かってましたわ」

マルティーナは思い出したように、アゲハに手紙を渡した。

手紙はアゲハの実家にいるメイドのアンジェラからだった。
アンジェラはアゲハと同じ歳くらいで子供時からクローバル家で働いていた。

アゲハが手紙を開けて読むとありえないことが書いてあった。

"ガウロ様が聖騎士に拘束されてしまいました"

アゲハは驚いた。
何かの間違いだと思った。
アゲハはマルティーナに別れを告げ、アルフィスに実家に戻ることを伝え、風の国の中央レイメルに急いだ。


________________



風の国 中央レイメル
クローバル家

屋敷に到着したアゲハは玄関先でアンジェラと会った。
アゲハを見たアンジェラの目には涙があった。

「お嬢様!」

「アンジェラ!何があったのです!?」

アゲハはアンジェラと共に屋敷の中に入る。
屋敷の中はいつもと変わらない状態だったが、物静かだ。

「旦那様に宝具窃盗の罪が掛かっています……」

「そんな……何かの間違いでは……?」

アゲハも泣きそうな目をしていた。
まさか自分の父親がそんな重罪を犯すなんて到底信じ難かった。

「何年も前から、この屋敷にあったみたいです……ガウロ様が言っていたそうなのですが、ラムザとカゲヤマ様が行方不明になった時に、宝具も無くなったようで……」

「……」

ラムザというのはクローバル家に仕える執事だった。
何年も前から屋敷におり、とても礼儀正しい性格でアゲハにそれを仕込んだ執事でもあった。

「最近、この国で魔法使いの惨殺事件が多くあって皆んなピリピリしてました。その魔法使い狩りの聖騎士が宝具を持っているとかで大騒ぎです……」

「ま、まさか……その聖騎士とは……」

アゲハは絶望感に包まれていた。
その聖騎士というのは、まさか自分の師であるカゲヤマリュウイチなのではないか。

「聖騎士達の話しでは、クローバル家の別荘に隠れているのではないかと……」

「あの別荘には山に強い魔人が出るようになってからは家族みんな行ってない……」

その魔人はこの国の聖騎士や魔法使いでは対応できないということで、何年も放っておかれていて今どうなっているのかアゲハにも分からなかった。

「そこに先生がいるのなら……」

アゲハは何かを決意し自室へ向かった。
アンジェラはアゲハの後を追う。

「お嬢様!」

「アンジェラ、着替えます。手伝って」

「は、はい!」

アゲハは聖騎士学校の制服を脱いだ。
白いワイシャツの上にブラウンのレザージャッケットを羽織り、青いジーパンに黒いブーツを履く。
そして刀とボストンバックだけ持ち屋敷を出た。

「アンジェラ、屋敷を頼みます」
 
「はい!お嬢様、お気をつけて!」

アンジェラはそう言ってアゲハに頭を下げて見送る。
アゲハは急いで北西にあるマルロ山脈を目指した。


________________



アゲハは北西のマルロ山脈の手前の村であるアーサルに到着していた。

自然豊かな風の国特有の草原地帯の中にあり、ここは農家がほとんどだった。
民家も何軒かしかない小さな村だ。

「ここに来るのは何年ぶりでしょうか……」

アゲハが幼少の頃、親子で一緒に来たことがあった。
そのことをアゲハは思い出していた。

アゲハは村で食料などを買い出しをした。
そして山脈へ向かおうとした時だった。

村の出口付近に一人の"少年"が座っていた。
少年はアゲハを片目を閉じ、手の指で輪っかを作って、じっと見ていた。

「おお!」

少年が声を上げて立ち上がり、手を振りながらアゲハに走って近づいてきた。

少年は白いワイシャツに短パンでその上からローブを羽織り、つばがついた大きな三角帽子を被っていた。
帽子の下からは緑色の髪が少し見えており、腰にはステッキ型の魔法具が差してある。

「お姉さん、お姉さん!」

「は、はい……?」

アゲハは困惑しながら少し首を傾げた。
目の前の少年は魔法使いのようだが、こんな小さいのに一人旅なのだろうかと。

「お姉さん、山登るんでしょ!僕も一緒に行ってもいいかな?」

「は、はい?……どこの貴族かはわかりませんが、あそこは君のような子供が行くような場所ではないですよ。とても危険です」

「危険なら、お姉さんだって危険じゃない?」

「私は剣の心得がありますから」

「じゃあ僕だって魔法が使えるよ!」

笑顔でそう言う少年にアゲハは困った表情を浮かべた。
魔法が使えると言っても、こんな子供を強い魔人がいる山になんて入れさせるわけにはいかない。

「あの山には強い魔人がいます。一緒に行っても私は君を守りきれない」

「大丈夫だよ。僕めっちゃ強いからさ。それに強いのは魔人の方じゃない。その上にいるやつだ」

「え?」

「お姉さん、アゲハ・クローバルでしょ?この山の上にお姉さんの探してる人がいる」

少年はニコニコしながら言った。
アゲハは一言も自分のことを名乗っていない。
さらに名前だけでなく、なぜ人を探しているのがわかったのか不気味だった。

「あなたは一体、何者ですか……?」

「ああ、ごめんごめん名乗ってなかったね。僕の名前はレノ。この国の王だ」

アゲハは言葉を失った。
風の王レノは今まで誰の前にも姿を現したことがなく、挑んだ人間しか見ることはない。
だが挑んでも風の塔を降りてくる人間はいないのでその姿を語れる者もいない。

そして風の王レノは王の中でも火の王の次に強いと言われる伝説的な王だった。
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