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第二十七話

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楓は1人にすると、やっぱりナンパとかされてしまうから、私としては安心できない。
ちょっとした用事で楓から離れている隙を狙ってなのか、またしても女の子たちが楓に言い寄っていた。
話の内容はよくわからない。
しかし、放置していいレベルではないのは確かだ。
私は、問答無用で楓の腕を掴んで、そのまま歩き出していた。
たぶんムキになっていたんだと思う。

「香奈姉ちゃん?」
「………」

何か言いたげなのは、顔を見れば一目瞭然だ。
だけど今回に限っては、なにも聞きたくないっていう気持ちが一番強い。
少しは察しなさいよね。バカ。
女の子たちも、半ば呆然となっていたから彼女付きとは想わなかったんだろう。

「あの子たち──なかなか可愛かったね。どっちが好みだった?」

私は、あえて意地悪な質問をしてみる。
こんな質問をしたら、どう答えても私が怒ってしまうのは確実だ。

「う~ん……。どっちって言われてもなぁ。丁重に断ろうと思ってたし。なんとも……」
「そっか」

まさかそんな返答をしてくるだなんて思わなかったので、私としても怒りようがない。
でも女の子たちの特徴くらいは、把握してほしかったな。
なにかの参考になってたかもしれないのに……。

「でも多少は関心を持たないとダメだよ。相手に失礼だと思うから」
「うん。わかってるんだけど……」

楓は、指で頬をぽりぽりと掻きながらそう言う。
関心はあったんだ。
それはそれでヤキモチを妬いてみたり。

「関心はあったんだ……。なるほどね」
「そこまで深い意味はないよ。ちょっとだけ。ちょっとだけだから。いきなり話しかけられたら、誰だってそうする反応だと思うし」
「ふ~ん」

私は、わざとツーンとした態度で楓を見る。
本音を探るためにそうしたんだけど、段々と意地悪になってる私がなんとも──
私は楓にどんな反応を期待してるんだろう。
そうは思ったが、あんまり楓を困らせるのはよくない。

「あんまり鼻の下を伸ばさないようにしないとね。私がいるんだから──」
「うん。そこは気をつけるよ」
「ホントに。気をつけなさいよね」

そう言いながらも、私は楓の腕にしがみつく。
意地悪をするのも楓に悪いと思ったので、これ以上はやめておこう。

楓との仲は、極めて良好だと思う。
スキンシップの回数こそ最近は減ったけど、必ずしもそれが仲を良くするものではないのは、他のカップルを見て確認済みだ。

「あの……。香奈姉ちゃん。今日はその…しないよね?」

楓は、なにやら緊張した様子でそう訊いてくる。
言ってる意味は理解しているつもりだ。
私は、当然だと言わんばかりに楓に言った。

「するに決まっているじゃない。私と弟くんの仲なんだから、そのくらいはわかってもらわないと──」
「やっぱりするんだ……。いつもの事だから、いいんだけどさ……」
「私を喜ばせたいのなら、やってくれないとダメだよ」
「なるべくなら、やりたくないんだけどな……」
「弟くんに拒否権はないよ。なにしろ一緒に入るんだから、慣れてもらわないとね」
「女の子の裸を見ること自体、慣れないんだけど……」
「大丈夫だよ。こんなこと、私か花音くらいしかやらないから」

それを自慢げに言うのもどうだろうっていう話なんだけど。
楓に見られてしまうことくらい平気だ。
それにいつもどおり一緒のお風呂だから、当たり前に見られてしまうことくらいは覚悟している。

「花音もするんだ……」

楓は、微妙な表情を浮かべる。
私は、楓にもわかりやすいくらいの不満げな表情で言う。

「花音だって女の子だよ。そのくらいはするでしょ」
「だからって、こんなことを僕にお願いするのは……。さすがに他の人には──」
「うん。弟くんだからこそお願いできるし、そうしてるんだよ」
「うぅ……。そんなこと言われたら……。よけいに断りにくいじゃないか」
「大丈夫だよ。隆一さんには内緒にしてあるから──」
「それは……。ちょっと大丈夫じゃないかも……」

楓にとって隆一さんは、『兄』というよりか『タイプの異なる他人』なんだろう。
隆一さん自身も、私と楓の動向がかなり気になっているみたいだから。
やっぱり私と仲良くしているのは、楓にとっては良いことばかりではないということだろうか。
──だって。しょうがないじゃない。
私は、楓と一緒にいるのがなにより楽しみなんだから。
他の人と一緒にいたって気を遣うだけだし。

「あんまり気にしない方がいいかもしれないよ。私なんかは、興味もないからほぼ無視しているし」
「無視って……。それは兄貴に悪い気が──」
「だって特に用件もないし。気にする方がおかしいでしょ」
「それは、そうかもしれないけど……」

楓には、隆一さんの気持ちがわかっているのかもしれない。
それでも私は、楓の方に気持ちが向いている。
頼りない印象なのかもしれないが、やればできる人なのは楓も変わらないのだ。

「それに隆一さんにはもう……。他に好きな人がいると思うから、私なんていたって邪魔になるだけだよ」
「そうなの?」
「もしかして、気づかなかったとか? そんなことはないよね?」
「全然気づかなかったんだけど……。それでも香奈姉ちゃんを求めてるのって──。兄貴の独占欲とか?」
「隆一さんは、ただ単にバンドメンバーを求めているだけだよ」
「バンドメンバーって……。香奈姉ちゃんの担当はボーカルだよね?」

楓は、不思議そうな表情でそう訊いてくる。
やっぱり知らないんだな。
それなら楓には事実を知ってもらおう。

「それが違うんだな」
「違うの? それなら何で……?」
「私って、一応ギターも担当してるんだよ。だから隆一さんは、ボーカルとしての私じゃなくて、ギターを弾いてくれる人として私を求めてるんだよ」
「そうなんだ。なんか意外かも──」
「彼にとっては、私がボーカルをやってるのは面白くないはずだよ」
「なんで? 香奈姉ちゃんの歌声は、とても良いのに──」
「隆一さんのバンドは、あくまでも隆一さん自身が前に出るっていう自己満なバンドなんだ。まわりのことなんてあんまり見てないっていうか…ね。そんなイメージを抱いてしまってさ。私には合わないと思ったから、誘いを断ったのよ」

理由を言ったらそれだけではないんだけど。
端的に言えば、それだけでもいいはずだ。

「なるほど。そんな事情があったんだ……」
「まぁ、弟くんが気にすることじゃないよ。そんなことよりも、今日もよろしくね」
「やっぱりしなきゃダメなの?」

楓は、なぜか恥ずかしそうにもじもじとしている。
見られてしまうのが、そんなに恥ずかしいんだろうか。
お風呂に入る時は絶対に一緒だから、見られてしまうのはお互い様だと思うんだけど……。

「そんなの当たり前じゃない。花音だって望んでいることなんだから──」
「花音もなのか……」

なにやら、浮かない表情の楓。
花音が一緒だとまずいことでもあるんだろうか?

「花音が一緒だとやっぱり気まずかったりするの?」
「それはまぁ……。花音だって色々と思うところもあるだろうし……」
「そんなの弟くんらしくないよ。もっと積極的にならないと女の子に嫌われちゃうぞ」

そうは言うものの、それは私限定なんだけど。
でも楓もなんだかんだ言って、しっかりとやることはやってくれるから文句はない。
あとは私の気持ちが一番大事なだけだ。
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