72 / 200
水の国編
行き違い
しおりを挟む
ロールはアルフィスを見つけて下級の治癒魔法で癒した。
下級と言っても、ロールの杖のオーラは消えずに大魔法クラスの治癒術となりアルフィスの傷は全快してしまった。
そして治癒魔法の後に杖からオーラは消えた。
アルフィスとロール、ルイスは屋敷の中にいた。
屋敷は半壊しているが雪風は防げる。
三人は床に座り込んでいた。
「助かったぜ……俺だけなら死んでたろうな」
アルフィスは率直にロールに告げた。
あのままサーシャに追い討ちをかけられていたら生きてはいなかっただろう。
「僕の力じゃないさ。この杖の力なんだ」
ロールは杖をアルフィスに見せた。
ロールと出会った時から気になっていた異様に大きい杖だ。
「そうかもしれないが、杖なんてただの道具だ。前に進む勇気が無かったら、それは飾りでしか無い。ロール、お前の"勇気"が俺や弟を救ったんだ」
「アルフィス……」
ロールは涙目になっていた。
アルフィスの言葉を聞いて、ようやく自分は前に進むことができたのだと実感した。
「弟くんも無事でよかったぜ。あとは母さんだな」
「ああ。どこに行ったんだろう?」
この町を見て回ったが、見つけたのはルイスだけで他の住民はいなかった。
死体も見つからないということは、どこかに避難していたのだろうと二人は思った。
「とにかく一旦、ライデュスに戻るか。メルティーナも心配だしな」
「そうだね。途中でサーシャに出会わなければいいけど……」
アルフィスは握り拳を作った。
あの一撃を受けてアルフィスは確信していた。
リヴォルグの部隊が30人がかりで倒せなかった魔人はサーシャなんだと。
「そうだな。だが、まさかアインの妹が"白銀の魔人"だったとは……アインはそれを承知で俺に倒してくれと言ったのか」
アルフィスの気持ちは複雑だった。
さっきの半魔人だって家族がいただろう。
愛する家族が魔人に変わってしまい、それを倒さなければならないということに胸が締め付けられた。
「……とりあえず馬小屋に馬を見に行くよ。ルイスは乗馬はできるね?」
「はい!お母様に習っていました!」
アルフィスはこの立派な少年を見て言葉を失い真顔になる。
そして今度メルティーナにでも乗馬を習おうと決意した。
アルフィスとロール、そしてロールの弟ルイスがライデュスへ戻ろうと町の入り口にいた時だった。
一頭の馬に若い男性が乗ってやってきたのだ。
「お、お前、ロールか?」
「モーリス!無事だったのか!」
それは町の住人のモーリスだった。
なぜか方向的にはライデュスの方からやってきた。
「みんなライデュスに避難したんだ。銀髪の女の子が現れて町を破壊してな。聖騎士や魔法使いが対応したんだが全く相手にならなかったから、途中で討伐でなく避難に切り替えたんだ」
モーリスの話を聞いてアルフィスとロールは行き違いになったことに気づいた。
だが、ルイスが置き去りになっていたのを助けられたのはよかったと胸を撫で下ろした。
「そうだったのか……母は無事か!?」
「ああ、大丈夫だ。ルイスのことを心配していたから私一人で見にきたんだ。銀髪の女の子はどうした?」
「そうか!よかった!あの女の子は僕がなんとか追い払ったよ。モーリスが出会ってないってことはライデュスの方に向かったわけじゃないのか……」
モーリスはロール言葉を聞いて感動していた。
5年も会っていなかったが、ロールがここまで強い魔法使いだということを知って感極まっている様子だ。
「さすが我が町の代表だ!!アレを追い払うなんてな!!」
「あ、いや、大したことはないんだ……」
ロールは謙遜しているが顔を赤らめた。
褒められてまんざらでもなさそうだった。
そこにすかさずアルフィスが入る。
「いやぁロールがいなかったらみんな死んでたね!さすが天下の大魔法使い!」
「おお!!ロール……お前、大魔法使いになったのか……」
ロールはアルフィスの言葉に絶句していた。
一方、モーリスはその言葉に涙していた。
