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第七十三話 付き添っていただいた殿下

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気がつくと、わたしはベッドの上にいた。

「気がつかれましたか?」

なんと、そばには殿下がおられた。

窓の方を見ると、カ-テンの隙間から日が射し込み始めていた。

ということは、一晩中、わたしは寝込んでしまったということだろうか?

そして、殿下は一晩中、わたしに付き添っていてくださったのだろうか?

「殿下、わたしはいったい……」

「あなたは、昨日の夕方、執務室で倒れてしまいました。その為、侍女たちの助けを借りて、あなたの部屋に運ばせてもらったのです。そして、侍医にも診察をしていただきました。過労ということで、二日ほどは安静にしてください、とのことです。相当疲れがたまっていたのでしょう。わたしの思いやりが足らず、あなたにはご迷惑をおかけしてしまいました。申し訳なく思っています」

殿下はそうおっしゃっているが、ご迷惑をおかけしたのはわたしの方だ。

もっと殿下に尽くしていかなければいけないのに、恥ずかしい限りだ。

「侍医は、安静にしていれば回復してきますと言ってくれたのですが、無理をさせてしまったのは申し訳ないと思い、今まで付き添わせていただきました。ご迷惑でしたら申し訳ありません」

「ご迷惑なんてとんでもありません。こういう大切な時期に倒れてしまい、わたしの方こそ申し訳なく思っています。しかも、一晩中付き添っていただくなんて、光栄以外のなにものでもないと思っています」

「とにかく休んでください。あなたはもう、この王国にとっても大切な存在になりつつあります」

「そんな、わたしなんて。殿下こそ、お疲れだと思います。少し休まれてはいかがでしょうか?」

「ありがとう。疲れは少しありましたが、それも、あなたとこうして話すことができたので、もう大丈夫です。わたしにとってあなたは、力を与えていただいている大切な存在なのです」

殿下は恥ずかしそうに言った。

「力を与えているなんて……。そんな、おおげさすぎます」

「いや、全然おおげさではないですよ」

「そうおっしゃっていただけるとありがたいんですけど」

「とにかく休んでください。そして、回復したら、今度は無理をしないようにしていきましょう。これからもずっと一緒に仕事をしていくのですから」

そう言って、殿下は微笑む。

わたしも殿下と一緒に仕事をしていきたい。

これからもずっと。

いや、それだけではなく、恋人として、婚約者として、そして、お妃として殿下と一緒にすごしていきたい。

そう言う気持ちが湧き上がってくる。

殿下の気持ちはどうなのだろう。

付き添っていただいたのはうれしい。

でも、せっかく二人きりでわたしの部屋にいるのだから、抱きしめていただき、キスをしていただきたい、という気持ちはある。

いや、そうしてほしいという気持ちはどんどん強くなってきている。

それなのに……。

そういう雰囲気にはなりそうもない。

殿下は、わたしのことは恋の対象だとは思っていただいていない、ということなのだろうか……。

せめて、殿下の手を握りたい。

手をつないで、殿下のやさしさをもっと味わいたい。

そう思ったわたしは、

「殿下、申し訳ありませんが、一つわがままを言ってよろしいでしょうか?」

と言った。

「なんでも言ってください」

殿下は微笑みながら言う。

「ご迷惑だとは思いますが、殿下と手をつなぎたいのですけど、お願いできますでしょうか?」

今まで生きてきた中でも、最上級に近いくらい恥ずかしい言葉だと思う。

殿下は、どう思うのだろうか?

断ってしまうのだろうか?

心がますます沸き立っていく。

「手をつなぐのですか?」

恥ずかしそうに言う殿下。

「わたし、殿下のやさしい気持ちにもっと触れたいと思っています」

わたしは、恥ずかしい気持ちをなんとか抑えながらそう言った。

「よろしいのでしょうか?」

「お願いします」

わたしがそう言うと、殿下は、

「わたしでよろしければ」

と言った。

これで、殿下と手をつなぐことができる。

わたしはうれしい気持ちになりながら、

「よろしくお願いします」

と言った。

「では手をつなぎたいと思います」

殿下はそう言った後、恥ずかしがりながら、その手をわたしの手に近づけていった。
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