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第二十五話
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最近なのかどうかはわからないけど、男子校では香奈姉ちゃんの噂がかなりの頻度で流れている。
例えば、香奈姉ちゃんには僕以外にも付き合っている男がいるとか。
他にもあるらしいが、一番流れている噂はそれだ。
「なぁ、周防」
「ん? どうしたの?」
「西田先輩って、今付き合っている男の人っているのか?」
まわりの男子たちの噂を聞いてなのか、慎吾がそんなことを聞いてきた。
ただでさえ、香奈姉ちゃんは普通に見ても、可愛いくらいの美少女だ。
1日でも放っておいたら、必ず男子から告白されたり、ナンパされたりする。
最近では僕がいるから、そんなことは少しは減ったが……。
とにかく。
なんのことかわからない僕には、まさに寝耳に水だ。
「いや。いないと思うけど……」
僕は、香奈姉ちゃんのことを思いながらそう答えた。
断言はできない。
香奈姉ちゃんの交友関係については、僕にもわからないから。
「そうだよなぁ。西田先輩に限って、付き合ってる人はいないよなぁ。まぁ、噂はともかくとして、現実ってそんなもんだよな」
「うん。そんなものだよ」
慎吾の言葉に、僕は同調する。
とりあえず、そう言っておけば大丈夫だろう。色んな意味で──
僕と付き合っているだなんていう話になったら、それはそれで大変だから。
今の関係性でさえ、ギリギリのところで容認されているというのに。
「周防のことは、なんて思っているんだろうな?」
「僕にはわからないけど、『弟』みたいなものなんじゃないかな」
「『弟』?」
「うん。僕のことをよく『弟くん』って呼んでるし、そうなのかなって──」
「彼氏とは思っていないってことか?」
「どうなんだろ……。本人から聞いたことはないから、よくわからないな」
「そうか」
慎吾は、神妙な表情になる。
その表情はどこか訝しげだ。きっと疑っているんだろうな。
まぁ、放課後に学校にまでやってきて、一緒に帰るということを毎日のようにやっていれば、そんな評価になるのは当然だろう。
香奈姉ちゃんとは、内緒で付き合っているのだから、まわりにバレるわけにはいかない。
しかし女子校の文化祭にも誘われているので、バレるのは時間の問題だと思うんだけどね。
どう根回ししているのか知らないけど、バレないのだから不思議だ。
香奈姉ちゃんの通っている女子校って、意外と可愛い子が多いから、香奈姉ちゃんからよくヤキモチを妬かれてしまうんだよな。
僕自身、他の女の子に興味があるわけじゃないから、そこまでうるさく言われたことはないけど。
「俺的には、西田先輩は周防のことが好きなんじゃないかと思うんだが……。気のせいなのか?」
「僕の口からはなんとも──」
「まぁ、そうだよな。西田先輩って、基本的には誰にでも優しいから、1人にだけに好意を向けたりはしないよな」
慎吾は、そう言って明確な答えをはぐらかす。
どうやら彼にはわかっているみたいだ。
わかっていて、敢えて言わないようにしているんだろう。
慎吾なりに気を遣っている。
彼の本命が香奈姉ちゃんではないのはわかっているが、なんとなく申し訳ない気持ちになるのは、どうしようもないんだろうか。
「香奈姉ちゃんに限って、そんなことはないかと思うけど……」
これも断言はできない。
正直なところ、香奈姉ちゃんの気持ちだけは、僕にもよくわからない。
「まぁ、ともかく。一つだけ言えるのは、俺が告白しても断られるのが関の山だっていうのは確かってことだな。残念ながら」
「………」
これに対して僕はなにも言えなかった。
慎吾が言うのだから、それは間違いないのはたしかだけど。
香奈姉ちゃんの気持ちは、おそらく簡単には変わらない。
どこで僕のことを好きになる気持ちが芽生えたのか、まったくの謎だ。
そもそも一緒にお風呂に入るだなんて、幼い頃には何回かあったけど、お互いに羞恥心が芽生えてしまって中学生くらいになってからやめたような。
「──さて。次の授業は体育だな。準備しないとな」
「そうだね」
僕は、体操服を着替える準備をする。
別に慎吾に話しかけられたから用意したっていうわけじゃない。
ちゃんと準備をしておいたものだ。
そこのところは、補足しておく。
本来なら更衣室で着替えるものだが、男子校には女子がいないため、教室で着替えることも許されているのだ。
女子校もだいたいは同じじゃないかと思う。
僕は着ている制服を脱いで、体操服に着替え始めた。
放課後。
今日も香奈姉ちゃんたちが校門前で僕のことを待つんだろうな。
それがもう日常風景になってしまっているのが、なんとも言えないわけだが……。
「それじゃ、周防。今日も、バイトよろしくな」
「うん。よろしく」
僕は、そう言って先に行く慎吾を見送る。
