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水の国編
真相
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アルフィスが診療所を出ると、入り口の横で両膝を抱えてうずくまって座っていたメルティーナがいた。
「どうしたんだ?お前」
メルティーナはすぐさま立ち上がり背を向ける。
「なんでもないわよ!それより連れの仲間は大丈夫なの?」
「ああ、熱も下がって寝てる。お前のおかげで助かったぜ」
メルティーナはアルフィスの言葉に安堵する。
そこにリヴォルグが診療所の前へ戻ってきた。
「メルティーナとアルフィス君かな?」
「あんた目が見えないのか」
メルティーナはその言葉に驚く。
父親ことリヴォルグに対してこんな言葉遣いをした人間はいない。
先程と違って、リヴォルグという人間がこの国でどういう存在なのかわかった上でこの態度とは、よほど肝が据わっているのだろうとメルティーナは思った。
「ああ、だが大体は音だけでわかるさ。君の身長は163から165、体重が50から53。痩せ型。どうかな?」
「まぁ、あってるな……」
アルフィスは気味が悪かった。
目が見えないのに身長と体重を当てるやつなんて見たことない。
いや、見えてても当てるのは至難の業だ。
「そういえば、さっきの話を聞かせてもらいたいね。メルティーナがいたことで助かったと」
「ああ、俺は魔法使いだが前衛が得意なのさ、そこにメルの弓となら相性はいいだろ」
リヴォルグは驚いた表情をした。
前衛の魔法使いというのは稀中の稀。
まず存在しないと思っていたからだ。
「これは珍しい。私以外に前に出る魔法使いがいるとは……魔拳とはまさか"拳"で戦うのかい?」
「ああ、近接戦闘が得意なんだ。俺は不器用だし、魔力的にも補助魔法しか使えないならな」
「なるほど。それならメルティーナとも相性がいいな……魔法具はどういう物を使ってるのかな?」
「持ってねぇよ。使っても意味なかったんだよ。魔力低すぎて補助魔法の効果も変わらないんだ」
リヴォルグはその話を聞いて何か考えていた。
アルフィスはそんなリヴォルグを見て首を傾げる。
べつに今の話に考える余地などあっただろうかと。
「まぁ、なんにせよ世話になったな。んじゃ俺は行くぜ」
「は?あんた、仲間はどうするのよ!」
メルティーナがいきなり振り向いてアルフィスにつっこむ。
その顔はよほど泣いたのか目が真っ赤だった。
「あ、ああ、ここの医者に頼んだんだ。一ヶ月は安静だって言われたからな。流石に一ヶ月あれば行って戻ってこれんだろ」
「君の目的地はどこなんだ?中央じゃないのか?」
「いや、この国の最北端にあるダイナなんとかだ。母さんが病気で、それを治す薬があるって聞いたんだ」
リヴォルグとメルティーナが同時に驚く。
アルフィスは二人がヘッケルと同じ反応だったことに驚いた。
何かまずいことでもあるかのようだ。
「誰からその薬の話を聞いたんだ?」
「え、ああ、友達だな……」
流石に"黒猫"と言うわけにもいかないアルフィスの返答はぎこちない。
しかしリヴォルグはお構いなしに続けた。
「君のお母さんの症状はどういうものなんだね?」
「俺もよくわからないんだよなぁ。右腕に包帯をぐるぐる巻きにしてて、その下は見たことないだ」
「なるほどな……君の友達とやらは随分博識だね。その友達は君の母上の病気がなんだかわかっているよ」
アルフィスは驚く。
猫アルからはなんにも聞いていない。
ただ病気だから病院に薬を取りに行く感覚だった。
「君の母上は恐らく"竜血病"だ」
「りゅうけつびょう?なんだそれは?」
リヴォルグは話を続けることを躊躇していた。
アルフィスは猫アルが何か重大なことを隠していたのではないかと思った。
「今から君に話すことは、君にとってとても残酷な話かもしれない。それでも聞くか?」
「いや、そこまで言われたら聞きたくなるだろうが!」
アルフィスの怒鳴り声を聞いたリヴォルグはため息をつき、険しい表情で重い口を開いた。
「君はエンブレムが何で描かれているかわかるかい?」
「エンブレム?いや、わからん」
「エンブレムは竜血を使って描くんだ」
アルフィスは絶句した。
竜血とは魔人や魔獣を生み出している魔竜の血だ。
「エンブレムは魔法使いには刻めない。それは竜血と魔力の相性が良すぎて逆に人体に悪影響を及ぼす。魔法使いが竜血に少しでも触れただけで体調不良になるんだ」
「相性が良すぎるって意味がわからないんだが……」
「竜血と魔力はお互いがお互いを好むのさ。この二つが融合すると人体の細胞が暴走して体が黒く変色する。そして自我を失う」
「ちょっと待て、それってまさか……魔人か?」
リヴォルグは静かに頷く。
アルフィス自身、魔人はもともと人間なのは知っていたが、そんな理由で魔人化していたなんて初耳だった。
