上 下
18 / 53

第十八話 紗緒里ちゃんとのやり取り

しおりを挟む
俺は今、ベッドの上にいる。

もう夜十二時近くになっていた。

まだ紗緒里ちゃんからのルインは来ていない。

ルインでのやり取りは、あまり気乗りはしないところがある。

紗緒里ちゃんの送ってくる内容によっては、返事をどう出すか、ということで悩んでしまいそうだからだ。

返事を出さなくてもいいよ、とは言ってくれたが、短文ではあっても出さないわけにはいかないだろう。

彼女は優しいから、出さなくても怒ったりはしないだろうし、普通に対応してくれるだろうが、心の中はつらくなるに違いない。

いや、俺が彼女の立場だったら、つらくて悲しい思いになるだろう。

「好き」という言葉を送って来られるのが、対応としては一番難しい。

とにかくどういう内容で送ってくるかどうかだ。

それにしても、ジュースを飲みながら待っているが、まだ送ってこない。

もう寝ちゃったのかなあ……。

でもあれだけ送ると言っていたんだから、もう少しだけ待っていよう。

そう思っていると、

「おにいちゃん、今日はありがとう。楽しかったです」

という言葉が送られてきた。

やっと送ってきてくれた。

なんだかホッとする。

こういう内容だったら、俺もすぐに返信ができる。

俺はすぐさま、

「こちらこそありがとう」

と返信した。

すると、彼女は、

「記念すべき初めてのやり取りですね。うれしいです」

と返信してきた。

そうだ。これは、紗緒里ちゃんとの初めてのやり取りだ。

二人にとっての記念日の一つ、ということになるのだろう。

このまま俺達の関係が進んでいけば、楽しい思い出の一つになっていくのだと思う。

続いて、

「明日七時三十分頃おにいちゃんの家に行きますけど」

「それでいいでしょうか」

と送ってきた。

そういえば、彼女が来る時間を決めていなかった。

七時三十分とすると、彼女の方は七時十五分には自分の家を出なければならない。彼女にとっては負担になると思う。大丈夫だろうか。

こういうことに対する返信ならできるし、逆にしなければならないだろう。

俺は、

「紗緒里ちゃん、その時間で大丈夫?」

「つらくない?」

と返信した。

彼女はそれに対し、

「おにいちゃん優しい」

「わたしは大丈夫ですよ」

と返信してくる。

彼女の好意に応えないわけにはいかないので。

「わかった。申し訳ないけどよろしくお願いします」

と返信した。

「では明日七時三十分頃伺います」

「よろしくお願いします」

彼女の返信。

ここまでのやり取りは普通にできた。これなら明日以降も、うまくやっていけるだろうと思ったのだが……。

「おにいちゃん、好きです。大好きです」

彼女がそう送信してきた。

「好き」という言葉。

こうして文字で書かれると、言われるのとはまた違ったものがある。

心が熱くなってきた。

しかし……。

今まで、「好き」という言葉を書かれてきたら、どう対応しようかいろいろ考えていたのだが、結論が出ないまま送信をされてしまった。

俺の方も「好き」と返信するのが一番いいとは思う。そうすれば、彼女は悲しむことはないし、喜んでくれるだろう。

俺は今日一日、彼女と過ごしてみて、彼女の笑顔はとても素敵だと思った。

そして、つらそうな顔とか悲しむ顔は見たくないと思った。

俺は彼女に恋しつつあるんだと思う。

でも、それでも、俺から「好き」と書くのは抵抗がある。

「好き」と書くのは、俺が紗緒里ちゃんのことを恋の対象として好きになった時だと思う。

そうでないと、紗緒里ちゃんに対しても失礼だ。

彼女の方は、この先はともかく、今は俺のことを本気で好きになってくれているようだから……。

ではどう返事するのがいいのだろうか。

いっそのこと返事をしない方がいいのだろうか。

でもそういうわけにはいかない。彼女に申し訳ない。

俺はしばし悩んだ後、

「その気持ちはありがたいと思う」

と返信した。

ごめん。紗緒里ちゃん。今俺が書ける精一杯の返事だ。

そう思っていると、

「おにいちゃん。今はその返事だけでうれしいです」

「おにいちゃんのこと。ますます好きになります」

と彼女が返信してきた。

紗緒里ちゃん、まだその想いに応えられなくてごめん。