慎吾は、バイトの前に部活があるからだ。
バイトのことはきちんと伝えてあるから、どちらにも支障をきたすことはない。
僕の場合も、一旦家に帰って準備をしてから向かうのだが……。
学校を後にし、校門前まで行くと、やはりというべきか香奈姉ちゃんが立っていた。ちなみに、今日は1人だ。
これも定番だけど、まわりには男子生徒たちがいる。
香奈姉ちゃんは、こちらに気がつくと嬉しそうに笑顔を見せて近づいてきた。
「やぁ、弟くん。待ってたよ。一緒に帰ろう」
その可愛い制服姿は、もう見慣れてるというのに、ついつい視線を逸らしたくなる。
元から短めのスカートとか、そこから覗く脚とか。
色んな意味で香奈姉ちゃんは、完璧すぎるのだ。
「うん」
僕は、笑顔を見せて頷いていた。
香奈姉ちゃんは、迷うことなく僕の手を握ってきて、そのまま走りだす。それこそ、駆け抜けるかのように──
そんな勢いで走りだしたら、スカートがめくれて中の下着が見えてしまうよ。
香奈姉ちゃん自身は、まったくと言っていいほど気にならないのか、走り続けている。
やはりと言うべきか、スカートは風でめくれてしまい、下着がチラリと見えてしまった。色は──言わない方がいいだろう。この際だから、見てないフリをしておこう。
途中で走るのをやめると一旦立ち止まり、何を思ったのか左右を確認しだす。
誰もいないことを確認するとホッとしたのか息を吐いて、おもむろに一緒に歩きだした。
僕は、香奈姉ちゃんのその挙動不審さに違和感を感じてしまい口を開く。
「どうしたの? 誰か知り合いでもいたの?」
「ん? なんでもないよ。今日もバイトなのかなって思ってね」
香奈姉ちゃんは、どこか寂しそうな表情でそう答えた。
香奈姉ちゃんのその態度からして、相手をしてほしいんだろう。
気持ちはわかるけど、受験勉強をしているであろう香奈姉ちゃんの邪魔はできない。
「うん。バイト…かな」
「そう……」
香奈姉ちゃんは、ギュッと僕の手を握ってくる。
そんなに力強くはない。
だからといって、弱々しくもない。
それは、まるで離れたくないって訴えてくるかのような、そんな握り方だ。
そんな香奈姉ちゃんのリクエストにどう応えたらいいのか、僕にはわからない。
ただなんとなく、握ってきた手を握り返すことはできた。
たぶん、香奈姉ちゃんは不安なんだと思う。
受験勉強のこともあって──
僕は、香奈姉ちゃんの抱える不安を和らげることはできるんだろうか。
最近は、そんなことばかり考えてしまう。
香奈姉ちゃんは、そんな不安をかき消すためなのか、ただ黙って僕の手を握っていた。
例えば、香奈姉ちゃんには僕以外にも付き合っている男がいるとか。
他にもあるらしいが、一番流れている噂はそれだ。
「なぁ、周防」
「ん? どうしたの?」
「西田先輩って、今付き合っている男の人っているのか?」
まわりの男子たちの噂を聞いてなのか、慎吾がそんなことを聞いてきた。
ただでさえ、香奈姉ちゃんは普通に見ても、可愛いくらいの美少女だ。
1日でも放っておいたら、必ず男子から告白されたり、ナンパされたりする。
最近では僕がいるから、そんなことは少しは減ったが……。
とにかく。
なんのことかわからない僕には、まさに寝耳に水だ。
「いや。いないと思うけど……」
僕は、香奈姉ちゃんのことを思いながらそう答えた。
断言はできない。
香奈姉ちゃんの交友関係については、僕にもわからないから。
「そうだよなぁ。西田先輩に限って、付き合ってる人はいないよなぁ。まぁ、噂はともかくとして、現実ってそんなもんだよな」
「うん。そんなものだよ」
慎吾の言葉に、僕は同調する。
とりあえず、そう言っておけば大丈夫だろう。色んな意味で──
僕と付き合っているだなんていう話になったら、それはそれで大変だから。
今の関係性でさえ、ギリギリのところで容認されているというのに。
「周防のことは、なんて思っているんだろうな?」
「僕にはわからないけど、『弟』みたいなものなんじゃないかな」
「『弟』?」
「うん。僕のことをよく『弟くん』って呼んでるし、そうなのかなって──」
「彼氏とは思っていないってことか?」
「どうなんだろ……。本人から聞いたことはないから、よくわからないな」
「そうか」
慎吾は、神妙な表情になる。
その表情はどこか訝しげだ。きっと疑っているんだろうな。
まぁ、放課後に学校にまでやってきて、一緒に帰るということを毎日のようにやっていれば、そんな評価になるのは当然だろう。
香奈姉ちゃんとは、内緒で付き合っているのだから、まわりにバレるわけにはいかない。
しかし女子校の文化祭にも誘われているので、バレるのは時間の問題だと思うんだけどね。
どう根回ししているのか知らないけど、バレないのだから不思議だ。
香奈姉ちゃんの通っている女子校って、意外と可愛い子が多いから、香奈姉ちゃんからよくヤキモチを妬かれてしまうんだよな。
