19 / 200
魔法学校編
インパクト
しおりを挟むアルフィスが目覚めるとそこにはレイアがいた。
ベッドに寝るアルフィスの横で椅子に座って本を読んでいたが、相変わらず顔色が悪い。
「レイ……」
「あ!アル君。ようやく起きたね」
事態があまり飲み込めていないアルフィスは周りを見渡すと、そこは病院の病室のようだ。
部屋は個室のようで、アルフィスとレイアしかいなかった。
「学校から近くの病院さ、ザック君とライアン君は今さっき帰ったよ」
アルフィスは上体を起こそうと上半身に力を入れ、レイアがそれを手伝う。
「俺はどのくらい寝てた?」
「一週間半くらいかな。よりにもよってリナと戦うなんて」
そんなに寝てたのかとアルフィスは頭を押さえる。
まだ頭が働いていないようだ。
「リナは剣技はそこまでではないけど、口が上手いからね。上手く乗せてライバルを潰してるみたいだし」
「あいつのこと知ってるのか?」
「知ってるものなにも親戚だからね。姉様とよく喧嘩してたからなおさらさ」
確かにあそこまで口が悪いと誰とも喧嘩になりそうだ。
完全に同性からは好かれないタイプだなとアルフィスは思った。
「アゲハは無事だったか?」
「アゲハさんは大丈夫。むしろアゲハさんがいなかったらアル君は死んでたかもね。一緒に吹っ飛んだおかげロイの魔法がすぐ打ち消されたから」
確かに吹き飛ばされたアルフィスは後ろにいたアゲハに当たり、アゲハが発動していたエンブレムで風の刃が打ち消されていた。
後ろにアゲハがいなければ体が真っ二つになっていてもおかしくない。
「アル君が無事でなによりだよ」
アルフィスはレイアのその泣きそうな笑顔を見た時、初めて事の重大さを理解した。
同時に、暖かい優しさに包まれている安心感を得た。
前世にはこんなに心配してくる友人はいなかったからだ。
そんな時、部屋のドアが突然開いた。
入ってきたのはアゲハだった。
「アルフィス!」
一瞬、驚いた表情をしたアゲハは涙目でベッドに走り寄る。
「アゲハ……すまない、頭に血が昇っちまって前に出過ぎた……」
「いいんです。まだ連携も練習してなかったのですから。でも本当によかった」
アゲハは安堵していた。
もしこのままアルフィスが目覚めなかったらと思うと夜も眠れていなかった。
「僕はお邪魔なようだね。今日は帰るよ」
「レイ、すまないな」
「いえいえ、また学校で」
レイアは笑顔で退室する。
アゲハはレイアが座っていた席に着いた。
その表情は暗かった。
「やはり、聖騎士と魔法使いが二人とも前衛は無理があったのです……」
「……」
アルフィスは無言のままアゲハの話を聞いた。
俯きながらもアゲハは続けた。
「聖騎士は近接戦闘が得意の魔法使いとは相性が悪い……諦めるしかないです」
そもそも近接戦闘が得意な魔法使いなんて、アルフィスぐらいだろう。
アルフィスはアゲハが話終わったのを空気で感じると、目を閉じて、一呼吸置いてから口を開く。
「なんで魔法使いは聖騎士に勝てないと思う?」
アゲハはアルフィスの質問に眉を顰めた。
そんなわかりきったことをなぜ聞くのかと。
「なぜって、エンブレムがあるからでしょう」
「違う」
「どういうことですか?」
「"聖騎士にはエンブレムがあるから勝てない、それが常識"って言い訳して、みんな諦めちまったからだ」
確かに魔法使いはみな聖騎士には絶対勝てないと思っている。
それはこの世界の常識だ。
エンブレムは魔法を打ち消してしまうし、聖騎士は見習いであっても近接戦闘能力は高い。
間合いを詰められたら魔法使いでは勝てない。
「お前に話しておかなきゃいけないことがある。俺のバディなら知っといてもらわないとな」
「なんでしょう?」
アルフィスの神妙な面持ちにアゲハは息を呑んだ。
「俺の母親は聖騎士だった。今は病気だから田舎で療養中だ。これは知ってるな」
「ええ」
「母さんは、聖騎士だった時に、ある魔法使いと戦った話をしてくれた。魔石密輸の取り締まりのための任務で、その時、指名手配の魔法使いを追っていた」
「……」
「追い詰められた、その魔法使いは風の魔法で勢いよく岩を飛ばしてきた。母さんはその瞬間エンブレムを発動して、岩ごと魔法を切り捨てた。だがその時、母さんが持ってた剣にヒビが入った」
「……え?」
「母さんはこの時、エンブレムの弱点に気づいたんだ」
「エンブレムに弱点?なんですかそれは?」
「エンブレムが魔法を解除するまでに、わずかな時間差がある」
「時間差ですか?」
「そうだ。魔法効果の乗った物理攻撃を受けた場合、"魔法効果が付与された物理攻撃"の衝撃が入った後に、魔法効果が解除される。俺の補助魔法での攻撃もそれを利用してるんだ」
