34 / 200
魔法学校編
テンペスト
しおりを挟む
野営地の出入り口。
ノッポとデブが立ちすくんで動けなくなっていたが、アルフィスは魔人へ向かって歩みをやめなかった。
「複合魔法……」
アルフィスの足元に魔法陣が展開し、すぐに消える。
魔人との距離は数メートルでアルフィスも魔人の動きに警戒し、すぐには飛び込まない。
魔人の周囲には黒いモヤが漂っており、それが何なのか不明だった。
体格は2メートルほどで人間にしてはかなり大きく全身が黒い。
顔は無く口だけがあり、その口は頬まで裂けている。
"化け物"と形容しても差し支えのない見た目だった。
「どんだけ強いか知らんが、殴ってみりゃわかるだろ」
その言葉と同時にアルフィスはその場から一瞬で消え魔人の前まで移動していた。
右のボディブローを打ち込み、左のショートアッパーで顎を突き上げる。
最後に渾身の右ストレートを顔面に叩き込んだ。
「な、なんだこの感触は……しかも魔法が解除されちまった!」
「ガガがガぎが」
声というよりも、妙な音が口元から聞こえた。
魔人はアルフィスの右ストレートを受けて、顔を少し捻っていたが正面に戻し、口を開けてアルフィスに噛みつこうとしていた。
魔人の歯は尖《とが》り、噛まれようものならひとたまりもないことは容易に想像できた。
「この黒い煙はエンブレムか!」
「ウオオオオオ!」
アルフィスは魔人の噛みつきを横にダッキングして交わし距離を取ろうとするが、魔人のスピードも速い。
すぐさま振り向き引っ掻きによる攻撃は、空間を歪めるほど鋭かった。
「複合魔法!」
引っ掻き攻撃を間一髪のところで瞬間移動し数メートル距離をとって回避した。
「こいつ……ヤバすぎる……」
アルフィスは魔人を殴った時の感触の時点で、その危険さを悟っていた。
その鉄を殴ったような感触は魔法で強化されていたはずのアルフィスの拳に痛みを残していた。
「アニキ!」
「逃げて下さい!」
舎弟二人の悲痛な叫びが聞こえるが、魔人がアルフィスへ向かってスタスタと近づき、徐々にスピードを増した。
そして高速ダッシュへ変わり、アルフィスめがけて飛びつこうとしていた。
「逃げる?俺が逃げたら誰がこいつをぶっ飛ばすんだよ」
アルフィスは瞬間移動して一気に魔人の懐に潜り、左ショルダータックルを胴に当てた。
そのままゼロ距離の右のショートフックを魔人の左脇腹に叩き込む。
魔人の体は"くの字"に曲がり、アルフィスのフック振り抜きと同時に数メートル吹き飛ばされ、地面を転がる。
アルフィスの魔法は解除された。
「これでどうだ……」
ここにいる全員が、これでもう立ち上がらないでくれと願った。
しかしその願いは虚しく魔人はゆっくりではあるが立ち上がりアルフィスの方を見る。
裂けた口を大きく開くが、その表情は笑っているようだ。
「なるほど」
「なにがなるほどなんですか!!」
「早く逃げましょうアニキ!!」
アルフィスはこの状況で不敵な笑みを浮かべていた。
しかし魔法はあと一回しか使えない。
「今のが効かなかったらどうしようかと思ったが……まだ勝機はあるな……」
アルフィスは目を閉じて深呼吸する。
そして開眼後、今日唱えられる最後の魔法を発動する。
「複合魔法……下級魔法強化……」
アルフィスの足元に魔法陣が展開するが、その大きさが今までと違い倍以上あった。
「これをやるのは久しぶりだぜ……耐えてくれよ俺の体……」
展開された魔法陣が消えるとアルフィスの真っ黒な髪に少し赤みが掛かる。
また、魔人を睨む鋭い眼光が赤く染まり発光する。
「……嵐」
魔人はアルフィスのその姿を見ても動じず、ただ無感情に走り出す。
アルフィスは一瞬でその場から消える。
眼光が歪な赤い線となり、その線は猛スピードで魔人の懐へ向かった。
それはあまりにも刹那だった。
アルフィスの姿は見えないが魔人の胴に五つ拳大の大きさの穴が空く。
その穴はもう最初からそこに何もなかったように空洞だった。
その後すぐに凄まじい早さで、あたり一帯に五回轟音が響く。
次に姿を現したアルフィスは空中にいた。
魔人に背を向けバク宙の途中動作をしていた。
