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第二十話 紗緒里ちゃんと鈴乃ちゃん
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俺達は校門に入っていく。
グラウンドは、桜が満開できれいだ。
下駄箱に向かって歩いていると、
「夢海、おはよう!」
という康一郎の元気な声がする。
「おはよう。朝からすごくエネルギーがあるな」
「そうよ。今日一日、このエネルギーで乗り切っていくのよ」
「うらやましいな。俺もお前みたいになりたいよ」
「お前だって、気力さえあればエネルギーが湧いてくるよ」
「そんなものかな」
「そうだって。まずはこうして笑うことだ」
そう言うと、康一郎は笑い出した。
いつもながら豪快なやつだ。
「ところで一緒にいるかわいい子は……」
と康一郎が言った途端、
「また浮気して!」
と康一郎の隣にいた女の子が怒りだし、康一郎の頬をつねる。
康一郎の恋人、鈴乃ちゃんだ。康一郎にとっても、俺にとっても幼馴染の子。
いつも康一郎と一緒に登校し、下校している。
「痛いよ、鈴乃ちゃん」
「浮気するあなたがいけないんでしょ」
「う、浮気じゃない」
「浮気でしょ。わたし以外の子にかわいいって言ったんだから」
「かわいい女の子がいたら、かわいいって言って何がいけないっていうんだよ。そう言わない方が失礼だと思う」
「わたし以外の子にかわいいっていうこと自体がいけないって言っているの。わたし以外の子にかわいいとかきれいだっていっちゃいけないって、あれほど言っているのに」
「それくらいいいじゃないの」
「ダメです。わたしはあなたのことをこんなにも好きなのよ。あなたのことをいつも想っているのに、なんでそれに応えてくれないの」
「いや、俺だってお前のことが好きだ。愛しているよ」
朝から二人の世界に入っている。いいなあ。
「そう言うなら浮気はしないでよ」
ようやく鈴乃ちゃんは頬から手を離す。
「だから浮気じゃないって。なあ、夢海、そうだろう」
「夢海ちゃん、あなたこの子と知り合いなの?」
話がこちらに振られてきた。夫婦ゲンカの中に入ってしまった気分。
「うん。浮気じゃない。彼女はね……」
俺が紗緒里ちゃんを紹介しようとすると、
「わたしは夢海さんの婚約者です」
と紗緒里ちゃんが胸を張って言った。
「こ、婚約者?」
鈴乃ちゃんが驚きの声を上げる。
「わたしたちより若いと思うんだけど。その年で婚約者なの?」
「そうですよ。わたしたちは、将来を誓いあっているんです」
鈴乃ちゃんは俺の方を向き、
「夢海ちゃん、いつの間に婚約していたの? しかもこういうかわいい子と」
さっき、康一郎には、「かわいいって言わないで」と言っていたのに、自分では言っている。
やっぱり鈴乃ちゃんも紗緒里ちゃんのことをかわいいと思っているのだろう。
「い、いや、そうじゃなくて」
「結婚式には来てくださいね。お二人の結婚式の方が先になるかもしれませんけど。お二人の結婚式が先になっても後になっても、夢海さんと一緒に参加します」
そう言って微笑む紗緒里ちゃん。
「け、結婚式……」
顔を赤らめる康一郎と鈴乃ちゃん。
「いい子を婚約者にしたじゃない」
ニッコリと笑う鈴乃ちゃん。
「いや、鈴乃ちゃん。そうじゃなくて、彼女は俺のいとこなんだ」
「いとこ?」
「そう。昔、俺達一緒に遊んだりしていたじゃない」
俺がそう言うと、
「一緒に遊んだ……、紗緒里ちゃんなの?」
と鈴乃ちゃんは驚く。
「思い出してくれました? お久しぶりです。いとこの紗緒里です」
紗緒里ちゃんは頭を下げながら言う。