アゲハは思い出していた。
確かに最初にアルフィスと戦った時もエンブレムを発動させたはずなのに吹き飛ばされた。
リナ戦の時もそうだった。
リナのショートソードの一閃を弾いていたのも、吹き飛ばされたアルフィスを受け止めようとした時の衝撃もそのためかとアゲハ理解した。
「俺は"インパクト"と名付けた。補助魔法が消されても衝撃だけ与えるこの攻撃は、エンブレムの魔法解除効果を貫通する」
アゲハは驚く。
そんなことが本当にできたとするなら、魔法使いが聖騎士に勝てないという常識が覆る
エンブレムは発動者の周りに円形状のフィールドを張る。
発動した瞬間1メートルほどフィールドが展開するが、すぐに縮む。
常時発動している状態の範囲は使用者の生命力で決まるが、大体は30センチほどだ。
「そして母さんはもう一つ、エンブレムにも違った使い方があると言っていた」
「え?」
「なんだが、俺には関係がない話しだと思って聞かなかったんだ。それがわかればなにか突破口が見えるかもしれないが……」
アゲハは先日会った老人のことを思い出す。
老人の話を聞いて、もしかしたらエンブレムにはもっと別の使い方があるのではないか?
学校では基礎知識と応用を教えるが、エンブレムに関する学科はもう終わってしまった。
もしかしたら学校では教えていない何かがあるのではと考えていたのだ。
「アルフィス、私をあなたのお母様に会わせてもらえないでしょうか?」
「は?いや無理だろ?学位がまだないのに他の国には行けないだろ」
「制限はありますが、学生も国境を越えられるのです。あと二ヶ月で長期休みになります。期間が決まっているので長旅は無理ですが」
そんな話は初めてと言おうとしたが、恐らく校則に載っているのだろうと、アルフィスはそれ以上は何も言わなかった。
ふと、この休みを利用して水の国に行くことも考えたが、長期と言っても期間がある休みに、行ったこともない場所を旅するのは危険だと思った。
「それはいいが、お前は実家に帰らなくていいのかよ」
「私のことはお構いなく。それよりも私はもっと強くなりたい」
明らかにアゲハはアルフィスの影響を受けていた。
この世界では一度負ければそれまで、みなそれが自分の限界だと諦める。
だがあそこまでボロ負けしても、まだ"バディ"と言ってくれるアルフィスとなら未来があるとアゲハは感じたのだ。
「そうか、なら決まりだな。べルートへ」
「ええ、火の国べルートへ」
こうして二人は強くなるための初旅へ出るのだった。
0
お気に入りに追加
429
あなたにおすすめの小説
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
娘と二人、異世界に来たようです……頑張る母娘の異世界生活……ラブ少し!
十夜海
ファンタジー
母一人、子一人。
天涯孤独でたった二人の家族。
でも、高校の入学式へ向かう途中に居眠り運転のダンプカーに突っ込まれて二人仲良く死亡……。
私はどーでもいい、だって娘まで生まれた。でも、娘はまだ16歳なりかけ。なんで?なんで死ななきゃならない。
厳しい受験を乗り越えて、ようやくキャピキャピ楽しい高校生活だ。彼氏だってできるかもしれない。
頑張ったのに。私だって大学までやるために身を粉にして頑張ったのだ。
大学どころか、高校生活までできないなんて!
ひどい。
願ったのは、娘の幸せと恋愛!
気づけば異世界に……。
生きてる?やったね!
ん?でも高校ないじゃん!
え?魔法?あ、使える。
あれ?私がちっさい?
あれ?私……若い???
あれぇ?
なんとか娘を幸せな玉の輿に乗せるために頑張る母。
そんな母娘の異世界生活。
でも……おかしいな?なんで私が子供なんですか?
##R18で『なろう』で投稿中です。
ラブ少なめなので、R15でファンタジー系で手直ししつつ、こちらに投稿させていただきます。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった
盛平
ファンタジー
パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。
神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。
パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。
ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる