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第二十四話

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次に楓の部屋に入ってガサ入れをした時には、あの時のエロ本はなかった。
私に見つかったのが相当堪えたみたいだ。

「やっぱり無いか。もしかして、風見君に返しちゃったのかな?」

あのエロ本の中身、私が一番気になってたりするんだけど……。
まぁ、無いものを探したってしょうがないとは思う。
だけど内容はある程度把握している。
それを思い出して、一人ボソリと呟く。

「弟くんは、あんな格好をする女の子が好きなのかな?」

たしか裸体で両胸を揉みしだくように手で押さえ、下半身はM字開脚(?)をして大事なあそこを見せつけて──
とりあえず、服を脱いでやってみようか。
せっかくだから、楓の部屋にある鏡の前で試してみようと思い、そんなポーズをとってみる。
これで楓は喜んでくれるだろうか。
…ていうか、なんで楓に見せつける前提なんだ?

「やっぱり、やめた方がいいよね。こんな格好してたら、弟くんがびっくりしちゃうだろうし……」

そう思うと、よけいに恥ずかしくなってしまう。
楓が帰ってくる前に──
と、そう思っていたのも束の間。
いきなり部屋のドアが開いた。
開けたのは、もはや言うまでもない。楓だ。

「ただいま~」

そう言いながら、楓は部屋の中へと入ろうとして──
私の姿を見た途端、しばらくの間沈黙する。

「っ……!」

そして、我を取り戻した後、慌てた様子で違う方向に視線を逸らし部屋のドアを閉め、入るのをやめた。

「あ……。その……」
「お、弟くん⁉︎ これは、その……。深い意味はなくて……」

あの時のエロ本に写されていたポーズをそのままやっていたため、なんの弁明もできない。
この場合は、落ち着いて服を着た方がいいのかな。
──ダメだ。
頭が混乱しちゃっていて考えがまとまらない。

「ごめん! とりあえず、僕は一旦部屋から離れた方が──」
「大丈夫だよ。ふ、服を着るだけだから。向こうを向いていてもらえれば、その…入ってきても──」

楓の部屋なのに、なんで楓が部屋を離れなきゃいけないんだろう。
部屋を出なきゃいけないのは、本来は私の方だ。

「う、うん。わかった」

楓は落ち着きを取り戻し、なんとか部屋へと入ってくる。
入った瞬間、私の方ではなく向こうを向いていた。
私は、脱いだ服をゆっくりと着ていって、だんだんと落ち着いていく。
楓から変なリクエストをされる事が前提とはいえ、あんなはしたない格好をしてしまうなんて……。
恥ずかしくて、まともに楓の顔を見れそうにないかも。

「ど、どこまで見たのかな?」
「え? なんのこと?」
「見たんでしょ? 私のその……。はしたないポーズを」
「それって、たしかエロ本に載ってた──」

楓にそう言われてしまった途端、私はなんとも言えないくらい恥ずかしい気持ちになる。

「やっぱり見たんじゃない! もう!」

これが私の部屋だったら、部屋のドアをノックしてからとか色々と言えたのかもしれないが、楓の部屋だったからこれ以上は言えなかった。

「なんか、色々とごめん……。なんて言うか、その……。香奈姉ちゃんは、そんな趣味があったんだね」
「っ……!」

そう言われた途端、恥ずかしさのあまり楓の顔が見れなかった。
楓からそう言われてしまうのは、かなりショックだな。

今日の夕飯は、唐揚げと味噌汁らしい。
準備をしている楓を見て、私はふと訊いてみる。

「今日は、唐揚げなの?」
「うん。朝早くに漬けといたんだよね」

楓は、なんだか嬉しそうにそう言っていた。
どうやら、とても楽しみにしていたみたいだ。
ちなみに、私の家も今日の夕飯も唐揚げなんだけど……。
こんな時は、どうしたらいいんだろう。

「奇遇だね。今日は、私の家も夕飯は唐揚げなんだよね」
「そうなの?」
「うん。たぶん味付けはほとんど同じだから、味自体はたいして変わらないとは思うんだけど。どうかな? 味比べをしてみるっていうのは──」

私は、そう提案してみる。
意外にも唐揚げの漬けダレの作り方は、楓から教えてもらったものだから、味は変わらないとは思う。
だけど楓には負けたくないなって思ってしまうあたり、姉的な存在としての立場がそうさせてしまうんだな。
あとは、楓からどんな返事がくるのか。

「味比べか……。僕は別に構わないけど……」
「いいの?」
「香奈姉ちゃんの料理はとても美味しいからね。是非食べてみたいなって──」
「本音はそれか……。わかったわよ。そういう事なら、負けていられないかな。──ちょっと待っててね。今から、作りに行くから」
「うん。楽しみにしているよ」

楓の言葉に、私は嬉しくなった。
今度こそ、絶対に負けないんだから。

やっぱり私は、楓には勝てないんだろうか。
出来上がったのをタッパーに詰めて持っていったんだけど、好評だったのは楓の料理だった。

「やっぱり楓が作る唐揚げは美味しいなぁ」

花音は、本当に美味しそうに楓が作った唐揚げを食べていた。
楓と同じ味付けで作ったはずなのに、どこが違うんだろう。
ひょっとして、持っていく時に冷めてしまったとか?
楓は、迷いなく私が作った唐揚げを食べている。

「お姉ちゃんが作った唐揚げも美味しいよ。花音は食べないの?」
「食べるけど……。お姉ちゃんのは、なんとなく食べ慣れてる味だから、その……」

花音は、そう言って恐る恐るといった様子で私の方を見てきた。
私が怒るとでも思っているのかな。
食べ慣れてる味、か。
そんな風に言われてしまったら、たしかに勝てないかも。
隆一さんは、普段から楓の料理を食べてるのかと思うと、なんだか羨ましいな。
私も、もっと楓の料理を食べたいと思うし……。

「私のは、食べ慣れてる味、か。弟くんのと、同じ味付けにしてるはずなんだけどな~」
「楓のは、どちらかというと外食をしてるような感じで、お姉ちゃんのは、家庭的な味っていうか……」
「そっか。私のは、家庭的、か」

それのどこに違いがあるんだろう。
要するに、私の料理には新鮮さが足りないってことなのかな。
そういえば、花音はあまり料理とかはしないかも。
どちらかと言えば、私が常に料理をしてる形だ。
周防家も、主に楓が料理を作っているんだろうけど。
そう考えれば、私が楓のことを好きになる理由も自ずとわかってしまうくらい。

「香奈姉ちゃんの料理はとても美味しいよ。僕には、香奈姉ちゃんの料理が外食をしているかのような気分になれるよ」
「そうかなぁ。私には、そんな風には──」

花音は、疑心暗鬼な表情を浮かべる。
妹よ。
普段から私の料理を食べ慣れてたらそうなるのだよ。
楓の言葉に嘘はないから、それが事実なんだよ。

「作った方としては、美味しいって言ってもらえれば一番嬉しいんだけどね」

私は、花音の顔を見てそう言っていた。
花音からは、どんな感情が奥底にあるのかは知らない。だけど──

「それはまぁ……。お姉ちゃんの料理も美味しいけど……」

花音は、恥ずかしそうに表情を赤くしてそう言った。
いつか花音にもわかる日がくると思う。
彼氏さんとかができた時には、絶対に──
ちなみに、楓と私のどちらの料理が美味しかったかという答えについては、でなかったらしい。
私的には、勝ったと思いたいけど……。
実際は、そんなに甘くないか。
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