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魔法学校編

この世界と黒猫と取引と

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火の国 ロゼ
港町べルート

屋敷から港は近かった。
俺はなにかムシャクシャしたらすぐにこの場所に足を運んだ。

アルフィス・ハートルになってから半年。
嫌なことだらけだ。

だが海を見ていると嫌なことは、だいたい忘れられた。
昔は周りの人間や物に当たり散らしたが、この弱々しい体だとそれはできない。

「スキルは俺のせいじゃないだろ」

愚痴を言っても何も解決しないことはわかってる。
だが、自分の弱さと周りの環境が思いのほか俺を追い詰めていた。

転生したのはいいが、転生先が底辺魔力で下級貴族とは泣けてくる。

「やぁ、こんにちわ、こうやって会うのは初めてだね」

不意に後ろから話しかけられる。
驚いてパッと振り向くいても誰もいない。
いるのは一匹の黒猫だけだった。

「猫は喋らないよな……」

「確かに、喋る猫はこの世界で僕だけかもね」

猫が喋っている。
でももう俺は驚かなかった。
魔力やら魔法やらスキルやらで十分過ぎるほど驚いたからだ。
魔法があるなら喋る猫くらいいてもおかしくない。

「あんまり驚かないんだね」

「喋る猫どころじゃないんだよ。俺は忙しいの。あっちいけ、しっしっ!」

「酷い扱いだなぁ。僕の体なんだし、少しくらい話をしてもいいでしょう」

今なんて言った?
"僕の体"?

「お前まさかアルフィス・ハートル?」

「はじめましてホウジョウシンゴ」

俺は目の前の猫を掴んで揺さぶった。

「お前なんで、こんなクソスキル埋め込みやがったんだよ!てめぇのオヤジに殴られたんだぞ!」

「うあー。頼むから落ち着いてくれー」

俺は黒猫を持ったまま睨みを効かせる。
こいつのせいで嫌なことばっかりだ。

「俺をこの世界に連れてきたことはもうどうでもいい、だが俺は人の補助なんてしたくねぇぞ!」

こいつのオヤジからも『人のサポートだけさせるために魔法を学ばせてるわけじゃない!』って殴られた。

「いいから下ろしてくれ、話はそれからだ」

俺は渋々、猫を下ろしてやった。
なにか変なことを言うもんならまた掴んでやろうと気を張る。

「僕はね、この世界で強くなりたかったんだ、そして母上を救う」

「どういうことだ?」

「母上の病は治らない。この火の国の医療技術だとね」

確かにこの国は日本の医療とは全く違う。
変な薬草を調合して飲んだり、塗ったりした。
俺が見るに自己満足に見えた。

「姉様は母上に興味がない。妹は母上を助けたくて薬学を学んでいるけど、いくら学んでもこの火の国の医療だと治せない」

「だったらどうしようもねぇじゃねぇか」

「そこで僕が強くなる事にした」

いやいや、こんな貧弱な体で魔力も無くてどうやってこの世界で強くなるっていうんだ。
そもそも補助魔法しか使えないのに。
他人をサポートしても自分が強くなるわけじゃない。

「強くなるってもどうやってだよ。魔力も無ければ、サポート全振りのスキル構成だし」

「他人の補助なんてしないさ、魔法は全部自分使うんだよ」

「は?」

「もう実験済みなんだ。ここで取引しよう」

なかなか話がきな臭くなってきたが、この猫から真剣さが伝わる。
本当に母親を救いたいと思っている。
俺は自分の母親をふと思い出していた。

「この世界での強さは魔力では決まらない。魔法とスキルの組み合わせ次第でどうにでもなる。そしてこのスキル構成が最も今の自分を強くする最高の組み合わせなのさ」

「なるほど、で、取引内容ってなんなんだ?」

「僕の母上を助けるために、15歳になったらセントラルの魔法学校に入って学位を取る。そして水の国の最北端にある医療機関から薬を持ってきてもらう。これが僕からの取引さ」

「なかなかめんどくさいな。なんで学位がいるんだよ」

「国境をまたぐには資格がいるのさ、その最も簡単に取れる資格が学位なんだ。3年あれば卒業だからね」

なるほど。18歳になれば行けるのか。

「それはいいけど、俺にはなんの得があるんだ?」

「君は強い人と戦いたいんだよね?セントラルにはうじゃうじゃいるし、条件さえ満たせば、火の王にも挑める。そのチャンスを僕は君に与える」

なるほど、確かに強いやつと戦えるなら行ってやってもいい。
強くなる可能性があるならなおさらだ。
前の世界ではできなかったことを、この世界ではできるのだ。

「その火の王ってやつは強いのか?」

「まぁこの世界だと……最強かな?それぞれ四つの国にはそれぞれ王がいる。四属性王って呼ばれてて、恐らくその中で火の王が最も強い」

俺はその火の王に断然興味が湧いた。
そんなに強いなら戦ってみたい。

「強さとしては、セントラルにいる聖騎士が全員で戦っても数分で灰にされるくらいの強さだよ」

なんだそれは異次元な強さじゃないか……
聖騎士ってのがどれだけ強いかわからないし、何人いるのかわからないが、"灰にされる"という言葉でだけで一瞬血の気が引いた。
こんなことは初めてだ。

「王を倒せば王位に付けるのさ。だから挑む者は多いよ。でも言っといてなんだけど、王と戦うのはやめた方がいいと思うよ」

「どうしてだよ?」

俺はすぐに聞き返した。
ここまで話しといて辞めといたほうがいいとはどう言うことか?

「なにせ四属性王は王位に付いてから、この二千年間、誰一人として入れ替わってないからね」

俺はその言葉を聞いた瞬間、今までないような胸の高鳴りを感じた。

そして俺は生まれて初めて猫と握手した。
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