「逆に女性は魔力を持たないのでその心配は無い。そこで人体に竜血を使ってエンブレムを描くと、この世界では最強のスキルであるアンチマジックを発動できるようになる。ただし問題がある」
「問題?」
「エンブレムを過度に発動したり、形状を変えすぎると竜血が暴走し始める。そして人体に悪影響を及ぼして最後は魔人になる」
アルフィスは言葉を失っていた。
ということはアメリアが今置かれている状況とは、魔人化し始めているということなのか。
「君は特殊個体を見たことは?」
「あ、ああ、口が裂けてるやつを倒したんだ」
「なるほど。セレンが君に二つ名を与えた理由がわかったよ。あの鉄のような体の魔人を拳で倒すなんて常軌を逸してるな」
褒められてるのかなんなのかわからなかったアルフィスは複雑な気持ちだった。
「特殊個体はみんな元聖騎士なんだ」
「そんな……じゃあ母さんは……」
「そこに向かっているということになる。まぁ大体の女性はその前に亡くなるがね」
アルフィスの脳はもうついていけていない。
ただの病気だと思ったら、そんな深刻なことだったとは。
アルフィスは帰ったら猫アルを殴らねばと心に誓った。
「そして医療都市ダイナ・ロアでは今、魔人を人間に戻す研究をしている。未完成ではあるが確かに薬もある」
「マジか!!」
「だが問題があるんだ」
また問題かとアルフィスがキレそうになっているが、間髪入れずリヴォルグが続けた。
「北に凄まじい強さの魔人が出現した。その魔人はゆっくりダイナ・ロアへ向かっている」
「凄まじい強さ?でもそいつさえ倒せば行けるんだろ?」
「理屈はそうだ。だが私含めて、この国の精鋭30人で戦ったが倒せずに逃げられた」
強者と聞いただけで心が弾む流石のアルフィスでも、この話には息を呑んだ。
目の前にいるリヴォルグは火の国のシックス・ホルダーであるセレンと同等かそれ以上の強さだ。
そのリヴォルグを含めて30人で戦って勝てない魔人とはどれほど強いのか。
「そこで、取引しないか?」
「なに?……ってまた取引かよ」
猫アルだったり、アゲハだったり、どれだけこの世界の人間は取引が好きなのかとアルフィスは呆れる。
「君を北のダイナ・ロアまで連れて行こう。そのかわりに……」
「かわりに?」
「メルティーナをもらってやってくれ」
「はぁ?」
アルフィスは全く意味がわからなかった。
メルティーナも突然のことで言葉を失っている。
もらってやってくれというのはつまり結婚してやってくれということだろう。
戸惑うアルフィスをよそにリヴォルグの表情は本気そのものだ。
アルフィスはただちょっと遠い病院に薬を取りに行くはずが、嫁までもらって帰ることになりそうだった。
「どうしたんだ?お前」
メルティーナはすぐさま立ち上がり背を向ける。
「なんでもないわよ!それより連れの仲間は大丈夫なの?」
「ああ、熱も下がって寝てる。お前のおかげで助かったぜ」
メルティーナはアルフィスの言葉に安堵する。
そこにリヴォルグが診療所の前へ戻ってきた。
「メルティーナとアルフィス君かな?」
「あんた目が見えないのか」
メルティーナはその言葉に驚く。
父親ことリヴォルグに対してこんな言葉遣いをした人間はいない。
先程と違って、リヴォルグという人間がこの国でどういう存在なのかわかった上でこの態度とは、よほど肝が据わっているのだろうとメルティーナは思った。
「ああ、だが大体は音だけでわかるさ。君の身長は163から165、体重が50から53。痩せ型。どうかな?」
「まぁ、あってるな……」
アルフィスは気味が悪かった。
目が見えないのに身長と体重を当てるやつなんて見たことない。
いや、見えてても当てるのは至難の業だ。
「そういえば、さっきの話を聞かせてもらいたいね。メルティーナがいたことで助かったと」
「ああ、俺は魔法使いだが前衛が得意なのさ、そこにメルの弓となら相性はいいだろ」
リヴォルグは驚いた表情をした。
前衛の魔法使いというのは稀中の稀。
まず存在しないと思っていたからだ。
「これは珍しい。私以外に前に出る魔法使いがいるとは……魔拳とはまさか"拳"で戦うのかい?」
「ああ、近接戦闘が得意なんだ。俺は不器用だし、魔力的にも補助魔法しか使えないならな」
「なるほど。それならメルティーナとも相性がいいな……魔法具はどういう物を使ってるのかな?」
「持ってねぇよ。使っても意味なかったんだよ。魔力低すぎて補助魔法の効果も変わらないんだ」
リヴォルグはその話を聞いて何か考えていた。
アルフィスはそんなリヴォルグを見て首を傾げる。
べつに今の話に考える余地などあっただろうかと。
「まぁ、なんにせよ世話になったな。んじゃ俺は行くぜ」
「は?あんた、仲間はどうするのよ!」
メルティーナがいきなり振り向いてアルフィスにつっこむ。
その顔はよほど泣いたのか目が真っ赤だった。
「あ、ああ、ここの医者に頼んだんだ。一ヶ月は安静だって言われたからな。流石に一ヶ月あれば行って戻ってこれんだろ」
