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第二十七話

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「弟くんは、奈緒ちゃんのことをどう思っているの?」
「えっ」

香奈姉ちゃんからいきなりそんなことを訊かれて、僕は唖然となってしまう。
あまりにもいきなりすぎて、なんて返答したらいいのかわからないくらいだ。

「弟くんって、奈緒ちゃんのことを目で追っているよね? それは、なんでなのかなって思って」
「そんなことは……。僕はただ──」
「やっぱり、気になったりするの?」
「えっと……」

そんなことを訊かれるだなんて思わなかっただけに、本当に困る。
それを言わせれば、香奈姉ちゃんのことだって目で追っていたりするんだけど……。
奈緒さんにもそんなことをしていたのか……。
ただなんとなく…だと、香奈姉ちゃんは納得しないだろうし──なんて答えればいいのやら。

「どうなの? 弟くん」
「奈緒さんの雰囲気…かなぁ。引き込まれてしまうっていうか──」
「そっか。雰囲気か。──なるほどね」

香奈姉ちゃんは、いつになく気難しい表情になる。
こんな風に見えて、結構考えていたりするんだよなぁ。
香奈姉ちゃんって──
今は、なにを考えているんだろう。

「やっぱり、弟くんも奈緒ちゃんみたいなクールな女の子の方が好きだったりするの?」
「そんなことはないと思うけど……。なんとなく…かな」

そういえば、前にもこんなことを訊かれたような気がするな。
香奈姉ちゃんはそんなに奈緒さんのことが気になるんだろうか。
奈緒さんと香奈姉ちゃんは、仲が良いなとは思っているが。
でも、香奈姉ちゃんにクールな印象なんて似合わない。
みんなの前では礼儀正しくて人に気を遣う女の子なんだから、むしろそのままの方がいい。

「そう。それじゃ、美沙ちゃんは?」
「えっ。美沙先輩? なんでそこで美沙先輩がでてくるの? 今は関係ないような──」
「なに言ってるのよ。弟くんのことは、バンドメンバーみんなが狙ってるんだから、無関係なわけないじゃない! それで、どうなの? 弟くんが好みだっていう女の子はいるの?」
「いや……。いたらいたで大変なことになりそうで……。それに、香奈姉ちゃん以外の女の子を好きになったら、浮気になるんじゃ……」
「それはまぁ……。そうなんだけど……。そこは、ほら。バレないように…とか──」
「香奈姉ちゃんがそれを言っちゃうの?」

なんというか。
頭が痛くなってきた。
元々、僕には本命の女の子と付き合って、それとは別の女の子と付き合うっていう器用なことはできない。
そもそもの話、そういう発想が思いつかないのだ。
だからこそ、香奈姉ちゃんの言ってることが理解できない。

「まぁ、弟くんにそんなことはできないっていう時点で、安心はしてるんだけど。でも、デートくらいはしてるんでしょ?」
「ん~。そうだなぁ。デートとまではいかなくても、買い物くらいはしてるよ」
「頼まれたら『嫌』って言えないもんね。弟くんは──」
「それを言われちゃ……。まぁ、そのとおりなんだけど……」

そこはなんとなく否定できない。
香奈姉ちゃんって、意外と痛いところをついてくるな。
でも、なんとなく憎めないんだよ。

「そっかそっか。それを聞いて安心したよ。それじゃ、そういうわけだからさ。これから私とデートをしようよ」
「香奈姉ちゃんとデート? どこへ行くの?」
「それは、ほら。──流れで決めようかなって思ってるんだ」
「流れ…か」
「どうかな?」

香奈姉ちゃんは、屈託のない笑顔を浮かべてそう言ってくる。
そんな笑顔を見せられたら、断るなんていう選択肢がなくなってしまうじゃないか。
──ずるいよ。香奈姉ちゃん。

「いいよ。行ってみようか」
「うん!」

香奈姉ちゃんのその表情には、嬉しさが見えていた。
やっぱり、香奈姉ちゃんには敵わないな。
とりあえず、なにか買い物をするかもしれないから、財布くらいは持っていこう。

外に出た時の香奈姉ちゃんって、本当に礼儀正しくてしっかりしている。
いつもそんな風なら、僕も安心できるんだけど……。

「どこに行こうか?」
「ん~。適当に歩いてきたけど。やっぱりブティックが無難なのかな?」

とりあえず、いつものショッピングモールを歩いていたが、やはりというか行き先については決まっていなかった。
デートというのは行き先が決まっていて初めてデートなんだということを改めて実感できる。
香奈姉ちゃんの姿を見て、遠巻きの男の人たちがこちらを見て『チッ』と舌打ちをしているのを確認できた。
僕と香奈姉ちゃんってそんなに不釣り合いなんだろうか。
そんなこととはお構いなしに、香奈姉ちゃんは僕の腕にしがみついてくる。

「いいんじゃないかな。弟くんに洋服を選んでもらうのも、ちょっと楽しみかも──」
「自分では選ばないんだ……」
「そんなの当たり前じゃない。私の楽しみが減っちゃう」

香奈姉ちゃんにとっての楽しみっていうのが、ちょっと理解できない。
洋服を選ぶだけなんだけど……。

「そっか。それなら、行ってみようか」
「うん!」

こうしてみると、香奈姉ちゃんが年下のようにも思えてきちゃうな。
街中を歩いていても、香奈姉ちゃんは僕の隣をしっかりとキープしていた。
それこそ、他の女の子を寄せ付けないかのように──

香奈姉ちゃんがいつも立ち寄っているブティックにたどり着くと、香奈姉ちゃんはなぜか恥ずかしそうに言ってくる。

「──さて。弟くんのセンスを見せてもらおうかな」
「いきなりなの?」
「このお店は女の子もののお洋服が多いから、なにを選ぶのかなって──。ちょっと楽しみかも」

つまりは香奈姉ちゃん好みの服装を僕に選んでほしいってことか。
しかも拒否権がないのか、若い女性の店員さんたちも遠巻きにして見ている。

「僕に拒否権はないんだね?」
「うん。ない」

そうはっきり言われてしまうと、よけいに緊張してしまうんだけど……。
これはもう、諦めるしかなさそうだ。

「わかったよ。香奈姉ちゃんに似合いそうなのを持ってくるよ」
「うん! 待ってるよ」

香奈姉ちゃんは、まったく迷いなく笑顔でそう言った。
僕だから、信用されてるんだろうか。
とりあえず、香奈姉ちゃんに似合いそうな洋服を探そう。
僕は、女の人向けの洋服売り場に向かっていった。
洋服といっても、いくらでもあるんだろうけど、組み合わせは大事だ。
もしかして、下着も含まれるんだろうか?
いや。さすがにそれはないだろう。
女の子の下着を男の子に選ばせるなんて話は聞いたことがないし。
下着は論外だ。
考えるのはやめておこう。
そんなこんなで、香奈姉ちゃんに似合いそうな洋服を何点か見つけたので持っていってみよう。
センスがいいかどうかは別として、清楚な印象のものを選んでみたから、きっと大丈夫だ。
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