僕自身、他の女の子に興味があるわけじゃないから、そこまでうるさく言われたことはないけど。
「俺的には、西田先輩は周防のことが好きなんじゃないかと思うんだが……。気のせいなのか?」
「僕の口からはなんとも──」
「まぁ、そうだよな。西田先輩って、基本的には誰にでも優しいから、1人にだけに好意を向けたりはしないよな」
慎吾は、そう言って明確な答えをはぐらかす。
どうやら彼にはわかっているみたいだ。
わかっていて、敢えて言わないようにしているんだろう。
慎吾なりに気を遣っている。
彼の本命が香奈姉ちゃんではないのはわかっているが、なんとなく申し訳ない気持ちになるのは、どうしようもないんだろうか。
「香奈姉ちゃんに限って、そんなことはないかと思うけど……」
これも断言はできない。
正直なところ、香奈姉ちゃんの気持ちだけは、僕にもよくわからない。
「まぁ、ともかく。一つだけ言えるのは、俺が告白しても断られるのが関の山だっていうのは確かってことだな。残念ながら」
「………」
これに対して僕はなにも言えなかった。
慎吾が言うのだから、それは間違いないのはたしかだけど。
香奈姉ちゃんの気持ちは、おそらく簡単には変わらない。
どこで僕のことを好きになる気持ちが芽生えたのか、まったくの謎だ。
そもそも一緒にお風呂に入るだなんて、幼い頃には何回かあったけど、お互いに羞恥心が芽生えてしまって中学生くらいになってからやめたような。
「──さて。次の授業は体育だな。準備しないとな」
「そうだね」
僕は、体操服を着替える準備をする。
別に慎吾に話しかけられたから用意したっていうわけじゃない。
ちゃんと準備をしておいたものだ。
そこのところは、補足しておく。
本来なら更衣室で着替えるものだが、男子校には女子がいないため、教室で着替えることも許されているのだ。
女子校もだいたいは同じじゃないかと思う。
僕は着ている制服を脱いで、体操服に着替え始めた。
放課後。
今日も香奈姉ちゃんたちが校門前で僕のことを待つんだろうな。
それがもう日常風景になってしまっているのが、なんとも言えないわけだが……。
「それじゃ、周防。今日も、バイトよろしくな」
「うん。よろしく」
僕は、そう言って先に行く慎吾を見送る。
慎吾は、バイトの前に部活があるからだ。
バイトのことはきちんと伝えてあるから、どちらにも支障をきたすことはない。
僕の場合も、一旦家に帰って準備をしてから向かうのだが……。
学校を後にし、校門前まで行くと、やはりというべきか香奈姉ちゃんが立っていた。ちなみに、今日は1人だ。
これも定番だけど、まわりには男子生徒たちがいる。
香奈姉ちゃんは、こちらに気がつくと嬉しそうに笑顔を見せて近づいてきた。
「やぁ、弟くん。待ってたよ。一緒に帰ろう」
その可愛い制服姿は、もう見慣れてるというのに、ついつい視線を逸らしたくなる。
元から短めのスカートとか、そこから覗く脚とか。
色んな意味で香奈姉ちゃんは、完璧すぎるのだ。
「うん」
僕は、笑顔を見せて頷いていた。
香奈姉ちゃんは、迷うことなく僕の手を握ってきて、そのまま走りだす。それこそ、駆け抜けるかのように──
そんな勢いで走りだしたら、スカートがめくれて中の下着が見えてしまうよ。
香奈姉ちゃん自身は、まったくと言っていいほど気にならないのか、走り続けている。
やはりと言うべきか、スカートは風でめくれてしまい、下着がチラリと見えてしまった。色は──言わない方がいいだろう。この際だから、見てないフリをしておこう。
途中で走るのをやめると一旦立ち止まり、何を思ったのか左右を確認しだす。
誰もいないことを確認するとホッとしたのか息を吐いて、おもむろに一緒に歩きだした。
僕は、香奈姉ちゃんのその挙動不審さに違和感を感じてしまい口を開く。
「どうしたの? 誰か知り合いでもいたの?」
「ん? なんでもないよ。今日もバイトなのかなって思ってね」
香奈姉ちゃんは、どこか寂しそうな表情でそう答えた。
香奈姉ちゃんのその態度からして、相手をしてほしいんだろう。
気持ちはわかるけど、受験勉強をしているであろう香奈姉ちゃんの邪魔はできない。
「うん。バイト…かな」
「そう……」
香奈姉ちゃんは、ギュッと僕の手を握ってくる。
そんなに力強くはない。
だからといって、弱々しくもない。
それは、まるで離れたくないって訴えてくるかのような、そんな握り方だ。
そんな香奈姉ちゃんのリクエストにどう応えたらいいのか、僕にはわからない。
ただなんとなく、握ってきた手を握り返すことはできた。
たぶん、香奈姉ちゃんは不安なんだと思う。
受験勉強のこともあって──
僕は、香奈姉ちゃんの抱える不安を和らげることはできるんだろうか。
最近は、そんなことばかり考えてしまう。
香奈姉ちゃんは、そんな不安をかき消すためなのか、ただ黙って僕の手を握っていた。
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