上 下
4 / 84

第四話 浮気に納得できないわたし

しおりを挟む
「きみはまだわたしのすることに反対するのかね」

ルアンソワ様の口調は厳しいものになってきていた。

「わたしは、イレーレナさんとの関係を両立させるということには賛成できません。わたしはルアンソワ様の婚約者なのです。イレーレナさんとは立場が違います。わたしのことを好きでいてくださるのであれば、イレーレナさんとは別れるべきです」

わたしはルアンソワ様との距離を縮めようと努力してきた。

その努力の成果かどうかはわからないが、ルアンソワ様も、わたしのことを好きだと言ってくれている。

ここでルアンソワ様とイレーレナさんの関係を認めてしまったら、今までの苦労はすべて無駄になってしまうだろう。

既に、わたしの目の前でキスをするようになっている二人だ。

わたしが二人の関係を認めた瞬間から、ルアンソワ様の心にある歯止めが失われて、心はイレーレナさん一色になってしまうに違いない。

それは避けたい。

避ける為には、イレーレナさんと別れてもらうしかない。

ないんだけど……。

ルアンソワ様の怒りは増してきている。

「何度きみとイレーレナさんの関係を両立させたいと言っても反対するのか?」

「反対します」

「きみのことが好きだと言っても?」

「反対します。好きだと言うのでしたら、わたしだけを選んでください」

こうなったら意地だ。

「ここまで言っても聞いてくれないのだな」

「わたしはルアンソワ様の婚約者なのです。このことについては、受け入れることはできません」

「もう一度だけ言う。わたしは、きみもイレーレナも大切に思っている。二人を同じくらい愛したい。この申し出を受け入れてほしい」

ルアンソワ様は、今までよりも少し柔らかい口調で言った。

どんどん口調が厳しくなる一方だったので、少し違和感を覚えた。

もし、ここで断ったら、次はいきなり厳しい話をされるのではないだろうか。

例えば、当分の間わたしには会わないとか、イレーレナさんとの関係はもっと深くしていくとか、というような話。

しかし、わたしは、

「どうおっしゃられても、わたしは受け入れるつもりはありません」

と言った。

どう言われようと、婚約者としての立場は貫き通すべきだと思ったからだ。

それに、わたしは今日この場で、二人に屈辱を与えられた。

こんな屈辱は二度と味わいたくない。

そう思っていると、

「それでは仕方がない」

とルアンソワ様は言う。

何を言うのだろうと思っていると、

「わたしルアンソワは、フローラリンデとの婚約を破棄する」

とルアンソワ様は冷たく言った。

わたしはそれを聞いた瞬間、またしてもめまいがしてきた。

先程から何度かめまいに襲われていたが、今度のはかなり厳しい。

ちょっとでも気を抜くと、倒れてしまいそうだ。

それにしても、反対し続けていたので厳しい言葉が来ることは予想してきたが、まさか『婚約を破棄する』という言葉が出てくるとは……。

婚約破棄、それはルアンソワ様との関係の終了を意味する。

しかし、にわかには信じられない話だ。

「それってどういう意味なんでしょうか?」

思わずわたしはルアンソワ様に聞いた。

聞いたところで、どうなるわけではないけれど。

「きみとの婚約を破棄するということだ」

「婚約を破棄する……」

「これできみとは、婚約者でも何でもなくなったということだ。きみもその方がいいだろう」

そう言うと、ルアンソワ様は冷たく笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

私と婚約を続けるか、王子を辞めるか、どちらを選びますか?~絶対に許さない子爵令嬢となんとか謝りたい第三王子とその周囲の話~

輝道 遊樺
恋愛
 希少な光属性魔法を使える子爵令嬢リリアナは、7歳の頃に王家の要請で渋々第三王子と婚約したが、学園の卒業パーティーでその第三王子から冤罪を理由に婚約破棄と国外追放を命じられる。  婚約破棄は嬉々として受け入れ国外追放を堂々と無視して屋敷で過ごしていたリリアナのところへ、元婚約者が先触れもなくやってきて、こう宣った。 「リリアナ、すまなかった! どうか婚約破棄を撤回させてほしい!」 ……覚悟はいいな? ※各章ごとに主役が変わります。連作短編集のような形で進みます。

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...