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水の国編

裏切り者

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ガーロ森林は猛吹雪になっていた。
視界が極端に悪く、目も開けてられないほどだった。

アルフィスとロールが前に進んでいくと、倒れている人影を見つけた。
座って木に寄りかかっているのは魔法使いだ。
アルフィスとロールが確認すると見知らぬ魔法使いだった。
さらに地面に倒れる聖騎士の姿もあった。

「魔物にやられたのか?」

「メルが心配だな……」

アルフィスとロールはとにかく前に進んだ。
だが、あまりの吹雪に二人は逸れてしまい、出来ることと言えば前に進むことだけだった。

そして、ようやく森を抜けてた。
すると雪も少し降る程度となり、ロールは安堵した。
そこは平野になっており、その先には数十メートルはあろうかという門があった。
その周りには壁がずっと続いている。
ロールはこの門がゴールなのだと思った。

門まではまだ距離はあるが、門までの一本道を疲れた体を押してロールは一人で向かった。

門の前には一人の魔法使いが立っていた。

「おお、ロール!ここまで来れたのか!」

その声はグレイだった。
周りには誰もおらず、グレイただ一人が門の少し前に立っていた。

「グレイ!メルティーナはどうした!」

「すまない、あの吹雪で皆と逸れてしまった。そういう君も、あの二つ名君と逸れたんじゃないかい?」

ロールは確かにあの吹雪ならみんなを見失うのもわかると思った。
なにせ視界がほとんどゼロで、前に進んでいるのかすらわからかったのだから。

「この門は開かないんだよ。王の認証がいるからね。だから君達を待ってたんだ。来たのが君の方でよかった」

「どういうことだ?」

「君の持つその杖、竜骨の杖だろ?ということはリーゼ王と"握手"してるんじゃないか?」

ロールは自分の持つ杖を見たが、この杖の名前をここで初めて知った。
それにグレイが言うようにロールは一度、リーゼ王と握手したことがあった。
それはロールの初任務の際、リーゼ王を火の国に送り届けた時のことだ。

「この施設に入る条件は王に触れてることだ。王は滅多に人には触れない。だからこの大事な施設の鍵にしてあるようだ」

「この施設に入ってどうするんだ?」

「そりゃ休むのさ。流石にここまでの旅は過酷だったからね。君もそうしたいだろ?」

ロールはこの言葉を聞いて混乱していた。
目の前にいる者が内通者かどうかが全くわからない。
だが内通者だった場合、ここに入れたら取り返しがつかないことになってしまう。

「さぁ、一緒に行こう」

そう言ってグレイは手を差し伸べた。
ロールはその言葉に自分ではどうしたらいいのかわからなかった。

その時、後ろから声がした。

「ロール君、無事で何よりだ」

そこにいたのはリヴォルグだった。
軍服の上からコートを羽織り、左手には宝具を持っていた。
あの吹雪の中、猛スピードでここまでやってきていたのだ。

「総帥!ほ、他の人たちは?」

「メルティーナの捜索にあたってもらってるよ。あと"珍しい客人"があったので、その客人のエスコートさ」

リヴォルグは笑みをこぼした。
グレイはいつものニコニコした表情でリヴォルグを見ている。

「おお!リヴォルグ総帥!ご無事でなによりです!とにかく施設の中で休もうとロールに提案していたところでした」

「そうか。ところでグレイ、そういえば君は誰の指示でここまで来たのかね?」

グレイはキョトンとした顔をした。
そしてまたニコニコしながら答える。

「セシリア総隊長です。メルティーナお嬢様がライデュスに到着された次の日に手紙が来たのでてっきり総帥からの指示かと……」

「それを見せて欲しいね」

「え?いや、今は持ち合わせていないですよ。でも間違いなくセシリア総隊長の筆跡でしたが……」

ロールはなんのやり取りなのかわからず、リヴォルグの顔とグレイの顔を交互に見ていた。

「なるほどな。だが、それはありえないな」

「どういうことですか?」

リヴォルグのサングラスを掛けていても、凄まじい眼光であることはロールにもグレイにも伝わった。

「セシリアはメルティーナ達がライデュスに出発する前の晩に亡くなったよ」

「え……?」

一番驚いたのはロールだった。
それはメルティーナがセシリアの見舞いに行った日の夜ということだ。
一方グレイはさほど驚いてはいなかった。

「もし私からの指示だとして他の部下を介するなら、早急に君の手元にその手紙が届く。ベネーロからライデュスまで一日半だが、速馬で一日かからないだろう」

「……」

「つまりセシリアが生きてる時に手紙を出していたなら、に君の手元にその手紙がなければおかしい」

グレイは空に広がる曇り空を見た。
そしてゆっくり目を閉じる。

「何か言い逃れはあるか?グレイ・ダリアム」

「そうか……あの女……死んだのか……ざまぁないな」

「貴様!なんてこと言うんだ!」

ロールは激情に駆られていた。
セシリアとはあまり仲が良かったわけではないが、一緒に戦った仲間を侮辱するのは許せなかった。

「あなたがセシリアも疑ってると小耳に挟んだから策をめぐらせたが、まさか自分の死で疑いを晴らすとは……」

「こうなったのは残念だが、私はかなり前から君が内通者であることはわかっていたよ。私は君とセシリアとの共謀を疑っていただけだ」

グレイはリヴォルグを見て困惑していた。
今までボロは出してなかったはず、という顔をしていた。

「どこか変なところはありましたか?」

「グレイ、君はいつから魔法を使ってない?」

グレイは驚いたが、すぐにニコニコし始める。
その笑顔はどこか不気味だった。

「かなり前からですね……」

「心だけでなく、身も売ったか、グレイ」

リヴォルグの言葉にグレイは杖を放り投げた。
そしてローブも脱ぎ捨て上半身を見せるが、その肉体は洗練されていた。
さらに血管が至る所から浮き出ているが、それは真っ黒だった。

「私はずっと考えていた。魔力、魔法なんてこの世界だと最弱だ。最強なのはエンブレムだと」

「……」

「なぜ女に指示されなければならない?魔力なんて無ければこんなことにはならなかった。じゃあどうするか?その答えがあの黒い薬なんだ。アレを使えばもっと高みを目指せる」

グレイの言うことは事実だった。
この世界では聖騎士と比べれば魔法使いは弱い存在だ。
そのせいで男と女の格差は予想以上に大きいものだった。

「私は必ず組織のトップになる!"三魔神ブラック・ケルベロス"になって人類の頂点に立つ!」

「ブラック・ケルベロス?なんのことだ?」

ロールは首を傾げた。
リヴォルグも聞き慣れない言葉に少し困惑していた。

「ロール……君は出会っただろ?銀髪の男に」

「……ジレンマのことか?」

「あの男こそ世界最強。人類の完成系なのさ」

リヴォルグとロールはその言葉に驚いた。
"三魔神ブラック・ケルベロス"というものが何を意味しているかはわからなかったが、ジレンマがその存在の一人なのだろうと思った。

「おしゃべりはここまでにしよう。リヴォルグ・ローズガーデン。ここがあなたの墓場だ!」

そう言った瞬間、グレイは一気にリヴォルグにダッシュした。

リヴォルグは左手に持つ宝具クイーンズ・クライの鞘のナックルガード内を握る。
そして一気に剣を引き抜いた。
リヴォルグの切り裂かれた手から出た血が、みるみる剣と鞘に吸収され、銀色だった宝具が赤黒いオーラを纏った。
リヴォルグはそのオーラを放つ剣を前に構えた。

グレイは猛スピードでリヴォルグに襲いかかった。


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