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第十五話 晩ご飯を作ってあげたい

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俺は紗緒里ちゃんと話を続けていた。

「まあ時々だったら電話してもいいよ」

「ありがとうございます。おにいちゃん、優しい。好きです」

この笑顔は素敵だ。

「今の内は、なるべくルインだけにします。でもその内、毎日電話できるようにしたいですね。その為にも、おにいちゃんがわたしに恋してもらえるよう、一生懸命努力しますね」

俺は彼女のこの情熱に応えていくことはできるのだろうか。

「それと、なるべく一緒に帰れるといいですね。一緒に帰るのは嫌ですか?」

「別に嫌じゃないんだけど。うまく時間が合わない時があるかもしれないじゃない。俺の方は待つのは苦じゃないけど、紗緒里ちゃんはつらいかもしれないと思って」

女の子と一緒に帰るといいうシチュエーション。

小学校の頃も女の子と一緒に下校した経験はなかったし、中学校以降、毎日一人で帰っていて、つらさや空しさを感じていた俺にとっては、あこがれていたことの一つだ。

ギャルゲーでもそういうシチュエーションが出てくると、うれしかった。

今日も、彼女との関係をどうするか悩みながら、一方ではうれしい気持ちになっていた。

「おにいちゃんと帰れるんだったら、何時間でも待てますよ」

「そこまでになることはないと思うけど」

「多分一時間ぐらいですよね。時間が合わなかったとしても待つのは。それなら全然待つ時間に入りませんから」

「それならいいんだけど」

「じゃあいいですね」

「うん。いいだろう」

これで、俺達は毎日一緒に帰ることになった。

あこがれていたことなので、うれしいことは間違いない。

恋人どうしでなくても、仲の良い男女だったら、一緒に毎日下校するということはあると思うので、心理的にもそれほど抵抗はない。

「そう言えば、おにいちゃん、部活は何に入っているんですか?」

「部活?」

「そうです」

「アニメ・漫画部だな」

「アニメ・漫画部なんですか」

「アニメ・漫画部とは言っても、アニメ好きの子や漫画好きの子だけじゃなくて、映画好きの子やゲームが好きな子や声優好きの子もいるよ」

「うわあ、いいですね」

「紗緒里ちゃんは、今でもアニメや声優やゲームに興味あるの?」

「もちろんです。今でも大好きですよ」

「それはうれしいね。そういえば、この家に来た時もアニメを見たり、ゲームをしたりしていたよね」

「なつかしいですね。よく覚えています。楽しい思い出です」

「俺にとっても楽しい思い出だよ」

「趣味もおにいちゃんと同じ。これはますます婚約するしかないですね」

そう言って、いたずらっぽく笑う紗緒里ちゃん。

紗緒里ちゃんとの趣味が今でも同じなのは、俺としてもうれしい。いろいろ楽しく話ができそうだ。

婚約となると、心理的な抵抗はまだまだ強いけど。

「わたし、アニメ・漫画部に入ろうかな。そうすれば、おにいちゃんといる時間がもっと長くなるし」

「来てくれること自体はうれしいし、歓迎するよ」

「そう言ってもらえるとうれしいです。わたし、おにいちゃんの為に料理がもっとうまくなりたいんで、今日おにいちゃんと話をするまでは、料理部もいいかな、と思っていました」

「気持ちはうれしい」

「でも、料理は自分の家でも練習はできると思いますし、おにいちゃんとの時間を大切にしたいと思いますので」

「まあまだ少し時間があるから、よく考えた方がいい。とにかく一番いいと思うところに行った方がいいよ」

「ありがとうございます。でもおにいちゃんと同じ部に行く方向にしたいと思いますね」

そう言って彼女は笑う。

この紗緒里ちゃんに、なにか俺からしてあげたいなあ、という気持ちが湧いてきた。

いとことか恋人ということは、とりあえず置いといて、この笑顔の為、なにか彼女の為に尽くしたい気持ちになってくる。

それだけ彼女の笑顔は魅力的だ。

そうだ。彼女の為に料理を作ってあげよう。少しは、彼女も喜んでくれそうな気がする。

「紗緒里ちゃん」

「なんでしょう」

「さっき、俺の為に土曜日、晩ご飯を作ってくれると言ったけど、その日は俺が紗緒里ちゃんの為に作ってあげたいんだけど」

驚いた表情の紗緒里ちゃん。

「そんな。わたしが作るって言ったのに。申し訳ないですよ」

「いいって。俺も、紗緒里ちゃんにおんぶにだっこじゃいけないから」

「もう。そう言われたら、ますますおにいちゃんのことが好きになっちゃうじゃないですか」

「OKしてくれる?」

「わたしはもっとおにいちゃんのお役にたたなきゃいけないので、おにいちゃんにはくつろいでほしいんですけど。おにいちゃんが作ったら、疲れちゃうと思います」

心配そうに言う紗緒里ちゃん。

「俺のことは心配しないでいいから」

「おにいちゃんがそう言うなら……。わかりました。いいですよ」

「じゃあ楽しみにしていてね」

俺は彼女がOKしてくれてホッとした。

「期待はしていますけど、無理はしないでくださいね」

「ありがとう」

「でも買い物には、付き合わせてください。土曜日の午後に行くんですよね」

「そうだけど。でも、それは紗緒里ちゃんに申し訳ない。俺一人で行こうと思っている」

「そんなこと言わないでください。少しはわたしにも手伝わせてください。いいですよね。」

「まあ、いいけど。紗緒里ちゃんさえよければ」

買い物は、一人で行くつもりだった。しかし、彼女の好意は、受け取っておきたいと思う。
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