この小さな町の期待の星が大魔法使いなんて、町のみんなが知ったら泣いて喜ぶだろうと。
「まぁ、とにかくライデュスへ向かおう。ルイスは私の馬に乗るといい」
こうしてアルフィス、ロール、ルイス、モーリスの四人は皆でライデュスへ向かった。
______________________
ライデュスに到着すると噴水前は人だかりができていた。
避難してきたラタムの住民達がここに集まっていたのだ。
その中にロールの母親もいた。
「母さん!!」
ロールとルイスが涙目で母親に抱きついた。
母親もロールとの久しぶりの再会と、ルイスの無事に涙していた。
アルフィスはその二人の姿を見て笑みをこぼし鼻をかいた。
アルフィスは噴水の前を離れ、近くにいた魔法使いの所へ向かった。
「すまない、メルティーナはどこだ?」
「え?メルティーナお嬢様ならグレイ様の部隊とダイナ・ロアへ行きましたよ」
「はぁ?どういうことだ!ここで黒い薬の調査するって言ってたんだぞ!」
「グレイ様からはセシリア総隊長の指示だと伺ってます。先に安全確保で向かってくれと」
アルフィスはその言葉に焦りを感じた。
あれから一日しか経っていないのに、ここでも行き違いになってしまった。
しかも、よりにもよって内通者の可能性があるグレイと一緒となれば気が気では無い。
「どうする……」
アルフィスの隣にはいつもアゲハやメルティーナという指示役がいてくれた。
そのおかげでアルフィスはこの場所まで来れたのだ。
一人になったアルフィスは迷っていた。
「どうしたんだ?アルフィス」
噴水前にいたはずのロールが声を掛けてきた。
ロールはアルフィスの表情を見て心配そうだった。
「メルティーナがグレイと一緒にダイナ・ロアへ向かった。セシリアの指示だそうだ」
「な、なんだって!?」
「どうする……」
焦るアルフィスを見てロールは深呼吸した。
そして意を決したようにアルフィスの背中を思いっきり叩いた。
アルフィスは驚いて飛び上がる。
「てめぇ!何すんだよ!」
「"どうする"じゃない。行くんだろ?」
ロールの言葉にアルフィスはハッとした。
いつもの自分なら迷わない。
進もうと思ったら止まらないのがアルフィス・ハートルだ。
「大事な仲間なんだ。迎えに行こう!」
「そうだな……行くかダイナ・ロアへ」
アルフィスとロール笑みを浮かべた。
そして、すぐに真剣な表情となる。
二人はメルティーナと合流するため医療都市ダイナ・ロアを目指すこととなった。
下級と言っても、ロールの杖のオーラは消えずに大魔法クラスの治癒術となりアルフィスの傷は全快してしまった。
そして治癒魔法の後に杖からオーラは消えた。
アルフィスとロール、ルイスは屋敷の中にいた。
屋敷は半壊しているが雪風は防げる。
三人は床に座り込んでいた。
「助かったぜ……俺だけなら死んでたろうな」
アルフィスは率直にロールに告げた。
あのままサーシャに追い討ちをかけられていたら生きてはいなかっただろう。
「僕の力じゃないさ。この杖の力なんだ」
ロールは杖をアルフィスに見せた。
ロールと出会った時から気になっていた異様に大きい杖だ。
「そうかもしれないが、杖なんてただの道具だ。前に進む勇気が無かったら、それは飾りでしか無い。ロール、お前の"勇気"が俺や弟を救ったんだ」
「アルフィス……」
ロールは涙目になっていた。
アルフィスの言葉を聞いて、ようやく自分は前に進むことができたのだと実感した。
「弟くんも無事でよかったぜ。あとは母さんだな」
「ああ。どこに行ったんだろう?」
この町を見て回ったが、見つけたのはルイスだけで他の住民はいなかった。
死体も見つからないということは、どこかに避難していたのだろうと二人は思った。
「とにかく一旦、ライデュスに戻るか。メルティーナも心配だしな」
「そうだね。途中でサーシャに出会わなければいいけど……」
アルフィスは握り拳を作った。
あの一撃を受けてアルフィスは確信していた。
リヴォルグの部隊が30人がかりで倒せなかった魔人はサーシャなんだと。