改めて俺はそう思う。

「それではおやすみなさい」

「おやすみなさい」

こうして俺達の初めてのルインでのやり取りは終わった。

なんだか寂しい気持ちになる。

やり取りをするまでは、結構抵抗はあった。返信もできないのではないかと思った。

そういう点では、「好き」という言葉にも、悩んだとはいえ、何とか返信できてよかったと思っている。

しかし、彼女はこれからも「好き」という言葉を送信してくるだろう。そして、ルインだけではなく、会った時は必ず「好き」という気持ちを伝えてくるだろう。

明日からは、紗緒里ちゃんと一緒に登校する。

女の子と一緒に登校すること自体は、あこがれていたシチュエーションなので、うれしいし、楽しみにしている気持ちは大きい。

しかし、そこでも彼女は、俺に自分の想いを伝えてくるのだと思う。

紗緒里ちゃんの俺への熱い想い。その想いに応えていかなければいけないんだが……。

俺はジュースを飲み終えると、寝る為の仕度を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない

釧路太郎
青春
 俺の親友の鬼仏院右近は顔も良くて身長も高く実家も金持ちでおまけに性格も良い。  それに比べて俺は身長も普通で金もあるわけではなく、性格も良いとは言えない。  勉強も運動も何でも出来る鬼仏院右近は大学生になっても今までと変わらずモテているし、高校時代に比べても言い寄ってくる女の数は増えているのだ。  その言い寄ってくる女の中に俺が小学生の時からずっと好きな桜唯菜ちゃんもいるのだけれど、俺に気を使ってなのか鬼仏院右近は桜唯菜ちゃんとだけは付き合う事が無かったのだ。  鬼仏院右近と親友と言うだけで優しくしてくれる人も多くいるのだけれど、ちょっと話すだけで俺と距離をあける人間が多いのは俺の性格が悪いからだと鬼仏院右近はハッキリというのだ。そんな事を言う鬼仏院右近も性格が悪いと思うのだけれど、こいつは俺以外には優しく親切な態度を崩さない。  そんな中でもなぜか俺と話をしてくれる女性が二人いるのだけれど、鵜崎唯は重度の拗らせ女子でさすがの俺も付き合いを考えてしまうほどなのだ。だが、そんな鵜崎唯はおそらく世界で数少ない俺に好意を向けてくれている女性なのだ。俺はその気持ちに応えるつもりはないのだけれど、鵜崎唯以上に俺の事を好きになってくれる人なんていないという事は薄々感じてはいる。  俺と話をしてくれるもう一人の女性は髑髏沼愛華という女だ。こいつはなぜか俺が近くにいれば暴言を吐いてくるような女でそこまで嫌われるような事をしてしまったのかと反省してしまう事もあったのだけれど、その理由は誰が聞いても教えてくれることが無かった。  完璧超人の親友と俺の事を好きな拗らせ女子と俺の事を憎んでいる女性が近くにいるお陰で俺は恋愛が出来ないのだ。  恋愛が出来ないのは俺の性格に問題があるのではなく、こいつらがいつも近くにいるからなのだ。そう思うしかない。  俺に原因があるなんて思ってしまうと、今までの人生をすべて否定する事になってしまいかねないのだ。  いつか俺が唯菜ちゃんと付き合えるようになることを夢見ているのだが、大学生活も残りわずかとなっているし、来年からはいよいよ就職活動も始まってしまう。俺に残された時間は本当に残りわずかしかないのだ。 この作品は「小説家になろう」「ノベルアッププラス」「カクヨム」「ノベルピア」にも投稿しています。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜

青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。 彼には美少女の幼馴染がいる。 それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。 学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。 これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。 毎日更新します。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...