上 下
52 / 200
水の国編

カミラの泉

しおりを挟む
アルフィスは診療所の外へ出ていた。
ロールもその後を急いで追った。

アゲハは高熱で意識が朦朧としている。
一刻も早く西の泉へ行って薬草を取ってこなければならない。

アルフィスとロールは診療所の入り口にいた。

「ほ、本当に行くのか?魔物がいるんだぞ!」

「それがどうした?こっちには大魔法使いがいるだろうが」

その言葉にロールが冷や汗をかいている。
会った当初の威勢はもう無かった。

「それに俺には泉の場所がわからないし、その薬草がどんな形をしているのかもわからない。あんたが必要なんだ」

「少年……」

ロールは少し震えながら涙目になっていた。
そして意を決したロールは杖を上に掲げて気合を入れた。

「い、いいだろう!この大魔法使いロール様が行ってやろうではないか!」

アルフィスはその姿を見て呆れるが、まぁ上手くいったからよしとした。
そんなやり取りをしていると診療所からヘッケルが出てきた。

「本当に行くんだな。命知らずめ」

「相棒が苦しんでるのを放っておけるかよ。必ず戻る」

アルフィスの言葉を聞いてロールは少し悲しげな表情をしていた。
ヘッケルはため息をつきアルフィスにバックを投げる。

「食料と水が入ってる。あの子は任せておけ、できるだけのことはする」

「ああ、すまない。頼んだ」

出発するアルフィスを慌てて追うロール。
だが、ヘッケルが再度アルフィスを呼び止めた。

「おい、ボウズ、もう一つ聞きたい」

「ん?なんだ?」

「あの嬢ちゃん、ここ最近エンブレムを何度も発動しなかったか?」

アルフィスにとって意味がわからない質問だった。
確かに対抗戦の時は一日に一回は発動していたと思うが、ここ最近は戦うこともなかったのでエンブレムは使っていない。

「いや、ここ最近は使ってないな」

「そうか……ならいい」

ヘッケルはそれだけ言って診療所の中へ入って行った。
アルフィスは頭を傾げて村の入り口へ向かった。

アルフィス、ロールの二人は西の泉へ徒歩で向かった。


______________



夕刻、日も落ちかけた頃にアルフィスとロールは西の泉、カミラの泉の入り口にいた。
カミラの泉は森で囲まれ、中央に小さい泉があるが、面積で言えば森の方が大きい。

アルフィスが先頭を切って森へ入って行いく。
ロールはビクビクしながら後に続いた。

森の中は外界とは完全に遮断されているが如くだった。
その雰囲気は異様で小動物の姿は見えず鳥のさえずりさえ聞こえない。

「その薬草ってのはどこにあるんだ?」

「い、泉の近くの洞窟に生えてたはずだ……早く採取して帰ろう……」

アルフィスの後ろで辺りをキョロキョロと見回し落ち着きがないロール。
アルフィスは呆れながらも早足で前進した。

一時間ほど進んだところで、ずっと歩みをやめなかったアルフィスが立ち止まった。
まだ泉は見えず、辺りの風景は森に囲まれている。

「ど、どうしたんだ?少年?」

「……」

アルフィスが無言で辺りの気配を探っている。
ロールがその横顔を見ると真剣そのものだった。

「囲まれたな。こいつらかなりいるぞ」

「……え?」

「これ持っててくれ」

アルフィスはロールに食料と水の入ったバッグを投げる。
その後すぐに周りではカサカサと音が鳴り始め魔獣達が姿を現した。

その数は十匹、二十匹はいた。

「複合魔法……」

アルフィスの足元に魔法陣が展開したと同時に、魔獣達はアルフィスに一斉に襲い掛かった。
その魔獣達の姿は、ほとんど犬型で人間くらいの大きさだった。

アルフィスは一体、一体の噛みつき、引っ掻きを全て回避して、顎やボディに拳を叩き込んだ。

「援護を頼む!数が多すぎる!」

ロールは足が震えて杖を両手で持ち放心状態だったが、アルフィスの言葉にハッと我に返り、詠唱を始めた。

「み、み、み、水よ、わ、わ、我、て、て、て敵を……」

置かれた状況に動揺し詠唱を全く唱えられないロール。
そこに一体の魔獣がロールへ襲い掛かった。

「ひぃー!」

ロールは魔獣に押し倒され、噛みつかれそうになるが、寸前に持っていた杖を噛ませた。
ロールが持っていた杖が異様に大きいおかげで魔獣の歯をもってしても折れなかった。

「た、た、助けてー!」

悲痛に叫ぶロールだが、アルフィスに襲いかかる魔獣の数が多すぎて処理しきれず助けに行けない。

「くっそ!このままじゃやべえ!」

アルフィス、ロールの限界が近づいてたその時だった。
ロールの上にいた魔獣に横から猛スピードで弓矢が当たる。
その衝撃は凄まじく、魔獣は吹き飛ばされ、さらに弓矢が木に刺さり魔獣がはりつけにされた。