「そうだな。だが、まさかアインの妹が"白銀の魔人"だったとは……アインはそれを承知で俺に倒してくれと言ったのか」
アルフィスの気持ちは複雑だった。
さっきの半魔人だって家族がいただろう。
愛する家族が魔人に変わってしまい、それを倒さなければならないということに胸が締め付けられた。
「……とりあえず馬小屋に馬を見に行くよ。ルイスは乗馬はできるね?」
「はい!お母様に習っていました!」
アルフィスはこの立派な少年を見て言葉を失い真顔になる。
そして今度メルティーナにでも乗馬を習おうと決意した。
アルフィスとロール、そしてロールの弟ルイスがライデュスへ戻ろうと町の入り口にいた時だった。
一頭の馬に若い男性が乗ってやってきたのだ。
「お、お前、ロールか?」
「モーリス!無事だったのか!」
それは町の住人のモーリスだった。
なぜか方向的にはライデュスの方からやってきた。
「みんなライデュスに避難したんだ。銀髪の女の子が現れて町を破壊してな。聖騎士や魔法使いが対応したんだが全く相手にならなかったから、途中で討伐でなく避難に切り替えたんだ」
モーリスの話を聞いてアルフィスとロールは行き違いになったことに気づいた。
だが、ルイスが置き去りになっていたのを助けられたのはよかったと胸を撫で下ろした。
「そうだったのか……母は無事か!?」
「ああ、大丈夫だ。ルイスのことを心配していたから私一人で見にきたんだ。銀髪の女の子はどうした?」
「そうか!よかった!あの女の子は僕がなんとか追い払ったよ。モーリスが出会ってないってことはライデュスの方に向かったわけじゃないのか……」
モーリスはロール言葉を聞いて感動していた。
5年も会っていなかったが、ロールがここまで強い魔法使いだということを知って感極まっている様子だ。
「さすが我が町の代表だ!!アレを追い払うなんてな!!」
「あ、いや、大したことはないんだ……」
ロールは謙遜しているが顔を赤らめた。
褒められてまんざらでもなさそうだった。
そこにすかさずアルフィスが入る。
「いやぁロールがいなかったらみんな死んでたね!さすが天下の大魔法使い!」
「おお!!ロール……お前、大魔法使いになったのか……」
ロールはアルフィスの言葉に絶句していた。
一方、モーリスはその言葉に涙していた。
この小さな町の期待の星が大魔法使いなんて、町のみんなが知ったら泣いて喜ぶだろうと。
「まぁ、とにかくライデュスへ向かおう。ルイスは私の馬に乗るといい」
こうしてアルフィス、ロール、ルイス、モーリスの四人は皆でライデュスへ向かった。
______________________
ライデュスに到着すると噴水前は人だかりができていた。
避難してきたラタムの住民達がここに集まっていたのだ。
その中にロールの母親もいた。
「母さん!!」
ロールとルイスが涙目で母親に抱きついた。
母親もロールとの久しぶりの再会と、ルイスの無事に涙していた。
アルフィスはその二人の姿を見て笑みをこぼし鼻をかいた。
アルフィスは噴水の前を離れ、近くにいた魔法使いの所へ向かった。
「すまない、メルティーナはどこだ?」
「え?メルティーナお嬢様ならグレイ様の部隊とダイナ・ロアへ行きましたよ」
「はぁ?どういうことだ!ここで黒い薬の調査するって言ってたんだぞ!」
「グレイ様からはセシリア総隊長の指示だと伺ってます。先に安全確保で向かってくれと」
アルフィスはその言葉に焦りを感じた。
あれから一日しか経っていないのに、ここでも行き違いになってしまった。
しかも、よりにもよって内通者の可能性があるグレイと一緒となれば気が気では無い。
「どうする……」
アルフィスの隣にはいつもアゲハやメルティーナという指示役がいてくれた。
そのおかげでアルフィスはこの場所まで来れたのだ。
一人になったアルフィスは迷っていた。
「どうしたんだ?アルフィス」
噴水前にいたはずのロールが声を掛けてきた。
ロールはアルフィスの表情を見て心配そうだった。
