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第六十六話 殿下へのアプローチ

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ラディアーヌ様の話は続く。

「そこで、わたしのことをラディアーヌ様ではなくて、ラディアーヌさんと呼んでくださるようになれば、距離は縮まるのではないかと思いました。距離を縮めるには、まず呼び方が大切ではないかと思いまして」

「そんなおそれ多いことはできないです」

「ではラディアーヌと呼び捨てにしたらどうでしょう?」

「なおさらできないです」

「それなら、せめて、ラディアーヌさんと呼んでほしいんですけど」

いたずらっぽい微笑みを向けてくるラディアーヌ様。

ラディアーヌ様の方から言ってきているのだから、お受けするしかなさそうだ。

「では、これから二人きりの時は、ラディアーヌさんと呼ばせていただきます。ただ、同じ二人きりの時も、こういう部屋にいる時だけにさせてください」

「わたしは別に構わないと思っています」

「部屋以外の場所だと、誰かに、『あの人は失礼な人だ。何様のつもりなんだ』と言われかねません。わたしは貴族でないので、そういうことは言われやすいのです。ラディアーヌ様にもご迷惑をおかけしてしまいます」

「わたしのことはいいのですが、あなたには迷惑をかけてしまいますね。そういうことならばわかりました。残念ですが、こうして二人だけでいる時にしましょう」

「ありがとうございます。ラディアーヌ様」

「ほら、もう様とつけている。ラディアーヌさんでいいのに」

「ラディアーヌさん、これでよろしいでしょうか?」

「そうです。それでいいのです」

うーん、言いにくい。

でも慣れていかなくてはいけないだろう。

「次は、わたしと二人きりの時は、あまりかしこまらないこと。まあこれは少しずつそうなってもらうしかないとは思っています」

「失礼にならないように思っていましたので、緊張していたところはあります」

「わたしはさっきも言いましたけど、あなたともっと親しくなりたいのです。二人きりの時は、なるべくかしこまらずに行きましょう」

とラディアーヌ様は言った。

話す時はさんづけだが、心の中では様づけになる。

これは、仕方のないことだろう。

「なるべくかしこまらずに行きたいと思います」

わたしはそう言った。

「それがいい。一緒に楽しんでいきましょう」

ラディアーヌ様は微笑んだ。

おしゃべりと紅茶・お菓子を楽しんでいると、ラディアーヌ様は、

「そういえば、おにいさまとの仲は進んでいるのでしょうか? おにいさまのこと好意をもっているんでしょう?」

と言ってきた。

おにいさま、それはすなわち殿下のこと。

わたしの恋している人

恋という言葉が出てくるだけでも、恥ずかしくなり、心が熱くなってくる。

「好意はもっていますけど」

「好意はもっているということね。それは、恋まで進んでいる?」

「そうなのかもしれませんけど……」

「おにいさまに恋をしているのね」

「いや、恋だということとか、仲が進んでいるとかいるとかではなくて、わたしは殿下の為に尽くす存在です。それだけを思っているべきなんです」

とわたしは言ったのだけど、話している内にも、どんどん心が沸き立っていく。

「そんなことを言って、いつまでもおにいさまにアプローチしないと、誰かに取られてしまいますわ」

「そう言われましても」

「あなたに初めてお会いした時に、『フローラリンデさんも、もっとアプローチしてくださいね。おにいさまは今まで女性とお付き合いをしたことがありません。恋人になるなら、今がチャンスですよ』と言ったと思います」

「覚えています」

「おにいさまは、初めて会った時と比べても、どんどんあなたに心が傾き始めていると思います。これほど魅力的なのですし、おにいさまも、『フローラリンデさんは、一日ごとに素敵さが増してきています』と昨日もおっしゃっていました。ここで、あなたがアプローチをかければ、もうおにいさまはあなたのものです」

いたずらっぽく言うラディアーヌ様。
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