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第十話 前世の俺・前世でも寝取られてしまった

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 俺にはクリスマスイブの夜にるやのさんと一緒に過ごすという夢があった。

 そして、キスをしたいと思っていた。

 その後、二人の仲が盛り上がっていけば、二人だけの世界に入っていきたいとも思っていた。

 もちろん、それはできたらいいなあ、という話だった。

 二人だけの世界に入れなくても、キスができなくても、二人だけで過ごせればそれで俺は満足だった。

 しかし、俺はそういうこともかなわないという過酷な現実を味合わされることになる。



 十二月のクリスマスイブの前のこと。

 俺はるやのさんに呼び出された。

 彼女の方から呼び出すことなど今まではなかったので、俺とのことを改めて恋人どうしとしてきちんと認識してくれているんだなあ、と少しうれしい気持ちになっていた。

 そうであればよかったのだが……。

 校舎のはずれに呼び出された俺。

 そこは俺が彼女に告白をした思い出の場所。

 その場所で、るやのさんはイケメン先輩と唇と唇を重ね合わせていく。

「先輩の言う通りです。イケメン先輩に比べたら、島森くんは魅力などないに等しいです」

 お互いの唇を離した後、るやのさんはそう言った。

 前世でも俺はるやのさんに、魅力がないと言われていたのだ。

 るやのさんとすのなさんは同じようなタイプ。

 イケメン先輩も前世と今世で同じようなタイプ。

 その後、二人が俺に言っていた内容も、細かいところが少し違うだけで、今世と同じようなものだった。

 そして、二人の、俺に大きな打撃を与える言葉は今世も前世も一緒。

「俺はるやのが好きだ。るやのは俺のものだ。もう二人だけの世界にも入っている。あきらめることだな!」

「わたしは先輩のものです、先輩、好きです!」

 そして、キスを見せつけられるというシチュエーションも、今世と一緒だった。

 好きな女性の為に、一生懸命努力してきたことが、すべて無駄になってしまったのだ。

 無駄になってしまったどころか、心に大きな打撃を受けてしまった。

 俺は、今世でも前世でも、理想の女性だと思い、結婚したいとまで思っていた女性を、同じようなイケメンの男性に奪われてしまったのだ。

 そのことを思い出した時、俺は愕然とするしかなかった。

 どうして、俺は前世でこういう大きな失敗をしているのに、それを生かすことができなかったのだろう。

 今、前世のことを思い出すまで、俺は前世というものがあること自体わからなかった。

 るやのさんと付き合う前に、前世のことを思い出していたら、付き合うこと自体避けていたかもしれない。

 それができれば、こういう酷い目に合うことはなかったと思う。

 とはいっても、るやのさんに夢中になっていて、るやのさんのことばかり想っていた俺だ。

 るやのさんとすのなさんは違う女性。

 前世のことを思い出したとしても、違う女性だということで、今度は前世と違う展開になることを期待したと思う。

 しかし、今世も人生の歩み方は、前世とほとんど同じだった。

 そうしたところからすると、俺がいくら前世のことを思い出していても、すのなさんのようなタイプを理想の人と思っている限りは、心を動かさないようにするのは難しく、またすのなさんが俺に好意を持たないようにするのも難しいと思われるので、すのなさんにるやのさんと同じように告白され、同じように酷い目にあった可能性は強かったと思う。

 前世のことを思い出そうと、思い出すことがなかろうと、何も変わらない可能性は強かったということだ。

 結局のところ、俺がるやのさんやすのなさんを理想の女性だと思っていただけだったのだろうし、運命の人と思っていただけだったのだと思う。

 単なる俺の思い込みでしかなかったということだ。

 しかし、それでも二人にこうした形で失恋をするのはつらいもの。

 二人の気持ちがどうであれ、俺は前世ではるやのさん、今世ではすのなさんに本気で恋をしていた。

 俺の思い込みだったとしても、その想いを少しでいいから理解してもらいたかったと思う。

 いずれにしても、俺は失恋してしまった。

 前世でも、今世でも、恋人を同じようなイケメン先輩に奪われる仕打ちを受けて……。

 しかし、前世の俺の苦しみは、まだまだ続いて行く。

 いや、むしろそれは、これからの方が俺にとっては、過酷なものだったのかもしれない。
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