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第五十一話 二人きりになれない

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 伸七郎は、昨日俺と話をする前と違って、幼馴染の初林さんに告白をしようとしている。

 それまでは、幼馴染ということが逆に作用して、恋という段階には進めず、かといって、友達としての仲を構築していくこともできず、疎遠な関係になっていた。

 もちろん、恋という段階に進みたくないという気持ちもあるだろう。

 今までの幼馴染という関係は壊れてしまうと思われるからだ。

 しかし、それを乗り越えていこうとする姿は、尊敬できるものだ。

 よく決断できたと思う。

 俺のアドバイスが役に立ったかどうかはわからない。

 少しでも役に立ってくれればうれしいところだ。

 俺は、心から伸七郎を応援していた。

 伸七郎と初林さんの関係がうまくいき、俺の方も乃百合さんとうまくいけばいいのだけど……。

 この日、俺は結局、乃百合さんと二人きりになるチャンスはなかった。

 少しすつあせりの心はうまれていく。

 しかし、今のところほとんど話せていないのだから仕方がない。

 依然として、乃百合さんが席にいる時は、相変わらず友達がそばにいるので、話しかけることすら難しい。

 とはいっても、全く一人でいるという状態も少ない時間ではあるが、ないことはない。

 その時間を使って、乃百合さんに話をしにいくことも検討はしていた。

 乃百合さんがあいさつしてくるのを待っていたら、このまま話すらできなくなる可能性もある。

 前世でこの時期あいさつをされたからといって。今世でもあいさつをされるという自信はなかった。

 この状況を打開する必要があった。

 ただ一方で、話をしに行っていいものだろうか、という懸念もあった。

 俺は乃百合さんとほとんど話ができていない。

 そういった状況で、

「乃百合さん、ちょっと話がしたんです」

 と言って誘っていいものだろうか、という気持ちがあった。

 俺に好意を持っていなければ、困惑の表情を浮かべて、受け入れてくれない気もする。

 場合によっては嫌われてしまうかもしれない。

 そうなってしまったのでは、付き合うどころか、話さえもできなくなる。

 でも、そうはいっても、このままではどうにもならない。

 それにしても、どうしてまた及び腰になってしまうのだろう。

 俺が伸七郎を応援しているのと同時に、伸七郎も俺のことを応援してくれている。

 その応援に応えていきたい。

 乃百合さんだって、すぐには俺の想いは理解できないかもしれない。

 しかし、その想いを伝えていけば、少なくとも嫌になることはないはずだし、あきらめないでいれば、きっとその想いは通じるはず。

 俺はそう思い、心を立て直して、乃百合さんにアプローチをしていこうと思った。

 しかし……。

 休み時間になる度に、乃百合さんの状況を確認するのだが、乃百合さんが一人になりそうな時間はわずかしかなかった。

 そのわずかな時間を使って、一度、乃百合さんの席の方へ行った。

 それだけでも胸のドキドキは大きくなっていた。

 なんとか話しかけたい、と思っていたのだが……。

 半分もいかない内に、友達が乃百合さんに話しかけてきた。

 これは無理だ……。

 俺はやむを得ず、自分の席に戻ったのだが、残念な気持ちでいっぱいになった。

 ただ一方で。放課後になっても、乃百合さんのそばに近づくことはできない。

 俺は乃百合さんが友達と一緒に帰っていくのを、ただ呆然と眺めることしかできなかった……。
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