地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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魔法学校編

べルートにて(2)

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アゲハはアメリアの部屋にいた。
部屋は広く、大きいベッドが角にあり、中央には二人掛けのテーブルがある。
そこに向かい合うように椅子が置いてあった。

アゲハとアメリアはその椅子に座り、執事のレナードが横に立つ。
レナードがハーブティーをティーカップに注ぎ二人の前に置く。
そして一礼して部屋を後にした。

「アゲハさんは、なぜアルとバディを?馴れ初めが聞きたいわ」

「わ、私がアルフィスに決闘で負けてしまって……」

アゲハは"馴れ初め"という言葉に少し頬を赤らめつつも答える。
あら、とアメリアは驚いた。
これは色々事情がありそうだと察したのだ。

「負けた私を誘ってくれたんです……」

「あらあら」

アメリアはハーブティーを飲み、ニコニコしながらアゲハの話を聞いていた。

「私はそれまで多くの人にバディを申し込まれました。でも全て断っていた……」

「なぜ?」

最もな疑問だった。
バディ申込みが多いということは選び放題。
自分の戦闘方法にあった魔法使いを選べば、この先楽になる。

「多くの人は私の剣の技術と家柄だけしか見ていない。私という存在を見ている人間はいなかった。だけどアルフィスだけは違ったんです。最初に会った時、へつらわないどころか、私のことを"弱そう"とまで言った」

「……」

「私はその時に思ってしまった。"下級貴族の低魔力・魔法使い程度が"と。そしてヤケになって戦いを挑んだら負けてしまった。その後、聖騎士学校ではいい笑いものでしたよ」

そう言ってアゲハは笑みをこぼす。
笑い事ではないが、客観的に自身の行動が滑稽に見えてしまったのだ。

「普通であれば、自分より弱い相手をバディには選ばない。でもなぜか私を選んでくれた」

「……あの子は昔から思慮深かった。何も考えてないようで、物事の本質を見る力がある子なの」

アゲハはどういうことかわからず、少し首を傾げる。
アルフィスがそんな物事を深く考えてるとは思えない。

「父親に殴れ過ぎたせいか途中で性格が曲がったと思ったけど、それでもとても優しくて周りをすごく大事にしていた」

「……」

「なぜ、アルがアゲハさんを誘ったのか私にはわかるわ」

「え?」

「アルが見ているのは表面上の強さや家柄でなく、アゲハさんの諦めない心に惹かれたんだと思う」

その言葉にアゲハは動揺する。
この世界は"強さ"と"家柄"で成り立っていると言っても過言ではない。
そんな目には見えないものに惹かれるなんて到底思えなかった。

「この先もずっと一緒かはわからないけど、組むのなら、心が強いバディの方が私もいいと思う」

「わ、私は決して強くはないです……」

「いえ、アゲハさんは強い。こんな田舎に来るくらいだから。エンブレムの秘密が知りたいのでしょ?」

アゲハは息を呑む。
そう、それがここまで旅をしてきた理由だった。
あの老人が言うように、もしエンブレムに何かしらの秘密があれば突破口になる。

アゲハは無言で頷いた。

「アゲハさんはエンブレムの形はわかるかしら?」

「あ、あの、質問の意味がよくわからないのですが……」

「ちょっとわかりづらいかったわね。エンブレムを発動させた後、どんな形かしら?」

「え?それは円形です」

アゲハの困惑も無理はない。
そんなのは当たり前の常識だ。
エンブレムは体の周りに円形状に展開し、その後に縮む。
縮んでも円形は保たれ、その形はやはり円形だ。

「それはあってるようで間違ってる」

「ど、どういうことでしょう?」

「答えはエンブレムには

もはやアゲハの理解が追いついていなかった。

「アゲハさんは魔人は見たことないわよね」

「はい……ここに来る前にアルフィスが会ってます」

「何か言ってなかった?」

少し笑みを浮かべてアゲハに尋ねる。
そういえばとアゲハはあることを思い出す。

「モヤモヤしたものが漂っていて、それに触れると魔法が解除されたと……ま、まさか……」

「聖騎士が使うエンブレムも同じ。展開する時は円形。でもその後は自由に形が変えられる」

アゲハは衝撃を受けていた。
そんなのは聖騎士学校でも教えていない。

「展開する時には円形のため、皆はそれがエンブレムの形なのだと思い込む。だから誰も円形から形を変えられるなんて思わない」

「なぜ、聖騎士学校では教えていないのでしよょう?」

アメリアは目を閉じて深呼吸する。
思い詰めた様子で語る。

「危険だからよ。今から言うことは誰にも言ってはいけない。もちろんアルにも」

「え?」

そう言って、アメリアは右手の甲から肩まで巻かれた包帯をとった。



_______________________




陽も落ちて、すっかり辺りは真っ暗になっていた。
アルフィスは結局、夕飯になる魚すら釣れずに屋敷へ戻ろうとしていた。

アルフィスはあくびをしながら家路に向かっていると、前に人影がありこちらに歩いてくる。
アルフィスが目を凝らすと、それはアゲハだった。

「お、アゲハじゃないか、どうしたんだ?」

「え、ええ。少し海でも眺めようと思って……」

と言っても、もう辺りは暗い。
そして、アゲハの声も沈んでいるように聞こえた。
アルフィスはその言葉に何かを察した。

「そうか。暗いから、足元に気をつけろよ。あ、エンブレムでも使ったら見えやすいかもな」

「え、ええ」

エンブレムは発光するためライトがわりになると思ったアルフィスだったが、そんな冗談を言っても、アゲハは反応は薄く、そのまま海の方へと歩いて行った。
そんなアゲハを見て首を傾げて屋敷に戻った。


______________________



あっという間にべルートでの二日が終わり、アルフィスの危惧していた父の帰りも無く、平和な里帰りとなった。

屋敷の玄関前で、荷馬車に乗る直前のアルフィスとアゲハ。御者はもちろん舎弟の二人だ。

「本当にお世話になりました」

アメリアとレナードに頭を下げるアゲハ。
なにか名残惜しそうに二人を見ていた。

「またいらっしゃい。気をつけて。アルも」

アメリアがニコニコしながら二人に別れを告げる。
表情は笑っているが、どこか寂しそうで、レナードはもう泣いていた。

「母さん、体にきーつけてな。今年、絶対対抗戦優勝して、さっさと水の国行って薬取ってくるからな!」

「ええ、期待してる」

母親の満面の笑みにアルフィスは鼻をかく。

そして荷馬車に乗り込んだ二人は屋敷の前で見送る二人に手を振りセントラルを目指した。
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