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第四十五話 夏森さんのお誘い

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その日の昼。

俺は夏森さんに、体育館の入り口のところに呼び出されていた。

今回で二度目。

なんだろうと思う。

俺達は、既にルインで毎日やり取りをしているし、教室でも話をしている。

ルインのやり取りは、彼女の一方的な「好き」の言葉の連続で、いつも返信に苦しんでいるところがあり、あまりやり取りがうまくいっているような気はしない。

ただ、教室では、他の人達に配慮しているのだろう。「好き」と言ってくることは、毎日一回か二回程度。

しかし、甘い声で「好き」とささやいてくるので、言われる度に俺も甘い気持ちになってしまう。今のところ回数は少ないので、俺としては助かっているが、これからそれが増えて来た場合、彼女のそういう魅力にどんどん染まっていく可能性はある。

いや、既に少しずつ彼女の魅力に染まっている。

この点は、悩ましいところ。

話はしていて楽しい。同級生の女の子と話すことが少なかった俺にとっては、それだけでもいい方向に行っていると思う。

幼い頃の話をしてくれるのもいい。これは幼馴染のいいところだと思う。

こうして親しくなってくると、昔のように、寿々子ちゃん、と名前で呼んでもいい気がしてくる。しかもちゃん付けで。

夏森さんの方は、俺のことを夢海ちゃんと呼びたがっているような気がする。

しかし、名前を呼び始めたら、夏森さんに心が傾いていく可能性があると思っている。

俺は、紗緒里ちゃんが好きだ。

彼女とは恋人どうしではまだないが、大切に想っている。そういう子がいるのだから、森浜さんに対して、友達以上の想いを持ってはいけないと思う。

今まで通り、彼女のことは、苗字で呼ぶべきだろう。

友達としては、仲良くしていきたいと思っている。

とはいうものの、毎日彼女に、「好き」と送付されたり言われているうちに、彼女への恋する心が少しずつ育ち初めている気がしている。

いずれにしても、いちいち呼び出さなくても、ルインでやり取りをする時に送信してもらうか、教室で話をしてくれれば、いいのではないかと思う。

俺は康一郎といつものように昼食を食べると、体育館に向かった。

彼女は何を言ってくるのだろうか。

もう一度、

「付き合ってください」

と言ってくるのだろうか。

夏森さんは美少女で魅力がある。

俺は夏森さんに告白された時も、全く心を動かされなったわけではない。

夏森さんは、俺のことを好きだという気持ちが強く伝わってくる。

その気持ちに応えたいという気持ちがないわけではなかった。

しかし、紗緒里ちゃん以外の女の子とは友達として接していこうと思っている。

思っているのだけど……。

夏森さんが、

「恋人として付き合いたい」

と言ってきても、今まで通り、

「友達として付き合いたい」

と言うしかないだろう。

でも、そう言って夏森さんとの恋の道を閉ざしていいものだろうか、という気持ちもある。

複雑な気分のまま、俺は歩く。

俺が体育館の入り口に到着すると、夏森さんはすでに来ていた。

あの時と同じだな、と思う。

「ごめん。待たせちゃったね」

「いいのよ。気にしないで」

「それで、話って?」

「その……、断られそうなので、話がしづらいんだけど」

彼女はもじもじしていた。

断られそうだと言っているということは、俺が思っていた通り、また俺に告白をするということだろうか。

いや、それとも全然別のことだろうか。

そう思っていると、

「ゴールデンウイーク、もし一緒に出かけられたら、と思うんだけど」

と彼女は言ってきた。

「出かける?」

「そう。わたしたち、友達じゃない。だから、お出かけぐらいしてもいいんじゃないか、と思って」

「そう言われても……」

「海春くんには、いつも一緒にいる子がいるのはもちろんわかっている。彼女が海春くんのことを好きなのもわかっている。でも、わたしも海春くんが好き。今は彼女に全然かなわないけど、少しでも距離は縮めていきたい」

真剣な表情の夏森さん。

「別にデートをしたいと言っているわけじゃない。遠出をしたいと言っているわけじゃない。お茶をするぐらいでいいの。このままじゃ、海春くんと親しくなることができない。そして、休みになったらルインぐらいしかできないから、せめてゴールデンウイークの中の一日ぐらいは一緒にいる時間を作りたい。一日ぐらい、わたしと一緒にいてもいいと思うんだけど。それも無理なのかなあ……」

恋人どうしではなく、友達どうしとして、一日をすごしたいと夏森さんは言っている。

友達どうしとしてならばいいのでは、と少し心が動きかける。

しかし……。

女の子と二人きりですごすということは、準備をそれなりにしなければならない。

いくら友達どうしだと言っても、異性として、意識をすることは避けられない。

出かけている間中、意識し続けていたら、心が休まることがないと思う。

それに、紗緒里ちゃんの気持ちも考えなければならない。

出かけること自体は、もしかしたら許してくれるのかもしれない。

しかし、俺のことを好きでたまらないのだから、心の中では嫌だと思うだろうし、悲しむに違いない。

そういう紗緒里ちゃんの姿を見るのはつらい。

「ごめん。それは無理だ」

俺はそう言った。

言うのはつらい。

夏森さんだって俺のことが好きなんだ。

一緒に出かけて、もっと仲良くなりたい、その気持ちはわからなくはない。

何と言っても幼馴染なんだし……。

「出かけるだけでもだめなの?」

「うん。やっぱりデートとは言わなくても、それに近いものになってしまうから」

「あの子のことを気にして?」

「そうだよ。俺、彼女以外の子と出かけることはできないと思っている」

「お茶をするくらいでも?」

「それも無理だと思う」

「お茶をするくらい、友達だったらみんなすることだと思うけど」

「そうは言ってもね」

「彼女だって、それくらい、いいって言ってくれると思う」

「でも二人きりの時間になるわけだし」

「だからわたし、一緒にお茶したいと思っているの」

「気持ちはわかるんだけど……」

「わたし、海春くんと少しでも親しくなりたいと思っている。ルインや教室で話をするだけじゃ、全然足りないの。出来ることなら、一日中、一緒にいたいくらいよ」

「夏森さん……」

「せめて、お茶くらいはさせて」

「そう言われても……」

夏森さんの熱い気持ちがますます伝わってくる。
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