「ごめん。幼い頃からかわいいなあと思っていたけど、こんなに美少女になっているなんて……。すぐに思い出せなくてごめんなさい」
「いや、それはいいんです。それに、わたしのこと褒めすぎだと思います」
「そんなことはないわよ。こんなに素敵な子になっているんだもの。康一郎ちゃんが浮気するのもわかるし、夢海ちゃんが婚約したくなる気持ちもわかるわ」
「ありがとうございます。ただ、ごめんなさい。婚約したというのは言い過ぎでした。わたしの方はもう心に決めているんですが、おにいちゃんの方はまだまだ悩んでいるようです。おにいちゃんさえその気になれば、今日にでも婚約できるんですけど」
「こんないい子なのにね。わたしがもし男の子で、紗緒里ちゃんに婚約してほしいと言われたら、すぐにでも婚約しちゃうでしょうけど」
もし俺達が、いとこどうしでなければ悩むことも少なくなるだろう。
でもいとこどうしだから、楽しい思い出を積み重ねてこられたところもあるし、そもそも彼女に出会えなかったかもしれない。
そういうところはあると思う。
いずれにしても、彼女と婚約する為には、俺の想いをもっと強くしていく必要がある。
「俺もそう思うな」
と康一郎が言うと、
「また浮気的なことを言うんだから。他の女の子に恋愛的な興味は持たなくていいの。あなたはわたしがいるのよ!」
とまた鈴乃ちゃんは怒る。
昔からこういうところは厳しい。
「これからライバルも出てくると思う。でもあせっちゃダメよ。一途に想っていれば、きっと相思相愛になれるわよ」
鈴乃ちゃんは、紗緒里ちゃんに優しく言う。
「相思相愛になれるように、これからも想っていきます。わたしはおにいちゃんのものですから」
「その意気よ。婚約をして結婚できるように応援していくわ」
「そう言ってもらってうれしいです」
「じゃあ、結婚式には必ず呼んでね」
「もちろんです。お二人の結婚式にも呼んでくださいね」
「喜んで招待させてもらうわ。楽しみにしていてね」
笑い合う紗緒里ちゃんと鈴乃ちゃん。二人は、気が合っている様な気がする。
グラウンドは、桜が満開できれいだ。
下駄箱に向かって歩いていると、
「夢海、おはよう!」
という康一郎の元気な声がする。
「おはよう。朝からすごくエネルギーがあるな」
「そうよ。今日一日、このエネルギーで乗り切っていくのよ」
「うらやましいな。俺もお前みたいになりたいよ」
「お前だって、気力さえあればエネルギーが湧いてくるよ」
「そんなものかな」
「そうだって。まずはこうして笑うことだ」
そう言うと、康一郎は笑い出した。
いつもながら豪快なやつだ。
「ところで一緒にいるかわいい子は……」
と康一郎が言った途端、
「また浮気して!」
と康一郎の隣にいた女の子が怒りだし、康一郎の頬をつねる。
康一郎の恋人、鈴乃ちゃんだ。康一郎にとっても、俺にとっても幼馴染の子。
いつも康一郎と一緒に登校し、下校している。
「痛いよ、鈴乃ちゃん」
「浮気するあなたがいけないんでしょ」
「う、浮気じゃない」
「浮気でしょ。わたし以外の子にかわいいって言ったんだから」
「かわいい女の子がいたら、かわいいって言って何がいけないっていうんだよ。そう言わない方が失礼だと思う」
「わたし以外の子にかわいいっていうこと自体がいけないって言っているの。わたし以外の子にかわいいとかきれいだっていっちゃいけないって、あれほど言っているのに」
「それくらいいいじゃないの」
「ダメです。わたしはあなたのことをこんなにも好きなのよ。あなたのことをいつも想っているのに、なんでそれに応えてくれないの」
「いや、俺だってお前のことが好きだ。愛しているよ」
朝から二人の世界に入っている。いいなあ。
「そう言うなら浮気はしないでよ」
ようやく鈴乃ちゃんは頬から手を離す。