「ラピット・ファイア!!」
その動作から放たれたのはオーバーヘッドキックだった。
アルフィスの脚は魔人の頭を直撃し、それを割る。
魔人が立つ地面四方に亀裂が入り、その範囲の広さがこの蹴りの威力を物語っていた。
「複合魔法を解除!」
アルフィスが叫ぶと魔法が解除され、空中にいる体制のまま力無く地面に落ちる。
魔人も膝から倒れ、起き上がる気配は無かった。
いつの間にか魔人から漂っていたモヤが消えており、それが魔人の戦闘不能を意味していた。
「か、体が……痛い……」
「ア、アニキー!」
アルフィスは大の字で地面に倒れており、すぐさまそこにノッポとデブが駆け寄る。
二人はアルフィスの勇姿に号泣していた。
「すごい!すごいっすよ!」
「魔法使いが一人で魔人倒すなんてありえないですよ!」
アルフィスは朦朧と"セレンは魔人を拳一発で倒す"という二人の言葉を思い出しながら昨日に引き続き、また気絶した。
ノッポとデブが立ちすくんで動けなくなっていたが、アルフィスは魔人へ向かって歩みをやめなかった。
「複合魔法……」
アルフィスの足元に魔法陣が展開し、すぐに消える。
魔人との距離は数メートルでアルフィスも魔人の動きに警戒し、すぐには飛び込まない。
魔人の周囲には黒いモヤが漂っており、それが何なのか不明だった。
体格は2メートルほどで人間にしてはかなり大きく全身が黒い。
顔は無く口だけがあり、その口は頬まで裂けている。
"化け物"と形容しても差し支えのない見た目だった。
「どんだけ強いか知らんが、殴ってみりゃわかるだろ」
その言葉と同時にアルフィスはその場から一瞬で消え魔人の前まで移動していた。
右のボディブローを打ち込み、左のショートアッパーで顎を突き上げる。
最後に渾身の右ストレートを顔面に叩き込んだ。
「な、なんだこの感触は……しかも魔法が解除されちまった!」
「ガガがガぎが」
声というよりも、妙な音が口元から聞こえた。
魔人はアルフィスの右ストレートを受けて、顔を少し捻っていたが正面に戻し、口を開けてアルフィスに噛みつこうとしていた。
魔人の歯は尖《とが》り、噛まれようものならひとたまりもないことは容易に想像できた。
「この黒い煙はエンブレムか!」
「ウオオオオオ!」
アルフィスは魔人の噛みつきを横にダッキングして交わし距離を取ろうとするが、魔人のスピードも速い。
すぐさま振り向き引っ掻きによる攻撃は、空間を歪めるほど鋭かった。
「複合魔法!」
引っ掻き攻撃を間一髪のところで瞬間移動し数メートル距離をとって回避した。
「こいつ……ヤバすぎる……」
アルフィスは魔人を殴った時の感触の時点で、その危険さを悟っていた。
その鉄を殴ったような感触は魔法で強化されていたはずのアルフィスの拳に痛みを残していた。
「アニキ!」
「逃げて下さい!」
舎弟二人の悲痛な叫びが聞こえるが、魔人がアルフィスへ向かってスタスタと近づき、徐々にスピードを増した。
そして高速ダッシュへ変わり、アルフィスめがけて飛びつこうとしていた。
「逃げる?俺が逃げたら誰がこいつをぶっ飛ばすんだよ」
アルフィスは瞬間移動して一気に魔人の懐に潜り、左ショルダータックルを胴に当てた。
そのままゼロ距離の右のショートフックを魔人の左脇腹に叩き込む。
魔人の体は"くの字"に曲がり、アルフィスのフック振り抜きと同時に数メートル吹き飛ばされ、地面を転がる。
アルフィスの魔法は解除された。
「これでどうだ……」
ここにいる全員が、これでもう立ち上がらないでくれと願った。
しかしその願いは虚しく魔人はゆっくりではあるが立ち上がりアルフィスの方を見る。
裂けた口を大きく開くが、その表情は笑っているようだ。
「なるほど」
「なにがなるほどなんですか!!」
「早く逃げましょうアニキ!!」
アルフィスはこの状況で不敵な笑みを浮かべていた。
しかし魔法はあと一回しか使えない。
「今のが効かなかったらどうしようかと思ったが……まだ勝機はあるな……」
アルフィスは目を閉じて深呼吸する。
そして開眼後、今日唱えられる最後の魔法を発動する。
