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第五話 心の支えを失う

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 俺はすのなさんとイケメン先輩が睦まじげに手をつないで去っていくのを、呆然と眺めていることしかできなかった。

 空は一面どんよりと曇っていて、冷たい風が吹いている。

 だんだん寒くなってきていた。

 このままでは雪も降ってきそうだ。

 しかし、歩く気力がない。

 俺はアニメとアニソンとギャルゲーが好きだ。

 ラブコメ的なアニメや、ギャルゲーだったら、こういう時、俺のことを慕っているかわいい女の子が、

「どうしたんですか?」

「大丈夫ですか?」

 と声をかけてくるものだ。

 場合によっては、

「あなたのこと、以前から好きだったんです」

 と言われることもあると思う。

 現実には難しいことなのかもしれないが、ここまでつらい思いをしてくると、ほんの少しだけそういうシチュエーションになってほしいと期待してしまう。

 いや、少しではない。

 大いに期待をしてしまう。

 俺はしばらくの間、そういう救いの手が現れるのを待った。

 しかし……。

 現実というものは厳しいものだ。

 待てども暮らせども、そういう女の子が現れる様子はない。

 雪が降ってきた。

 いつまでもこうしているわけにもいかない。

 俺はやむをえず、歩き始めた。



 とはいっても家にすぐ帰る気はしない。

 俺は今、両親と離れて生活していて、一人暮らしだ。

 俺が高校一年生の夏、父親の転勤が決まった。

 九月からの赴任。

 当初は単身赴任の予定だった。

 もともと両親の仲は良くない。

 俺の幼い頃から、会話もほとんどなく、冷たい雰囲気が続いていた。

 父親と性格が合わない、と母親は言っていた。

 最近では「家庭内別居」の状態が続いていた。

 その為、母親が父親と一緒に行動することはないと思っていた。

 しかし、母親は、父親の赴任先についていくことになった。

 そのことを母親が父親と俺に言った時、俺たちは驚いたものだった。

 俺も両親は一緒にいた方がいいと思ったし、これで仲が良くなる方向に行ってほしいと思ったので賛成はしたが、一方で、より一層仲が悪くなるのでは、という懸念ももっていた。

 父親とは相変わらず仲が良くないままだ。

 それでもここにいた時よりは会話もするようになっているようで、多少の改善はみられるようだ。

 多分だが、ここより自然に恵まれている転勤先で、心機一転、父親との仲を改善しようと思って、ついていったのではないかと思う。

 こうして俺は一人暮らしをし始めた。

 最初は、炊事、洗濯、そうじ、すべてに苦労をした。

 とにかく時間がかかる。

 両親がいる時は、手伝いぐらいはしていた。

 しかし、炊事については本格的にしたことがなかった。

 料理本を読んで、試行錯誤を続けた結果、最近になってようやくまともな料理が作れるようになってきた。

 洗濯や掃除も要領よくこなせるようになってきた。

 今までは一人暮らしが嫌だったと思ったことはない。

 しかし、こうして心に大きな打撃を受けて帰った時は、他に誰もいない家で一人悲しまなくてはならない。

 両親がいれば、少しは悲しみを癒すことができるのでは……。

 一瞬そう思ったのだが、両親がいたところで、失恋の苦しみを話すわけにはいかない。

 両親がいてもいなくても、それ自体は、自分でじっと耐えなければならない。

 しかし、両親がいれば、その冷たい雰囲気によって、その苦しみはさらに増幅されてしまう可能性だってある。

 一人で悲しんでいる方がまだましだと思うようになってきた。

 ただ一方で、幼馴染が隣の家にいてくれれば、と思う気持ちも湧き出してくる。

 ギャルゲーでも、俺は幼馴染キャラクターを攻略することが多かった。

 幼馴染というものにあこがれているのだ。

 もし幼馴染が隣の家、もしくは近くに住んでいれば、失恋して失意の俺を慰めてくれるに違いない。

 そして、これがきっかけで、ただの幼馴染だった二人が、恋仲になっていくということもあるだろう。

 いや、幼馴染であれば、その女の子一筋になったと思う。

 すのなさんに夢中になることもなかった。

 しかし、そんなことはないものねだりだ。

 現実的に、俺は一人。

 両親は、今、離れて住んでいる。

 幼馴染と呼べる女の子はいない。

 すのなさんは、小学校六年生からの知り合いなので、幼馴染ではないだろう。

 しかし、俺にとってはあこがれの存在だった。

 そして、付き合いだしてからは心の支えになっていた。

 俺は今日、そういう存在だった女性に振られてしまった。

 心の支えを失ってしまった俺。

 これほどの打撃はないだろう。

 救けてくれる人は誰もいない。

 ああ、もう歩くのがつらくなってきた……。
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