「君の目的地はどこなんだ?中央じゃないのか?」
「いや、この国の最北端にあるダイナなんとかだ。母さんが病気で、それを治す薬があるって聞いたんだ」
リヴォルグとメルティーナが同時に驚く。
アルフィスは二人がヘッケルと同じ反応だったことに驚いた。
何かまずいことでもあるかのようだ。
「誰からその薬の話を聞いたんだ?」
「え、ああ、友達だな……」
流石に"黒猫"と言うわけにもいかないアルフィスの返答はぎこちない。
しかしリヴォルグはお構いなしに続けた。
「君のお母さんの症状はどういうものなんだね?」
「俺もよくわからないんだよなぁ。右腕に包帯をぐるぐる巻きにしてて、その下は見たことないだ」
「なるほどな……君の友達とやらは随分博識だね。その友達は君の母上の病気がなんだかわかっているよ」
アルフィスは驚く。
猫アルからはなんにも聞いていない。
ただ病気だから病院に薬を取りに行く感覚だった。
「君の母上は恐らく"竜血病"だ」
「りゅうけつびょう?なんだそれは?」
リヴォルグは話を続けることを躊躇していた。
アルフィスは猫アルが何か重大なことを隠していたのではないかと思った。
「今から君に話すことは、君にとってとても残酷な話かもしれない。それでも聞くか?」
「いや、そこまで言われたら聞きたくなるだろうが!」
アルフィスの怒鳴り声を聞いたリヴォルグはため息をつき、険しい表情で重い口を開いた。
「君はエンブレムが何で描かれているかわかるかい?」
「エンブレム?いや、わからん」
「エンブレムは竜血を使って描くんだ」
アルフィスは絶句した。
竜血とは魔人や魔獣を生み出している魔竜の血だ。
「エンブレムは魔法使いには刻めない。それは竜血と魔力の相性が良すぎて逆に人体に悪影響を及ぼす。魔法使いが竜血に少しでも触れただけで体調不良になるんだ」
「相性が良すぎるって意味がわからないんだが……」
「竜血と魔力はお互いがお互いを好むのさ。この二つが融合すると人体の細胞が暴走して体が黒く変色する。そして自我を失う」
「ちょっと待て、それってまさか……魔人か?」
リヴォルグは静かに頷く。
アルフィス自身、魔人はもともと人間なのは知っていたが、そんな理由で魔人化していたなんて初耳だった。
「逆に女性は魔力を持たないのでその心配は無い。そこで人体に竜血を使ってエンブレムを描くと、この世界では最強のスキルであるアンチマジックを発動できるようになる。ただし問題がある」
「問題?」
「エンブレムを過度に発動したり、形状を変えすぎると竜血が暴走し始める。そして人体に悪影響を及ぼして最後は魔人になる」
アルフィスは言葉を失っていた。
ということはアメリアが今置かれている状況とは、魔人化し始めているということなのか。
「君は特殊個体を見たことは?」
「あ、ああ、口が裂けてるやつを倒したんだ」
「なるほど。セレンが君に二つ名を与えた理由がわかったよ。あの鉄のような体の魔人を拳で倒すなんて常軌を逸してるな」
褒められてるのかなんなのかわからなかったアルフィスは複雑な気持ちだった。
「特殊個体はみんな元聖騎士なんだ」
「そんな……じゃあ母さんは……」
「そこに向かっているということになる。まぁ大体の女性はその前に亡くなるがね」
アルフィスの脳はもうついていけていない。
ただの病気だと思ったら、そんな深刻なことだったとは。
アルフィスは帰ったら猫アルを殴らねばと心に誓った。
「そして医療都市ダイナ・ロアでは今、魔人を人間に戻す研究をしている。未完成ではあるが確かに薬もある」
「マジか!!」
「だが問題があるんだ」
また問題かとアルフィスがキレそうになっているが、間髪入れずリヴォルグが続けた。
「北に凄まじい強さの魔人が出現した。その魔人はゆっくりダイナ・ロアへ向かっている」
「凄まじい強さ?でもそいつさえ倒せば行けるんだろ?」
「理屈はそうだ。だが私含めて、この国の精鋭30人で戦ったが倒せずに逃げられた」
強者と聞いただけで心が弾む流石のアルフィスでも、この話には息を呑んだ。
目の前にいるリヴォルグは火の国のシックス・ホルダーであるセレンと同等かそれ以上の強さだ。
そのリヴォルグを含めて30人で戦って勝てない魔人とはどれほど強いのか。
「そこで、取引しないか?」
「なに?……ってまた取引かよ」
猫アルだったり、アゲハだったり、どれだけこの世界の人間は取引が好きなのかとアルフィスは呆れる。
「君を北のダイナ・ロアまで連れて行こう。そのかわりに……」
「かわりに?」
「メルティーナをもらってやってくれ」
「はぁ?」
アルフィスは全く意味がわからなかった。
メルティーナも突然のことで言葉を失っている。
もらってやってくれというのはつまり結婚してやってくれということだろう。
戸惑うアルフィスをよそにリヴォルグの表情は本気そのものだ。
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