「複合魔法……下級魔法強化……」
アルフィスの足元に魔法陣が展開するが、その大きさが今までと違い倍以上あった。
「これをやるのは久しぶりだぜ……耐えてくれよ俺の体……」
展開された魔法陣が消えるとアルフィスの真っ黒な髪に少し赤みが掛かる。
また、魔人を睨む鋭い眼光が赤く染まり発光する。
「……嵐」
魔人はアルフィスのその姿を見ても動じず、ただ無感情に走り出す。
アルフィスは一瞬でその場から消える。
眼光が歪な赤い線となり、その線は猛スピードで魔人の懐へ向かった。
それはあまりにも刹那だった。
アルフィスの姿は見えないが魔人の胴に五つ拳大の大きさの穴が空く。
その穴はもう最初からそこに何もなかったように空洞だった。
その後すぐに凄まじい早さで、あたり一帯に五回轟音が響く。
次に姿を現したアルフィスは空中にいた。
魔人に背を向けバク宙の途中動作をしていた。
「ラピット・ファイア!!」
その動作から放たれたのはオーバーヘッドキックだった。
アルフィスの脚は魔人の頭を直撃し、それを割る。
魔人が立つ地面四方に亀裂が入り、その範囲の広さがこの蹴りの威力を物語っていた。
「複合魔法を解除!」
アルフィスが叫ぶと魔法が解除され、空中にいる体制のまま力無く地面に落ちる。
魔人も膝から倒れ、起き上がる気配は無かった。
いつの間にか魔人から漂っていたモヤが消えており、それが魔人の戦闘不能を意味していた。
「か、体が……痛い……」
「ア、アニキー!」
アルフィスは大の字で地面に倒れており、すぐさまそこにノッポとデブが駆け寄る。
二人はアルフィスの勇姿に号泣していた。
「すごい!すごいっすよ!」
「魔法使いが一人で魔人倒すなんてありえないですよ!」
アルフィスは朦朧と"セレンは魔人を拳一発で倒す"という二人の言葉を思い出しながら昨日に引き続き、また気絶した。
0
お気に入りに追加
429
あなたにおすすめの小説
婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた
ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。
マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。
義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。
二人の出会いが帝国の運命を変えていく。
ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。
2024/01/19
閑話リカルド少し加筆しました。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
ヒト堕ちの天使 アレッタ
yolu
ファンタジー
天使であるアレッタが、大罪である【天使の羽斬り】を行ったとして、ヒトの地へと堕とされた───
アレッタにとってそれは、冤罪のなにものでもない。だが7日間生き抜けば罪が晴れ、冤罪であったことを証明できる。しかし、転生した体は、あまりにか弱い『幼女』
果たしてヒトであり、幼女である彼女は7日間無事に生き抜くことができるのだろうか……
幼女となったアレッタは、食べて、食べて、走って、戦います!
ぜひアレッタと一緒に、ヒトの世界を楽しんでください!
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった
盛平
ファンタジー
パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。
神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。
パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。
ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる