拝啓、国王様。勇者は殺されました。~正直勇者、辺境に逃亡中~

クラプト/松浜神ヰ

文字の大きさ
上 下
4 / 6

第4話 「私、キス魔っぽいのになっちゃったかも」

しおりを挟む
 隣に立つ課長に視線を向ける。  
 課長は私の視線を受けて、「佐々木くんに僕の姿は見えてないよ」と言った。そして証拠を見せるように自分のデスクの引き出しを開ける江里菜の傍に行き、 課長は江里菜の肩を叩き、「佐々木くん、久しぶり」と声を掛けた。 
 江里菜は全く無反応に引き出しの中を漁っていた。 

「あった! やっぱりここだったんだ」  
 江里菜が独り言のように言った。 

「じゃあ、帰ります。お疲れ様でした」  
 江里菜がドアに向かって歩き出した。 

「あの、佐々木さん」 
「何ですか?」  
 江里菜が振り向いた。 

「見えない?」  
 視線を課長の方に向けた。  
 課長は笑顔を浮かべて江里菜の前に立ち、バンザイをしたり、ジャンプしながら、「やあ、佐々木くん、僕の事見える?」と聞いた。 

「何を?」  
 江里菜がきょとんとした表情を浮かべた。 

「佐々木さん、本当に見えないの?」 
「だから何をです?」  
 江里菜が眉を寄せる。 

「えーと、その課長……」 
「課長?」 
「いえ、あの、くも。佐々木さんの肩に小さな蜘蛛が」
「えーっ、ヤダー!」  
 江里菜が凄い勢いで肩を払った。 

「ねえ、取れました? 取れました?」
「は、はい。取れました」 
「びっくりした。じゃあお先に」  

 江里菜がオフィスを出て行った。  

 課長がこっちを向いた。 

「ね、島本くんにしか僕は見えないんだよ」 
「なんでですか?」 
「それは僕にもわからない。残念ながら娘も、両親も兄弟も僕に気づかなかったんだ。 もしかして島本くん、霊感が強いんじゃない? 時々、僕みたいな死んじゃった人見える事があったりしない?」 
「しませんよ。死んじゃった人が見えたのは課長が初めてです」 
「うーん、そうか」  
 課長がポリポリと頭をかく。 

「後はあれかな」  
 課長が小声で言った。 

「あれ?」 
「いや、何でもない」 
「何です? 気になります」 
「いや、いいんだ」 
「教えて下さい」 
「だから、何でもないって。そんな事より早く仕事を終わらせなさい。今はあまり残業ができないだろ」  
 急に課長が上司の表情をした。 
 渋々パソコンに向かった。  
 課長は自分の席だった所に座り、腕を組んで何かを考えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

念動力ON!〜スキル授与の列に並び直したらスキル2個貰えた〜

ばふぉりん
ファンタジー
 こんなスキルあったらなぁ〜?  あれ?このスキルって・・・えい〜できた  スキル授与の列で一つのスキルをもらったけど、列はまだ長いのでさいしょのすきるで後方の列に並び直したらそのまま・・・もう一個もらっちゃったよ。  いいの?

神色の魔法使い

門永直樹
ファンタジー
かって『神色の魔法使い』と呼ばれた男がいた。 王国の専属治療師でもあり、王国師団『ヴォルテックス』の第一師団長でもあった彼だが、ある出来事を境に王国から姿を消した。 彼の名前はクレイグ。 相棒であるユリと、二人を取り巻く人々の冒険譚。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...