「だから浮気じゃないって。なあ、夢海、そうだろう」
「夢海ちゃん、あなたこの子と知り合いなの?」
話がこちらに振られてきた。夫婦ゲンカの中に入ってしまった気分。
「うん。浮気じゃない。彼女はね……」
俺が紗緒里ちゃんを紹介しようとすると、
「わたしは夢海さんの婚約者です」
と紗緒里ちゃんが胸を張って言った。
「こ、婚約者?」
鈴乃ちゃんが驚きの声を上げる。
「わたしたちより若いと思うんだけど。その年で婚約者なの?」
「そうですよ。わたしたちは、将来を誓いあっているんです」
鈴乃ちゃんは俺の方を向き、
「夢海ちゃん、いつの間に婚約していたの? しかもこういうかわいい子と」
さっき、康一郎には、「かわいいって言わないで」と言っていたのに、自分では言っている。
やっぱり鈴乃ちゃんも紗緒里ちゃんのことをかわいいと思っているのだろう。
「い、いや、そうじゃなくて」
「結婚式には来てくださいね。お二人の結婚式の方が先になるかもしれませんけど。お二人の結婚式が先になっても後になっても、夢海さんと一緒に参加します」
そう言って微笑む紗緒里ちゃん。
「け、結婚式……」
顔を赤らめる康一郎と鈴乃ちゃん。
「いい子を婚約者にしたじゃない」
ニッコリと笑う鈴乃ちゃん。
「いや、鈴乃ちゃん。そうじゃなくて、彼女は俺のいとこなんだ」
「いとこ?」
「そう。昔、俺達一緒に遊んだりしていたじゃない」
俺がそう言うと、
「一緒に遊んだ……、紗緒里ちゃんなの?」
と鈴乃ちゃんは驚く。
「思い出してくれました? お久しぶりです。いとこの紗緒里です」
紗緒里ちゃんは頭を下げながら言う。
「ごめん。幼い頃からかわいいなあと思っていたけど、こんなに美少女になっているなんて……。すぐに思い出せなくてごめんなさい」
「いや、それはいいんです。それに、わたしのこと褒めすぎだと思います」
「そんなことはないわよ。こんなに素敵な子になっているんだもの。康一郎ちゃんが浮気するのもわかるし、夢海ちゃんが婚約したくなる気持ちもわかるわ」
「ありがとうございます。ただ、ごめんなさい。婚約したというのは言い過ぎでした。わたしの方はもう心に決めているんですが、おにいちゃんの方はまだまだ悩んでいるようです。おにいちゃんさえその気になれば、今日にでも婚約できるんですけど」
「こんないい子なのにね。わたしがもし男の子で、紗緒里ちゃんに婚約してほしいと言われたら、すぐにでも婚約しちゃうでしょうけど」
もし俺達が、いとこどうしでなければ悩むことも少なくなるだろう。
でもいとこどうしだから、楽しい思い出を積み重ねてこられたところもあるし、そもそも彼女に出会えなかったかもしれない。
そういうところはあると思う。
いずれにしても、彼女と婚約する為には、俺の想いをもっと強くしていく必要がある。
「俺もそう思うな」
と康一郎が言うと、
「また浮気的なことを言うんだから。他の女の子に恋愛的な興味は持たなくていいの。あなたはわたしがいるのよ!」
とまた鈴乃ちゃんは怒る。
昔からこういうところは厳しい。
「これからライバルも出てくると思う。でもあせっちゃダメよ。一途に想っていれば、きっと相思相愛になれるわよ」
鈴乃ちゃんは、紗緒里ちゃんに優しく言う。
「相思相愛になれるように、これからも想っていきます。わたしはおにいちゃんのものですから」
「その意気よ。婚約をして結婚できるように応援していくわ」
「そう言ってもらってうれしいです」
「じゃあ、結婚式には必ず呼んでね」
「もちろんです。お二人の結婚式にも呼んでくださいね」
「喜んで招待させてもらうわ。楽しみにしていてね」
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