「あんた達!こっちへ!」

弓矢が飛んできた方向から女性の呼び声が聞こえる。
アルフィスはその声に反応し、声がした方向へダッシュした。
……が、ロールは全く逆方向へと走り去っていた。

「おい!そっちじゃねぇ!」

アルフィスは叫ぶが、ロールには全く聞こえていない。
ロールは森の奥への消えて行ってしまった。

アルフィスが声の方向へ走っていると、そこには洞窟があった。
ダッシュで洞窟へ入るアルフィス。

真っ暗闇の中、目を凝らすと一人の女性がいた。

「あんた、よくこんな所まで来たわね……」

その姿は金髪のツインテールで上が青い軍服で下はロングスカート。
スカートは動きやすいようにか片側が腰の辺りまでカットされており素足が見えていた。
年齢はアルフィスと同い年くらいで容姿端麗だった。
そして手には大きめの弓を持っている。

「あんた、中央から来たっていう聖騎士か?」

「聖騎士……まぁそうなるわね」

歯切れが悪い返答だった。
そもそもアルフィスは弓を使う聖騎士は初めて見た。
聖騎士はみんな近接戦闘型の前衛だと思っていたが、まさか遠距離型もいるとは思わなかった。

「あなた、その服、魔法学校の卒業生?なんでこんなところに来たのよ」

「相棒が熱出してな。薬草を取りに来たんだがこのざまだ。薬草のことを知ってるやつともはぐれちまったし」

アルフィスはためため息をつく。
それを見た弓使いの聖騎士は苦笑いを浮かべた。

「おめでとう。あなたが探す薬草はここにあるわよ。まぁ採取しても出られないんだけどね」

アルフィスは洞窟の奥を見ると白い綺麗な花が沢山生えているのが見えた。

「なるほど、ここが目的地だったんだな……」

アルフィスも苦笑いしてその場に座り込む。

「あんた、名前は?俺はアルフィス」

「私はメルティーナよ」

そう言ってメルティーナもその場に座る。
その表情は思った以上に疲れ切っていた。
ヘッケルの話しだと一週間はこの森にいることになる。

「あいつらこの洞窟には入れないのか?」

「ええ、魔獣は暗い所は見えないから入ってこないのよ。だから活動するのは日が出てる時だけ」

「ん?だったら夜になったら移動すればいいんじゃないのか?」

ごくごく当たり前のことだったがメルティーナは間髪入れずに反論した。

「夜に薄暗い森を歩くほど危険なことはないと思うけど」

「確かに……」

これもまたごくごく当たり前のことだった。
星や月の明かりがあると言っても森の中には届かない。

「どうすることもできないってことか……とりあえず寝るか」

「は?」

そう言ってアルフィスが横になる。
完全に寝る体制だった。
メルティーナはこの緊迫した状況で寝れる神経がわからなかった。

「"果報は寝て待て"って言うだろ」

「あ、あんた変わってるわね……」

「よく言われるよ」

そう言ってアルフィスはメルティーナの事や魔獣を一切気にせず、しばしの休憩と眠りについた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。(Image generation AI : DALL-E3 / Operator & Finisher : chocopoppo)

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

娘と二人、異世界に来たようです……頑張る母娘の異世界生活……ラブ少し!

十夜海
ファンタジー
母一人、子一人。 天涯孤独でたった二人の家族。 でも、高校の入学式へ向かう途中に居眠り運転のダンプカーに突っ込まれて二人仲良く死亡……。 私はどーでもいい、だって娘まで生まれた。でも、娘はまだ16歳なりかけ。なんで?なんで死ななきゃならない。 厳しい受験を乗り越えて、ようやくキャピキャピ楽しい高校生活だ。彼氏だってできるかもしれない。 頑張ったのに。私だって大学までやるために身を粉にして頑張ったのだ。 大学どころか、高校生活までできないなんて! ひどい。 願ったのは、娘の幸せと恋愛! 気づけば異世界に……。 生きてる?やったね! ん?でも高校ないじゃん! え?魔法?あ、使える。 あれ?私がちっさい? あれ?私……若い??? あれぇ? なんとか娘を幸せな玉の輿に乗せるために頑張る母。 そんな母娘の異世界生活。 でも……おかしいな?なんで私が子供なんですか? ##R18で『なろう』で投稿中です。 ラブ少なめなので、R15でファンタジー系で手直ししつつ、こちらに投稿させていただきます。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

処理中です...