「メルティーナがグレイと一緒にダイナ・ロアへ向かった。セシリアの指示だそうだ」
「な、なんだって!?」
「どうする……」
焦るアルフィスを見てロールは深呼吸した。
そして意を決したようにアルフィスの背中を思いっきり叩いた。
アルフィスは驚いて飛び上がる。
「てめぇ!何すんだよ!」
「"どうする"じゃない。行くんだろ?」
ロールの言葉にアルフィスはハッとした。
いつもの自分なら迷わない。
進もうと思ったら止まらないのがアルフィス・ハートルだ。
「大事な仲間なんだ。迎えに行こう!」
「そうだな……行くかダイナ・ロアへ」
アルフィスとロール笑みを浮かべた。
そして、すぐに真剣な表情となる。
二人はメルティーナと合流するため医療都市ダイナ・ロアを目指すこととなった。
0
お気に入りに追加
429
あなたにおすすめの小説
貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~
菱沼あゆ
ファンタジー
旅の途中、盗賊にさらわれたアローナ。
娼館に売られるが、謎の男、アハトに買われ、王への貢ぎ物として王宮へ。
だが、美しきメディフィスの王、ジンはアローナを刺客ではないかと疑っていた――。
王様、王様っ。
私、ほんとは娼婦でも、刺客でもありませんーっ!
ひょんなことから若き王への貢ぎ物となったアローナの宮廷生活。
(小説家になろうにも掲載しています)
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
エンジェリカの王女
四季
ファンタジー
天界の王国・エンジェリカ。その王女であるアンナは王宮の外の世界に憧れていた。
ある日、護衛隊長エリアスに無理を言い街へ連れていってもらうが、それをきっかけに彼女の人生は動き出すのだった。
天使が暮らす天界、人間の暮らす地上界、悪魔の暮らす魔界ーー三つの世界を舞台に繰り広げられる物語。
著作者:四季 無断転載は固く禁じます。
※この作品は、2017年7月~10月に執筆したものを投稿しているものです。
※この作品は「小説カキコ」にも掲載しています。
※この作品は「小説になろう」にも掲載しています。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた
ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。
マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。
義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。
二人の出会いが帝国の運命を変えていく。
ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。
2024/01/19
閑話リカルド少し加筆しました。
殺し屋令嬢の伯爵家乗っ取り計画~殺し屋は令嬢に転生するも言葉遣いがわからない~
雪野湯
ファンタジー
異世界の少女からの復讐依頼。
報酬は死にかけている殺し屋へ自分の肉体を捧げ、新たな人生を渡すこと。
少女は亡霊のように現れ、報酬だけを置いて復讐内容を告げずに消えてしまう。
少女となった殺し屋は異世界での自分の立場を知る。
少女は伯爵の令嬢でありながら、家族から虐待を受けていた。
そこから殺し屋は復讐相手を家族だと断定し、伯爵家を乗っ取り、家族を破滅させつつ財を奪うことを画策する。
だが、その画策を横から奪われ、思わぬ惨劇へと発展してしまう。
この騒動によって、伯爵家には奇妙な謎があることを知り、さらに少女の復讐が本当に家族に向けたものなのかという疑問が浮かび上がる。
少女が目指す復讐とは? 誰に対する復讐なのか? 伯爵家の謎とは?
殺し屋は復讐相手を探し求め、謎に立ち向かう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる